下校—リクの場合
校門を出てから、リクは嫌な気配を感じていた。
だが確信もないし、霊とかは信じていなかったので特に何も言うことはなかった。
だがその嫌な予感は的中した。
小型の銃を構えた男たちが急に現れ、横並びで歩いていたリクたちに銃を打った。
段々と意識が薄れていく中、リクたちは男たちに抱えられ、トラックに放り込まれたところで記憶は途絶えた。
「うーん……何だここ?」
あれからどれだけ経ったかは分からなかったが、目が覚めた頃にはリクは狭い部屋に手足を縛り付けられて寝かされていた。
(やばい……こんなのおかしいって、映画とかでしか見たことねえ状況だぞ、まさかそんなことあるか?!)
平静を装いながらもこんなことを思っているリクだった。
ふと部屋のドアが勢いよく開く。
「おー目覚めたか。調子はどうよ、ヘッ」
(ん?)
リクはドアが部屋側に開くタイプだと気づき、反対に面するドアのところに"実験室2"と書いてあるのを見逃さなかった。
「何だこれ、何するつもりだ?」
「そんなん聞かれて素直に答えるやつがあるか。バカなガキだ」
男が懐から何かを取り出すと、リクの右腕を触りだした。
「触んな!気持ち悪い!」
「うるせえ、暴れんなガキ。大人しく寝てろ」
「そう言われて素直に聞くヤツがいるかよ、バカ野郎」
そのリクの言葉は男の気に触れたようだった。
男は懐から取り出したそれをリクの右腕に打ち込むと、それをポイと投げ捨て、腰に巻いてある様々な道具を取り出し始めた。
「な、何を……」
「もうブツは打ったんだ。これなら何してもいいんだろぉ?存分に楽しませてもらうぜぇ?」
男が取り出したのはメスやナイフ、ハサミ、ノコギリと言った鋭利な刃物ばかりだった。
先のドアに書いてあった"実験室2"ということから自分が実験台にされている事は分かったが、リクはどういう類いの実験なのかをここでようやく理解した。
(ブツを打った……ってことはつまりアレを打ってから俺をバラバラに切り刻んでどうなるか実験しようってのか?!冗談じゃねえ!!!)
手足を縛り付ける金具はどれだけ力んでもびくともしない。
もうここで切り刻まれるしかないのかと、リクは恐怖を越えて虚無の状態になっていた。
薄暗い部屋の明かりを反射する銀のナイフが、リクの首をもう少しで切り裂こうとする時外で何かが壊れるような爆発音がした。
(何だ?)
「あ?ったく、アイツまた薬間違えたりしてねえだろうなぁ。いつまでたってもポンコツは治らねえもんなのかよ、勘弁してくれ」
(アイツ?薬?他にも実験室が?って、もしかしてシュウとコースケとナオヤも……?まずい!)
再び抜け出そうと試みるもやっぱり無駄に終わる。
男はイライラしながらもドアを開け、左右に首を振って見回すと急に青ざめた顔になり、すぐどこかに走っていってしまった。
「おい!実験室1で事故だ!被験体がいない!事故って死んだか逃げたんだ!至急対処しろ!」
「は?事故……?3人のうち誰かが……事故だ?」
リクは内から込み上げてくる熱いものにすっかり飲み込まれてしまった。
「ダチに何した?このクソ野郎が……」
手足を縛り付けていた金具が鈍い音を立てて壊れた。
やっと体が自由になったリクはゆっくりと部屋を出た。
「なっ、お前何で……」
「知らねえよ。てめえが変なもん打ったからだろうが」
「今すぐ部屋に戻れ!死にてぇのか?」
「その言葉そっくりそのまま返すぜ、クソ野郎共」
事故の知らせを聞いて駆けつけた他の男たちもいる中、狭い通路で睨み合いが始まった。
「もういい、薬は勿体ないが殺せ!容赦は要らん!」
そして一斉に構えられた銃から弾丸が飛んでいく。
リクの体から赤い物体が出てくると、板のようになってすべての弾丸を弾いた。
「はぁ?何だそれぇ……?」
「んなのありかよ?!ずるいだろ!!!」
「だから知らねえつってんだろ。そこのヤツがやったことだ、恨むならそいつを恨めよ」
そう言って男を指した指からまた赤い物体が勢いよく出てくると、先がいくつも分岐して男たちを串刺しにした。
「なんかすげーな。意外と悪くないかもね」
一瞬にしてあっけなく死んだ男たちを見て、リクは鼻で笑った。
「口だけは勢いあったのにただの雑魚じゃねーか」
そう言って狭い通路に敷き詰められた死体の山を踏みつけながらリクは出口を目指して歩いていった。