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第四話 清州同盟

「えっと、ボクだけ?」

 ちょっと不安を感じてボクはノブナガにそう問いかけた。


「ああ、まあ主にイエヤスだけど……三人でもいいぜ。まずはコメダ行こうぜコメダ」

 よかった……。


「コメダ好きだなあ、ノブナガは」

 あきれた様子でヒデヨシが口を挟んだ。


「そりゃあ、尾張人の心のふるさとだからな。戦国時代にもコメダあったら茶の湯よりも入り浸ってたぜ」

「はいはい」

 ヒデヨシはさらにあきれた顔になった。


 ボクらは学校を出て、近くの大須(おおす)商店街にあるコメダ珈琲店に向かった。名古屋発祥だけど、今では全国チェーンの喫茶店だ。

  豪華なモーニングサービスが有名だけど、名古屋市内に限ればほかの喫茶店も競ってやっているのでどうということもない。むしろボリュームたっぷりのオリジナルの軽食やスイーツが充実しているのが特徴だ。


「それにしてもさ、シロノワールって変だよな。日本語の白にフランス語の黒ってどういうことだって。しかも上のソフトクリームはともかく、下のデニッシュは茶色だし」


「シロブランだと語呂が悪いからでしょ」

 ノブナガの語り口はいつもの高一男子で、ボクはほっとして答えたのだけど……。


「おおお。さすが家康殿。フランス語にも堪能とは恐れ入る」

 また始まったよ……勘弁して。


「あーもう、また。その口調やめてよ。まじ中二病うざいから」

「えー、こないだ前世の記憶取り戻してからこっちの方がしっくりくるんだよなあ」

「まだ前世とか言ってるの?」

「当然だろ、思い出しちまったんだから。今度こそ天下取りだ。そのための相談さ」


「はあ……まじオレたち巻き込むのやめてほしいわ」

 ヒデヨシがあきれ声で言った。

 

そうこうしているうちに三人は、大須商店街の端にあるコメダ珈琲店に着いた。

 窓際席に座り、それぞれメニューを見ていると店員が来た。


「クリームソーダ!」

 真っ先にノブナガが叫んだ。


「は? シロノワールじゃないんかい!」

 ヒデヨシが突っ込んだ。


「ボクはアイスウインナー」

「おお! 今度はドイツ語とはあっぱれじゃ家康殿」

 まだやってるよ。

「冷たいソーセージが来ちゃったりしてねー」

 ギャグ言って変な言葉遣いを出させないようにしないとね。


「ああもう、漫才かよ……あ、すいません、普通のアイスコーヒーで」

 ヒデヨシがそう言うと、すかさず店員が聞いた。

「甘さはどうします?」

「あ、ああそうだった。甘味なしでお願いします」

 最初に言わないとコメダでは最初から甘いアイスコーヒーが出てきてしまう。


「そつのない藤吉郎にしては珍しいこともあるものだのう。まあ、足軽上がりにはコメダは高級で難しいか」

 うわ、だめだ。ノブナガ調子に乗り出した。


「うるさいわ」

 ヒデヨシはあきれ顔だ。

「なんとまた主君に逆らうか。まあよい。ここは許す。わしは心が広いからな。では軍議じゃ。まずは家康殿とは清州同盟ということでよろしいな」

「は?」

 何を言い出すんだか……。


 桶狭間の戦いの後、徳川家は織田家との和睦を模索し、一五六二年に同盟を結んだ。この頃の信長の居城だった清州城で締結されたと言われていて、清州同盟と呼ばれる。


「ああ、そう言えば、藤吉郎はあのときどこにいたのじゃ」

「はあ? 何勝手に話進めてるんだよ」

 ヒデヨシはもう怒る寸前の顔をしている。


「いやすまん。墨俣城(すのまたじょう)より前の藤吉郎が思い出せんでな」

「なんだって! ふっざけんな。あれだけ足軽頭(あしがるがしら)で貢献したんだぞ」

「ほう、なぜそのことを知っておるのか」

 ノブナガがにやりと頬を緩めた。


 墨俣城(すのまたじょう)とは一五六六年の信長の美濃攻めに当たり、木下藤吉郎が墨俣、今の岐阜県大垣市辺りに一夜で築いたという伝説が残る城のことだ。ただし、信長に関する公式記録である「信長公記」には出てこない。


「あ、え……と」

 一瞬答えに窮したヒデヨシだったが、思い直したように言った。


「話を合わせてやっただけだろ。そもそも墨俣一夜城(すのまたいちやじょう)なんて史実、確認されてないぞ」

「ほう、そうか、そうか。そういうことにしておくか。ふっふっふ」

 ノブナガは不適な笑みでヒデヨシを一瞥した。


「さて家康殿」

「はいはい、疲れるなあ」

 今度はボクか。

「わしが天下取りを果たせなかったのはなぜだと考える?」

「はあ?」

「家康殿の考えを聞いておきたいのじゃ」


「ああ? オレに聞くんじゃないのかよ」

 ヒデヨシがチャチャを入れた。


「おお、気になるかサル」

「あ、ついに言ったそれ。言わないって約束したよな」


「お待たせしました」

 店員がそう言ってクリームソーダ、アイスウインナー、アイスコーヒーをテーブルに置いた。

「あっはっは。すまんな、ここはわしがおごるから水に流せ」

「ふっざ……」

 声を上げようとして口をふさぎ、ヒデヨシは小さく独り言を言った。


「やば、今金欠だった」


「何か言ったか?」

「なんでもない。わかったよ。お前の話に乗らせていただきますよ。きょうだけだぞ」

「はっは。やはり褒美(ほうび)に弱いなサルは」

「はああ……またトホホだよ……」


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