表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/33

第五話 天下布武

「で、じゃ。わしは天下統一まで今一歩のところで本能寺で死ぬ」

 いつまでやるつもりかなあ。


「それは知ってるけど、ノブナガじゃなくて織田信長ね」

 ボク、イエヤスが突っ込んでも、無視するようにノブナガが続けた。


「前世の記憶が戻ってからのう、いろいろ考えてみたのじゃ。わしの後、秀吉と家康は天下を取って天寿をまっとうしておる」


「うーん、それも知ってるけど。あ、そうだ、漫画でもラノベでもそうだけどさ、主人公補正ってあるよね。二人ともそうだったんじゃない。めっちゃご都合主義で運が良かったよね」


 ボクは話をなんとかそらそうとして、ヒデヨシも続けてくれた。

「豊臣秀吉の出世ってのもさ、漫画みたいに超ラッキーマンだったもんな」

 さらにボクが言った。

「織田信長だってある意味ラッキーマンだよ。桶狭間に始まって何度も運に助けられているし」


「なにをぬかすか。それは全部わしの実力じゃ。それに最後は火の中で腹を切ったのだぞ。なにがラッキーじゃ」

 うわ、まずった。それなら、ディスってやろうかな。


「ああそっか。途中で死んじゃうのは主人公じゃないよね。っていうかほぼヴィラン?」

「ぐぬぬ。家康殿にそのように言われるとは……」


「ノブナガはさ、やっぱ天下なんか取れないんだよ。っていうかさ、いつまでこの中二病ごっこ続けるんだよ」

 ヒデヨシがムッとした声を出したが、ノブナガは動じない。


「うーむ。おぬしらは良いよな。天下を取っているのだからな。未練なく転生しておるのだろう。天下を取ってないのはわしだけじゃ。とにもかくにも、わしはおぬしらが藤吉郎、家康殿の生まれ変わりだろうがなかろうが、どちらでもよいのじゃ……幼馴染のよしみじゃ。天下布武を手伝ってはくれぬか」


 ああ、思い出したけど、信長様も結構、愚痴っぽかったっけ。


「ってかさ、現代で天下布武って何するつもりなの?」

 ボクはつい、変なことを聞いてしまった。


「はっはっは、よく聞け。わしは志半ばで転生者となったのじゃ」

「へ?」

 何言い出すんだ?


「また急におかしなこと言って。意味わかんないって」

 ヒデヨシはまたイラつき始めた。


「さて、クリームソーダのアイスがほどよく溶けてきておるな」

 ノブナガはストローで軽くかき回し、チュルチュルと吸い始めた。


「話そらすなよ」

「クリームソーダは美味じゃのう」

「そんな織田信長いるかよ」

「わしは昔からバテレンの物を好んでおったぞ」

「いや、ソーダ水にアイス載せるのは日本発祥だけど」

 ヒデヨシがマジメに突っ込みを入れた。


「そうであったか。それはともかく、じゃ。わしは転生者確定じゃ」

「だから何?」

 ヒデヨシはますますイラついている。


「まあ、トラックに轢かれたわけではないが、非業の死を遂げておるじゃろ」

「で?」

「ということは、何らかの恩恵があるはずじゃ」

「恩恵?」

 ボクが横から口を挟んだ。


「そうじゃ。不運にも志半ばで死んだ者は、転生先で最強のスキルをもらえるのが定番じゃろう?」


「はああ?」

 ボクとヒデヨシの気の抜けた声がユニゾンした。


「なーに、見ておれ。ステータスオープン!」

 そう言ってノブナガは右手の人差し指を空中にタップした。

「あれ、おかしいな」


「何やってんの?」

 ヒデヨシがあきれ顔で聞いた。


「いや、こうすれば普通、ステータス画面が出るものじゃろ」

「はあ? ラノベの読み過ぎだろ」

「うるさいわ。『信長転生 最強スキルで現代天下布武』ってタイトルまで考えたんだぞ」


 少しノブナガに戻ってきたかな。ちょっと突っついてみるかな。

「ふーん。でも今の日本で武力統一なんてありえないよね、平和が一番だよ」


「ああ、まあそうだがな……」


「あ、もしかしてヤンキー漫画みたいなこと考えてた?」

「あ、ははは……」

 ノブナガは笑ってごまかした。


「オレらヤンキーじゃないし。もう、話にならないだろ。飲み終わったら帰るぞ……」

 ヒデヨシはもうあきれを通り越して諦めの心境って感じでそう言った。


 でもノブナガは動じない。

「とにかく、だ。ステータスが出ないなら何らかの魔術スキルとかを付与されたのかもしれぬ。広いとこで試してみようと思う」


「マジで言ってる!? ノブナガやっぱりアホだ」

 ボクはなんとか笑いをこらえた。いくら生まれ変わりだとしても、それはあり得ないでしょ。

 

「名古屋港に出陣じゃあ!」

 うわあ、直情径行すぎだって。でもまあ、小さい時からこいつ、こうだったよな。今回も満足するまで付き合ってあげるしかないかな。


「おー!」

 ボクはこぶしを握って小さく(とき)の声を上げた。


「いやイエヤスまで何、調子に乗って……てかオレ、電車賃ないぞ」

「心配いらぬぞサル! わしが出してやる」

 ノブナガ、小遣いけっこう裕福なんだよね。


「え? それはちょっと……」

 ヒデヨシはきっちりしてる。あんなに金使い荒かった前世とはホント、様変わりだね。


「ボクの電車賃も出してね。あ、ここの払いもヨロシク!」

 ボクは気にしないけど。

 

「家康殿の頼みとあらば」

 

 まあ、こういうところだけは太っ腹で好きなんだけどね。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ