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帰宅 8

"それ"の腕や首、足には切り傷や擦り傷がたくさんあったが、そこから透けた血管の色が緑や紫といった、生物としてはおかしい色に変わっていくのが見えた。

それは傷口から瞬く間に全身に広がっていき、人を蝕む。


「おい、あれ……」

「嘘だろ……あれって感染するのか?」

「うぅ……あの人の心の声がなくなっていってるよ……」


目の前で逃げようとしていた一般人があっという間に周囲の人を襲うゾンビに成り果ててしまうのは、悲しさと同時に恐ろしさで全身が震えた。

今ここにいる人たちも、無関係とは言えない。

3人は大声で周囲の人々に今すぐこの場を離れることを呼びかける。


「早く逃げて!さっきの見えましたか?!襲われたらあんなふうにゾンビになっちゃうんですよ?!」

「クソ、どいつもこいつも目先の好奇心だけに振り回されやがって。事が起きた時にはもう手遅れなのが分かんねえのか?」

「もしかしたらリクのところのヤツが一般人を襲ってゾンビ化したものがこっちで増えたのかもしれないね。もともとゾンビの個体はそこまで多くなかったはず」


シュウが主体となって人々に呼びかけるも、スマホのレンズをゾンビに向けて面白がって動画を撮ったり、襲われている人を助けようともせずゾンビ化するところをまじまじと見て気持ち悪いなどと貶している人がその場に残っていく。

まともな人はもうとっくにこの場を離れて逃げていた。

そしてふとある心の声が聞こえたコースケは辺りを見回す。

そこには慌てて警察に電話する女性がいた。


「もしもし?!今人がゾンビに襲われてて……襲われた人がゾンビになってるの!!助けてください、こんなのどうにもできないわ!!」

「何やってるんですか?!警察に電話を?!」


女性は少し声を荒げながらもコースケと話す。


「当たり前でしょ?!こんなのおかしいわ……あなたなんてただの子供でしょう?!なんで逃げないのよ……?!」

「僕たちはただの子供じゃないからです。それに、あのゾンビの前では警察も手が出せないと思いますよ。僕たちはすでに経験済みですから、あれは人間が相手していいものじゃないです」

「もう、何言ってるのよ……」


「とりあえず逃げてください」と最後に言ったコースケはシュウとナオヤの元へ戻る。

シュウがゾンビを相手しようにも、残っているバカな野次馬が意外と多く、心置きなく戦うことができないという状況だった。

さっきの女性は、どうもシュウ、コースケ、ナオヤの事が気になりその場を離れられずにいた。


(何よ……どういうこと?すでに経験済みって、一体何者だっていうのよ?)


ナオヤはその場を一向に離れようとしない野次馬たちに苛立ちを募らせていた。


「もういいだろ。それで勝手に襲われるんなら助けないだけだ」

「いやでも流石にそれは……」


シュウも苛立ちを覚えながらも見殺しにはできないとナオヤと対立し始める。


「シュウ、あのゾンビを倒せるのはこの中ならお前だけなんだよ。あんな邪魔な奴らを気にしてたら守れるものも守れない」

「あーもう分かったよ!」


シュウの体が青い稲妻に包まれる。

静寂が訪れ、辺り一帯が静止していく。


「1、2、3……何体いるんだこいつら?まあ手当たり次第ぶっ飛ばせばいいのか!」


シュウはゾンビの横を通るように蛇行して走りながらその顔面に音速パンチを喰らわせていく。

拳が顔面にズブッとめり込んでいき、拳を振り切ったあとは風船が破裂するように割れるが、シュウの速さの前では顔面がめり込んだところで静止する。

1体、また1体とひたすら殴っていき、今いる全部を殴り切ると、周りの野次馬をゾンビの体液がかからない範囲まで移動させる。

そして力を解除すると、ほぼ同時に大量のゾンビの顔面が破裂し、水風船のように中身が地面にビシャビシャと撒き散らされていく。


「うぇ、やっぱ気持ち悪いなコレ……オェ……」

「同感……ウエェ……」


コースケとナオヤは嗚咽が再発した。

その一瞬の出来事に野次馬たちは一旦フリーズした。


「あれ?なんか場所動いてね?」

「なんでだろ~、てか何あれキモくない?」


野次馬たちはシュウの事など全く知らず、気にする様子もなく大量のゾンビの死骸の写真を撮ると一斉に去っていった。


「ケッ、あの液体にかかってたらゾンビになってたかもしれないってのに、ありがとうもなしはひどくないか」


と言いつつ両手を交互に上下させて手を叩きながら、一件落着と言わんばかりにシュウが戻ってくる。

少しため息をついたコースケとナオヤはほっと一息、上がっていた肩を下げる。


「にしても速いな。マジでどんな速さで動いてんだよ。ちょっと分けてくれよズルいぞ」

「シュウが倒してるのを見てるだけってのは中々罪悪感というか……申し訳ない気持ちになってくるよ……」


シュウはまんざらでもない様子でペコペコしながら頭を掻く。


「いやぁ……それほどでもあるよ。まあでも、お二人の力だって俺にはないものだし、これから大活躍するかもしれないじゃない?そう早まるなって」


さっきとは別人のように和やかな3人を見ていた女性は、口を開けたまま3人の方に近づいていく。


「ちょっと……あなたたち何者なの?あんな……あんな、あれを一瞬で……」


特にシュウを見ながら女性はあたふたしている。


「うーん、何者かと言われれば……普通に高校生ですかね?訳アリ高校生、とでもいいますか」

「あなた……人間なの?それともあれみたいに違う何か……」

「いやいやいや人間ですよ〜失礼な〜もう」


少し近所のオバハンっぽく話すシュウをコースケとナオヤはキンキンに冷えたビールぐらいには冷たい目で見ていた。

女性は開いた口が塞がらなかった。


「あんなに速く動ける人がいるなんてね……とにかく、助けてくれてありがとう。私はもうこれで帰るけど、あなたたちも気をつけるのよ」


そう言って女性は少し逃げるようにその場から離れていった。

そこに少し離れたところから声が聞こえてくることに3人は気付いた。


「なんか聞き覚えのある声のような……」

「気のせいではないはず、場所も場所だしな」

「うん、ちゃんと聞こえるね」


少しずつその声は近くなってくる。


「おーーーーーい、お前らそこにいるだろーーー?」

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