見えてくるもの 3
実は注射が怖いシュウは目にシワが寄るぐらい力強く目を瞑ると、トキマサはシュウの腕にそっと針を刺していく。
その半透明の注射器の中に、朱色にも見えるような鮮やかなシュウの血液が吸い込まれていく。
「よし。そんなに時間はかからんから、少し待っていてくれ」
机に置いてある黒い箱のような物の扉を開け、中に注射器ごと入れたトキマサは、何かボタンを押すとシュウに向き直って話し始めた。
「いいか、シュウ君。コースケ君とナオヤ君もよく聞いておいてほしい。ワシが作った薬は全部で5つ。細胞超活性化薬、細胞共同化誘導薬、脳波電感増強薬、細胞共振誘導薬、細胞光反射調整薬……この5つだ。覚えておくんだぞ?」
黒い箱のようなものからピピピッと音が鳴ると、トキマサは中から注射器を取り出し、部屋の明かりを暗くすると天井からレーザー光による3Dホログラムが映し出される。
「シュウ君には細胞超活性化薬が打ち込まれているが、コレは想定をはるかに上回る効果が出ているようだ……何があったのかは分からないが、一つ一つの細胞が普通ではあり得ない程の電気を帯びている」
「はい……打たれたときにライトが倒れてきて、そのへんの薬品とかばら撒いて全身感電した覚えが……」
「それだ」
トキマサ曰くライトの電流がシュウに流れたことにより、元々の薬の効果にプラスして、代謝が行われるときに細胞そのものが発電することが可能になったという。
そしてその元々の薬の効果というのは代謝やエネルギー効率、運動効率を驚異的に底上げするというもので全体的な身体能力の向上、主に動作や移動の速度を引き上げることを見込んだものだったが、電流が加わることで食事等のカロリー消費による運動をほぼ全て電気エネルギーの力で代用することができているとか。
それにより通常の見込み通りだと薬の効果が現れるには馴染むまでに数日かかるはずだったが、電気エネルギーの力により馴染む速さまでもが加速し、体に力が浸透した今もなおその力は指数関数的に上がり続けているという。
「シュウ君は至ってシンプルな力だな。その人知を超えた驚異的なスピードで動くことにより体内で自家発電し、その電気を応用することができるといったところか」
ちなみにさっきの血液を解析した現時点でのシュウが出せる予想最高速度は3597m/s,つまり約マッハ10の速度で移動できるということになるらしい。
「ま、そんな速さで町を疾走したら辺りはとんでもない被害が続出するけどな。ハッハッハ」
トキマサはなぜか笑っていた。
そして次はコースケの番になったので、同じように血を採り黒い箱に入れてホログラムを映し出す。
「コースケ君は脳波電感増強薬だね。自分の脳波の周波数の出力を調整することで他人の脳に直接干渉することができる。今までは周りの出す周波数を感知し電気信号に変換して思考や感情を読み取っていたようだが、他人の脳の周波数と同期し、権限を掌握してしまえば意のままに他人を操ることもできるだろう。また自分の周波数を他人に放つことでテレパシーのように無言でも意思疎通ができるはずだ」
トキマサは顎に手を当てながらホログラムをまじまじと見つめ、フムフムと頷いている。
コースケはまだ自分の知らなかった力を知ったことで開いた口が塞がらない状態だった。
「面白いな……ここからはまだ推測の域を出ないが、もしかすると思考だけでなく、幻覚や幻聴といった脳による錯覚も他人の脳の周波数に干渉することで故意に作り出すことができるかもしれんぞ……もしこれができたなら、かなりの武器になるな」
「俺そんなすごいことできるの…………」
ここでコースケはトキマサの帽子について質問を投げかける。
「そういえば、トキマサさんの思考だけはさっきから読めないんです。もしかしてその帽子のせいですか?」
トキマサは興奮していたのを落ち着け、静かに答える。
「ワシは科学者であり、元政府関係者でもある。まだ君たちは知らない方が良いこともあるんだ……それで混乱を引き起こしたら元も子もないからな」
「なるほど……すみませんでした」
「いいんだ。気になることはこうして言葉にしてできる限りモヤモヤを解消していこう」
そして次はナオヤの番だ。
同じく血液を吸い取り、黒い箱に入れて解析し、ホログラムを映し出す。
トキマサは少し目を見開いてコレもまた興味深そうにまじまじとホログラムを見回す。
「なるほど……ナオヤ君には細胞共振誘導薬と細胞光反射調整薬の2つが打たれているのか。だがここまで見事に調和して安定しているのは実に凄いことだ。あの5つの薬は本来全て一人に打つものとして開発していたが、それでは体が負荷に耐えきれず、命を落とす危険性があると見て一つずつに分けたんだが……」
トキマサはナオヤと交互にホログラムを見る。
「最悪どれか2つだけでも危険だと思っていたが、ここまで安定しているとは……共振誘導薬の恩恵が大きいと見られるか?」
ナオヤは首を傾げる。
トキマサは薬の解説を続けて話す。
「細胞共振誘導薬は、簡単に言えばそのすり抜けの力の元だ。物体と体の粒子レベルの振動を瞬時に同期させ、体を構成する粒子の間をすり抜けるようにするというものだ。そしてもう一つは光の透過率と屈折率を調整できるものだな。これにより透明化と蜃気楼のように自分の光を歪めたりずらしたりすることが可能だ」
「…………なるほど?」
ここでトキマサの顔が一瞬険しくなった。
何か異常でもあるのか、深刻な顔をしたがすぐにその表情を緩めた。
トキマサは額に手を当て、何やら考え込んでいる。
「……ま、まあこの力も面白いものだな。光の反射の波長をも調整できるようになれば、ありとあらゆる物に擬態することも可能になるかもしれん。ハッ……ハハハ……」
明らかにトキマサの様子が変だったが、問い詰めてもはぐらかされるだけで何も返事はなかった。
「ちょっと、何なんですか。苦笑いして、言いたいことあるんじゃないんですか」
ナオヤは少し呆れたようにそう詰めてみるも、トキマサはやはりまともに返事をしてくれなかった。
「ひとまずこれで検査は終わりだ。各々自分の力のことも分かっただろうし、そのリク君とやらを助けに行くとしようか。この国を守る第一歩として、君たち4人はなくてはならない存在だからな」
そう言ってトキマサは注射器3つを冷蔵庫に保管すると、書類などをすべて片付け、先に研究室を出ていった。
3人は、最後のトキマサの様子に不信感を感じながらも後をついていく。




