加藤、家を買う!?気づけ姉弟の絆!
はじめに、この物語は実話に基づいたフィクションであり実在の人物や団体などとは関係ありません。
【ここにでてくる登場人物の発言に関してはほぼノンフィクションですのでそれを踏まえて上でご覧になって頂けるとより笑えると思います】
愚痴多めのお話なので苦手な方はブラウザバッグをおすすめします。大きく捉えず、ゆる~く楽しみながら読んでいだけると幸いです。
ヨクアル工場の喧騒の中で、俺は今日も機械のように手を動かしていた。ベルトコンベアは無情に製品を運び、その単調な作業の合間に、ふと、漠然とした思いが頭をよぎる。家を買う。長男だから、いつかは実家を継がなければならないという義務感。そして、築年数の経った実家が、大きな地震でも来たらあっという間に崩れてしまうのではないかという不安。それらが混じり合い俺の心を占めていた。
昼休憩、食堂で海野、久世原、禄がいつものように賑やかに振る舞っている。
「いや〜、カトゥ俺さ、この前の健康診断の結果見て、マジで食生活見直そうと思ってさ!」
海野が大げさに腕を組みに俺に言った。片手にはカフェオレが握られている。
「もうすでに食事も徹底して階段も上り下りも家でやってるからね!!」
(べつにお前健康診断前も後も全く食生活気をつけてないだろ!それに言ってるそばからそのカフェオレはなんなん!?糖分が一番良くないだろ!あとその体型で家で階段の上り下りすな!家族にめいわくやろ!!)
禄がそれに続く。「僕もね最近懸垂器具買ったんだぁ!やっぱりイケオジでい続ける為には剥げない事と太らない事なんだって!YouTubeでピロゆきが言ってたんだ!」
(いや禄 あんた今何言ってるか分かってる?隣にいる海野〈デブ〉と久世原〈ハゲ〉に間接的に悪口言ってるんやぞ!あとイケオジでい続ける為にはって、あんたもう既にイケオジじゃないんだけど…何で今はイケオジみたいなスタンスで話してるの!?)
久世原は、そんな二人の会話には一切耳を傾けず、スマホで水着の女キャラがダンスするリズムゲームに熱中している。(いやっ!きっも!40越えたおっさんが身体でビートを刻みながらエロゲーやってるのきっしょ※これは偏見です)
いつものやり取りに、俺は心の中で毒づきながらも、どこか上の空だった。家を買う。二世帯住宅にすれば、親の面倒も見られるし、俺たち家族も安心して暮らせる。だが、その頭の片隅には、どうしても引っかかる存在があった。
週末、俺は実家に向かった。母と父に、漠然と考えていた二世帯住宅の構想を切り出す。両親は少し驚いた顔をしたが、すぐに喜んでくれた。だが、話を進めるうちに、そこに俺の姉が顔を出した。
姉は重度の知的障害者だ。その日も、俺たちが真剣な話をしている最中に、突然テレビのチャンネルを変えろとリモコンを要求したり、冷蔵庫から勝手にジュースを出してきて床にこぼしたりと、お菓子がない事に怒ったり、昔以上にワガママになったように感じた。
(こいつは本当に昔から成長してないな。ずっと子供のままだ。6歳の息子よりもワガママだ。うちの娘や息子、そして嫁にも、この生活を理解してもらうのは難しいんじゃないか……)
親との会話を中断し、姉の行動をなだめながら、俺は内心でそう思った。そして、二世帯住宅の話を、やっぱりやめようか、と考え始めていた。家族みんなで暮らしたいという気持ちと、現実の厳しさとの間で、心が揺れる。
ある日、俺は有給を取っていた。特に用事があったわけではないが、少しでもこの現状から離れたかったのかもしれない。気分転換に筋トレと読書をしていたら息子の保育園の迎え時間だになり、そのまま保育園へと向かった。
息子を連れて帰ろうとすると、園の先生が俺に声をかけてきた。
「あー、加藤〇〇(息子の名前)くんのお父さん?苗字を見たときから、もしかして、まさかと思ってたのよ」
顔を上げると、そこにいたのは年配の女性の先生だった。不思議に思って話を聞くと、先生はかつて、俺の姉がこの保育園に通っていた頃、面倒を見てくれていたらしい。そして、当時は新任だったこともあり、初めて知的障害の子供を受け持ったこともあって、姉のことを鮮明に覚えていてくれたというのだ。
先生は、懐かしそうに目を細めて語り出した。
「お姉ちゃん、いつも〇〇(加藤の名前)、〇〇って、弟さんのこと呼んでたもんね。いっつもおネェちゃん、おネェちゃんって、あと追って、おネェちゃん大好きだったよね、〇〇くん」
先生の言葉を聞きながら、俺はハッとした。保育園の頃の記憶あまりないが、小学生の頃は姉とよく遊んだり、映画を見たり、そんな幼い頃の記憶が、鮮明に蘇ってきたからだ。
保育園からの帰り道、俺の目から涙が溢れ出した。それは、自分の愚かさに気づいた悔しさの涙だった。
(変わったのは、姉じゃなかった……自分だった……。いや、自分が成長して変わるのは、決して悪いことじゃない。でも、姉はずっと変わらず、俺にとっての姉であり続けてくれていたんだ。そして、姉にとっては、俺はずっと、あの頃からずっと今も弟だったんだ……)
当たり前すぎてこれまで考えもしなかった事実に、俺は今更ながらに気づいた。目の前にいる息子が、ふと姉と重なる。変わらない優しさ、変わらない愛情。それに気づけなかった自分の傲慢さ、浅はかさに、俺は深く反省した。
その夜、俺は家族に話した。嫁、そして思春期に差し掛かった娘、まだ幼い息子。俺は、これまでの自分の悩みと、姉の置かれている状況、そして知的障害者と家族として暮らすことの難しさを、正直に、そして必死に説明した。
嫁と娘は、真剣な顔で俺の言葉に耳を傾けてくれた。話を終えると二人は顔を見合わせ、そして俺に思いもよらない言葉を投げかけたのだ。
「そんなの、全然大丈夫だよ」
加藤は、拍子抜けした。てっきり、難色を示されるか、あるいは躊躇われるかと思っていたのだ。
多分、嫁と娘は、俺の必死さに感化されて情も移り、そう答えてくれたのかもしれない。理屈ではない、心の繋がり。でも、俺はそれでもいいと思った。いや、それが何よりの答えだった。
俺は、強く決意した。嫁、娘、息子、両親、そして姉。このみんなで家族として共に暮らしていきたい。二世帯住宅を建て、みんなで支え合って生きていく。きっとこれからも、色々な問題が山積するだろう。困難も待ち受けているに違いない。それでも、俺たちならきっと、皆で乗り越えていける。加藤はそう強く心に誓った。家族という【灯】が俺の心に温かく宿ったのを感じた。
1年後、加藤は両親、姉とも一緒にくらしていた…
今日も一日、変な奴らに負けずに戦い抜く。その誓いを胸に、俺は家を出る。「あっ◯◯!(加藤の名前)いってらっしゃい!」姉が言う。「行ってきます」加藤が返す。(今日もがんばろう…)
……ご愛読ありがとうございました。