竜騎士の憂鬱
ファイナルファンタジーⅣとエヴァンゲリオンのネタあります。知らない人いたら意味不明かもしれません。ごめんなさい。
俺の名前はカイル。職業は竜騎士。
戦闘力は高い。自分で言うのもなんだが、これまで何度も討伐隊を率いて生還してきた。被弾するターンも少なくて、意外と使い勝手のいいオールラウンダーだと周囲からも評される。
顔面偏差値だって、それなりに自信がある。剣の訓練場で汗を流す俺を見て、女子の隊員が「クールで影があるイケメン」なんて囁いているのを、耳にしたことも一度や二度ではない。
地位も名誉も金も手に入れた。王国騎士団の副隊長という肩書きは、それだけで周囲の尊敬を集める。管理職手当、危険手当、時間外労働手当……いろんな手当が毎月きっちり支給される。結婚すれば扶養手当もつくし、子どもが生まれれば王からお祝い金だって出る。
それなのに――どうして、俺はこうも虚しいんだろうか。
「なぜ、俺はモテないんだ……」
吐き出した言葉は、まるで錆びた槍のように重かった。三杯目のエールを一気に喉に流し込む。炭酸が鼻の奥に抜ける感覚だけが、酔いを鈍らせる。
ここは王都でも古くから続く酒場だ。石造りの壁に無数の剣や槍が飾られ、燭台が柔らかい光を落としている。向かいに座っているのは、同僚の戦士レオン。気楽そうにエールを飲むその姿が、今の俺には少し羨ましい。
「お前、俺の相談、聞くつもりないだろ?」
俺はため息まじりに問いかける。
レオンは口元を拭い、ジョッキを高々と掲げた。
「もちろん、聞いてるよ。なぜお前がモテないのか、だろ?」
「そうだ。俺は割と、いや相当優良物件だと思うんだ。それなのに、全然女が近寄ってこない……どうしてだ?」
あの訓練場で交わした視線も、遠巻きの噂話も、全部幻だったのか。そんな不安が胸の奥に巣くう。
レオンは大げさに肩をすくめた。
「アレがいけないんじゃないか? ほら、若い時に『俺は暗黒騎士だ』とか言ってただろ。女子って暗黒とか言われると、ちょっと引くんだってよ」
「あの頃は……」
言葉に詰まる。思い出すのも恥ずかしい。――あの頃は、思春期にかかる病を引きずっていたのである。
「それと、戦闘に入るとぴょーんと飛んでいくだろ? 女子は『あ、私を置いてくんだ』って思うらしいぞ」
「そんなこと言われても……」
唇を噛む。俺の槍は、ジャンプしないと本来の威力が出ない。空に舞い上がり、槍先を突き下ろす。その一撃に何度救われたか分からない。でも――戦術が、評判を落としていたなんて。
「普通に槍で刺しても、魔法使いが杖で殴るよりも弱くなるし……」
小さく呟いた。アイデンティティが否定される気がした。
「うんうん、仕方ないよな」
レオンは相槌を打ちながらも、どこか苦笑している。
「でもさ、僧侶とか召喚士は、前衛の後ろにいて守ってもらうのが基本じゃん? 竜騎士って下手すると後衛に混ざることもあるだろ。あれがダメなんだよ」
「それって、逆に回復の手間が省けるって考えないのか?」
「んー……お前は重装備だから被弾しても、小ヒールで済むんだよな。でも後衛は基本ローブとか軽装備だからさ。『小ヒールで十分なのに、大ヒールかける羽目になった』って文句言うんだってさ」
「……厳しくね?」
「ああ、あと名前がいけない。竜騎士でカイルってさ、なんとなく裏切りそうなイメージあるらしいぞ」
「……あいつか。俺と一文字違いの、あの裏切り者の竜騎士のせいか……」
「有名だからな。お前もそのとばっちり食らってるんだろうな」
「……よし。名前を変える」
「今更?」
「今日から、渚カヲルにするわ」
「いや……世界観違うから」
ちなみに、カイルが使っている槍は『ロンギヌスの槍』って名称になりました。