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灯台下暗し 1

リクは知ってしまった。

この状況を整理して飲み込むにはまだ時間がかかりそうだが、まさか警察が一連の事に関わっていたとは、想像もつかなかった。


(ったく……俺はいつ帰れるんだよ!)


リクは一切の躊躇なく各指先からクネクネとうねる血液を出すと、それを全て警官に向ける。

警官は嬉しそうな顔で急に子供のようにはしゃぎだす。


「ハッ!お前は被験体02かぁ!アッハハハ!そうかそうかぁ!!!」

(これは完全にクロだな……ここでブチ殺しといた方がいいんじゃ……)


そして警官は小声で囁く。


「んじゃ、殺さない程度に狩るとしますかぁ」


そして素早く拳銃を引き抜くと、自分に迫りくるリクの血液の蔓を1ミリのズレもなく撃ち抜いていく。

弾が命中した血液の蔓は大部分が砕け、地面にボタボタとそのままの血となって落ちていく。


「は……?!」

「フフッ、まさかちょっと特別な力を手に入れたからって自分の格を持ち上げすぎてるとか……じゃねえよなあ?」


その警官の言葉はもろに図星だった。

多くのゾンビをこの力で倒し、今の自分に怖いものはないと思い込んでいたのだ。

だが、何の力も持っていないはずの"ただの"警官に攻撃を全て防がれたことで、リクのメンタルは大きく揺らいだ。


(どうしよう……こいつ強い。下手したら負ける……)


警官は全ての血液の蔓を撃ち抜いた後、狂気的な笑いを堪えられなくなる。


「ッハハハハハハハハハハハハ…………確か被験体02に使われたのは細胞共同化誘導薬……だっけか?」


警官は姿勢を低くしたところからリクの足元に素早く移動すると、リクの両足にくまなく弾を撃ち込む。

パトカーだけが点在する夜の町で、この戦いを目撃する者は誰もいない。

ただ銃声と警官の笑い声、そしてリクの叫び声だけが響き渡る。


「っ、がああああああああああああああ!!!!!!」

「アッッッハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」


いくら傷がすぐ癒えるといっても、痛覚は元のまま。

数十発足に撃ち込まれたリクは足に力が入らなくなり、そのまま前に倒れ込んでしまった。


「ア〜ッハッハハハハハハッハァ〜!!!おいおい、あの薬はお前みたいなガキに使うにはもったいねえぐらい貴重な劇薬なんだぞぉ?そんなんでヘタレてんじゃねえ!!!」


警官は倒れたリクの背中に数発弾を撃ち込むと、リクの髪を鷲掴みにして持ち上げ、顔を近づけた。


「ほーら、早く立てよぉ」


そう言いながらリクの頭を前後左右に揺らしリクの感情を煽るも、リクは貧血で意識がほぼない状態だった。

自分の意志に反して血液があちこちから垂流しになっているのは、今のリクにとってはかなり気持ち悪く、思考がままならず、この世とあの世の狭間を彷徨っていると言ってもいいぐらい朦朧としていた。


「ああ、そっかぁ。薬打たれたばっかでまだ馴染んでないのかぁ……悪いなぁ!」


鷲掴みにしていた髪を振り下げ、コンクリートの地面に叩きつける。

リクはピクリとも動かなくなってしまった。

警官の無線に他の警官から通信が来ると、警官はリクの方を見向きもせず、すっくと立ち上がり、再び駅の壁に寄りかかって応答する。


「おい、流石にやり過ぎなんじゃないのか?まさか殺してねえだろうな?任務はあくまで生け捕りだぞ」

「何言ってんだ。俺だってきびしーい試験受かって警官やってんだぞ、任務ぐらいちゃんと分かってら。悪かったよ、つい遊んじまっただけだ」


警官はさっきまでの狂気的な態度とは真逆の落ち着いた様子で倒れたリクを見つめる。


「これで良かったのか……?」


警官は自分が幼い頃から憧れていた職にやっと就けた時のことを思い出していた。


(警官として国民の安全を確保し、地域の治安維持、向上に努める事を誓った。それが俺の思い描いていた、憧れていた警官という姿だった。でも……)


誰もいない町を照らす夜空を見ていた警官の目は再びリクに落ちる。


「いやいや、何考えてんだ。警官は国の為、言われたことを遵守する。その為に邪魔なやつは排除する……それだけのことだろ」


警官の心は、理想と現実の狭間で揺れ動いていた。

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