表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼方からの風  作者: 杉本敬
第4章
47/53

47.来島

 九月に入り、波照間島には少しずつ秋の気配が漂い始めていた。

 それでも観光客の足は途絶えることなく、若者だけでなくファミ

リー層も多く訪れていた。空は高く、風は少し涼しくなり、島の空

気はどこか落ち着いてきていたが、【みーふぁいゆー】は相変わら

ず忙しかった。


 健太は、いつもにも増して仕事に精を出していた。

 ハイシーズンに入って業務量が増えたのもあるが、それ以上に理

由があった。沙也夏との再会、海里からの告白――その余韻を、頭

の中から追い出したかった。

 もう恋愛など、当分はしたくない。そう思っていた。


 今日も送迎から戻り、宿の事務所でホワイトボードを見ていた。

 そこには、二週間先までの送迎予定がびっしりと書き込まれてい

た。空いているのは、来週の月曜日だけ。それ以外は、すべて予定

で埋まっていた。

 健太は、ペンを手に取りながら、その唯一の空白に目を留めてい

た。その日だけは、何も予定が入っていない。少しだけ、ほっとし

た気持ちになった。


「健太さん。ちょっとごめんね」

 背後から声がして、里桜が事務所に入ってきた。彼女は手に持っ

た予約表を確認しながら、ホワイトボードの前に立った。

「新しい送迎、入ったから書き込むね」

 健太は、何気なくその様子を見ていた。

 里桜は、空いていた月曜日の欄に、さらさらと名前を書き込んだ。

 その瞬間――健太の心臓が、止まりそうになった。


“須藤沙也夏”

 ホワイトボードに書かれたその名前を見た瞬間、健太の心臓は大

きく跳ねた。黒のマーカーで書かれた文字が、まるで時間を巻き戻

すスイッチのように、過去の記憶を呼び起こした。

『何でだ?なぜ沙也夏がここに宿泊するんだ?いや、同性同名かも

しれない』

 健太の頭の中では、疑問符がいくつも点滅していた。

 あの夜、ニシハマでの再会。ギターに乗せて伝えた想い。そして、

静かに別れを告げたはずだった。それなのに――


「来週月曜日、お客さん入っちゃったわね」

 里桜が、何気ない口調で言った。

「健太さん、休みだろうから、私が行くわね」

 その言葉に、健太は反射的に口を開いた。

「いや、俺が行くよ。休みは別の日にもらうから」

 里桜は少し驚いたように目を見開いたが、すぐに笑って言った。

「そう。そうしてくれるなら助かるわ」


 健太は、里桜にとっさに答えながら、心の中では別の思いが渦巻

いていた。沙也夏本人かどうか、確認しなければならない。それが

最優先だった。

 だが、もし本当に沙也夏だったら――なぜ、わざわざ【みーふぁ

いゆー】に宿泊するのだろうか。島には他にも宿はある。それなの

に、なぜここなのか。

 ホワイトボードを見つめながら、胸の奥に静かなざわめきを感じ

ていた。


 その月曜日は、あっという間にやってきた。前夜、健太はほとん

ど眠れなかった。

 海里との一件がようやく一段落し、もう恋愛からは距離を置こう

と決めたばかりだった。それなのに、再び沙也夏のことで心がざわ

ついていた。


 眠れなかったとしても、それを理由に仕事をおろそかにはできな

い。特に送迎は車の運転が伴う。島の道は狭く、観光客も多い。気

を引き締めなければならなかった。

 港に午前10時。“須藤沙也夏”なる客を迎えに行く時間だ。

 健太は9時40分には港に到着していた。車を停め、ハンドルに手

を置いたまま、深く息を吐いた。


『沙也夏でないといい。いや、でも沙也夏であってほしい――』

 そんな矛盾した気持ちが、心の中で渦巻いていた。沙也夏の影か

ら、なかなか抜け出せない。それは、健太自身が一番よくわかって

いた。やがて時間が近づいてきた。


 健太は車から降り、いつものように宿名が記されたボードを頭上

に掲げた。港には、観光客が少しずつ降りてきていた。その中に、

遠目にも白っぽい服と、つば広のハットを被った女性の姿が見えた。

 その姿が、だんだんと大きくなってくる。

 歩き方、雰囲気、そして佇まい――健太は確信した。


『やはり、そうか』

 それは、紛れもなく沙也夏だった。クリーム色のワンピースに、

白いつば広のハット。

「須藤です。今日からお世話になります」

 沙也夏は、他人行儀な挨拶をした。

 健太も、型どおりの言葉で応じた。

「おーりとーり、ようこそ波照間島へ」


 スーツケースを受け取り、荷台に置いた。スライドドアを開けて、

後部座席に沙也夏を乗せる。

 健太は運転席に座り、これも型どおりに声をかけた。

「では出発します」

「はい。お願いします」

 車が静かに発車した。

 いつもなら、観光客に島の話をするのが健太の習慣だった。

 けれど今日は、言葉が出てこなかった。車内には、重い空気が漂

っていた。


 健太は、沙也夏に聞きたかった。

――なぜまた波照間に来たのか。

――なぜ、自分の働いている宿を選んだのか。

 しかし、聞ける雰囲気ではなかった。

 沙也夏の顔は、静かで、何かを抱えているようにも見えた。


『まあ、宿に関してはハイシーズンだし、他の宿が満室だったのか

もしれない』

 健太は、そう自分に言い聞かせた。

 車が村内に入る頃、後部座席から声がした。

「あのう、質問いいですか?」

「はい?あ、どうぞ」

「おーりとーりって、さっきおっしゃっていましたよね?」

「はい」

「どういう意味なんですか?」

「ようこそという意味で、石垣島の方言です。方言は島によって違

っていて、宮古島では“んみゃーち”と言います」

「へえー、そうなんですか。おもしろいですね」

 それが、車内で交わされた唯一の会話だった。


 言葉は交わされたが、心の距離はまだ遠かった。

 健太は、ハンドルを握りながら思った。

――この再会は、何を意味するのだろうか。

――そして、自分はどう向き合えばいいのだろうか。


 車が宿に着くと、健太はエンジンを止め、静かにドアを開けた。

 潮風がふわりと吹き抜け、宿の軒先に吊るされた風鈴が小さく鳴

った。

 沙也夏を受付へ案内すると、すでに女将さんがスタンバイしてい

た。笑顔を浮かべながら、手慣れた口調で宿の説明を始める。

 チェックインの流れ、食事の時間、共用スペースの使い方――

 健太は少し離れた場所に立ち、沙也夏の横顔を静かに見つめてい

た。


『いったい何しに波照間に来たんだろう。観光、それとも仕事か。

勝さんのところに行くのか?』

 そんな疑問が、健太の胸の奥で静かに渦を巻いていた。

 沙也夏は、説明を聞きながら時折うなずいていた。その表情は穏

やかで、どこか遠くを見ているようだった。


 やがて女将さんの説明が終わったようで、健太に目配せが送られ

た。健太はスーツケースを抱え、階段へ向かった。

「重いでしょ。すみません」

 後ろから、沙也夏の声がした。

「いえいえ。慣れていますから」

 健太は、ぎこちない笑顔を作りながら答えた。

 階段を上がると、二階の客室前に到着した。鍵を開け、部屋の中

へ入る。

 窓からは、南国らしい光が差し込んでいた。


 健太はスーツケースを所定の場所へ置き、いつも通り部屋の簡単

な説明を始めた。エアコンの操作、タオルの場所、非常時の連絡方

法――

 言葉は淡々としていたが、心の中では波が立っていた。

 説明が終わると、一瞬だけ沙也夏と目が合った。その瞳には、何

か言いたげな光が宿っていた。

「では、ごゆっくり」

 健太はそう言って、軽くお辞儀をした。

 部屋を出て、階段を降りながら、大きく息をついた。胸の奥に溜

まっていたものが、少しだけ吐き出された気がした。


 健太は事務所に戻ると、宿泊名簿を確認した。

“須藤沙也夏”の欄には、チェックイン日とチェックアウト日が記さ

れていた。

一週間の滞在――けっこう長い。

 観光にしては長めだし、仕事にしては短い。健太は、何か目的が

あるのだろうかと考えた。


 その日は、沙也夏と言葉を交わすこともなく終わった。

 彼女は部屋に静かに入り、夕食も特に目立つことなく済ませてい

た。健太は、距離を保つようにしていた。それが、今の自分にでき

る精一杯の対応だった。


 翌日、昼頃に健太は宿の敷地内で沙也夏の姿を見かけた。

 昨日の柔らかなワンピース姿とは打って変わって、カチッとした

スーツ姿。その姿は、どこか都会的で、島の風景の中で少しだけ浮

いて見えた。


『やっぱり仕事なのかな』

 健太は、そう思った。その後、二日目と三日目も、沙也夏はスーツ

姿で出かけていたようだった。特に三日目は、朝早くに出発したらし

く、健太はその姿を見ていない。

 後から里桜が「今朝は早かったよ、もう七時前には出てた」と教え

てくれた。

『そんなに忙しい仕事なのか……』

 健太は、少しだけ気になった。けれど、聞くことはできなかった。


 宿泊四日目。

 この日は、またワンピース姿に戻っていた。

 柔らかな布地が風に揺れ、つば広の帽子はかぶっていなかった。

 沙也夏は、出かける様子もなく、宿の売店前のベンチに静かに座

っていた。前を見て、何かを考えているようだった。その姿は、ど

こか物思いに沈んでいて、健太は遠くからそっと見守っていた。


 しばらくすると、沙也夏は意を決したように立ち上がり、売店へ

と入っていった。店内では、しばらく商品を眺めていた。島の特産

品や、手作りの小物が並ぶ棚の前で、指先をそっと動かしていた。


 そして、店にいた里桜に話しかけた。

 里桜は、にこやかに応じた。沙也夏も、少しだけ表情を緩めて、

ホッとした様子を見せていた。その笑顔は、健太が知っている沙也

夏のものだった。けれど、どこか遠くにあるような、届きそうで届

かないような――そんな印象だった。


 健太は、今日も送迎から戻ってきたばかりだった。事務所の冷蔵

庫からさんぴん茶のペットボトルを取り出し、椅子に腰を下ろす。

 冷たい茶が喉を通るたびに、少しずつ身体の熱が引いていく。

 半分ほど飲んだところで、蓋を閉めて冷蔵庫に戻した。


「さて、仕事するか」

 そう呟いてドアの方へ向かおうとしたその時、里桜が勢いよく入

ってきた。

「健太さん。午後から時間ある?」

「え、いや午後から商品の品出しをしようかと思っているけど」

「それはいいからさ、頼みがあるんだけど」

 健太は、少し身構えた。

 里桜がこういう言い方をする時は、たいてい何か特別なことがあ

る。


「なに?」

「女性ひとりで来ているお客さんいるじゃない?えっと、須藤さん

だっけ」

「うん」

 健太は、思わずドキッとして答えた。その名前が出るだけで、胸

がざわつく。

「彼女を案内してほしいんだけど。お決まりの観光コースでいいん

だけど」

「え、俺が?」

「うん。最初彼女、自転車で回るって言ってたんだけど、女性ひと

りじゃない。自転車で回って迷ったり、何かあると困るから。ふつ

うはこんなサービスしていないんだけど、私が手が離せないから、

お願いできる?」


 健太は、少し考え込んだ。沙也夏を案内する――それは、仕事の

一環だ。ここは、単なる客として接するべきなのか、それとも……

「うーん。そういうことか。いいよ。お決まりのコースでいいんだ

ね?」

「うん。助かるわ」

 里桜は、ほっとしたように笑った。

 健太は、さんぴん茶の残りを思い出しながら、心の中で静かに呟

いた。

『これも仕事だ。だけど、また沙也夏と向き合うことになるのか…』


 車を売店の横に着け、健太はベンチに腰を下ろした。

 空は高く、雲はゆっくりと流れていた。波照間島の午後は、どこ

か時間が緩やかに進んでいるようだった。

 健太は、さんぴん茶のペットボトルを手にしながら、静かに待っ

ていた。 今日は送迎の時と違い、会話を最小限にとどめるわけに

はいかない。観光名所を案内する以上、説明も必要だし、沈黙ばか

りでは気まずい。それでも、心の奥には複雑な感情が渦巻いていた。


 数分後、沙也夏がやって来た。今日もワンピース姿だった。

 風に揺れる布地が、彼女の歩みとともに柔らかく揺れていた。

 健太の姿を見た瞬間、沙也夏は驚いたような表情を浮かべた。

 まさか健太が案内するとは思っていなかったのだろう。


「では行きましょうか」

 健太は、努めて穏やかに声をかけた。

「はい」

 沙也夏は、少し戸惑いながらも健太の後に続いた。

 健太は助手席のドアを開けた。

「今日は助手席でお願いします」

「あ、そうなんですか」

 沙也夏は、健太の意向に従い、静かに車に乗り込んだ。


 ドアを閉めると、車内には一瞬、沈黙が流れた。

 健太は、エンジンをかける前に、意を決して言った。

「もう、他人のふりをするのはやめよう」

「えっ」

 沙也夏は、驚いたように健太を見た。


「さすがに疲れるよ」

「あ、そうです……そうね。ごめんなさい。私が急に来たから」

「謝る必要はない。君はお客さんとして来たんだから。お客さんを

もてなすのが、俺の仕事だからね」

 健太が「君」と呼んだその言葉に、今の気持ちが滲んでいた。

 それは、距離を保とうとしながらも、完全には切り離せない感情

だった。


「ありがとう」

沙也夏は、少しだけ微笑んだ。

「ただ約束してほしい。お客さんと宿のスタッフとして接したいの

で、それ以上の会話はなしということでいいかな」

「そう……そうね。わかったわ」


 車内には、再び静けさが戻った。

「波照間には、観光で来たのか?」

 健太は、少しだけ声を和らげて聞いた。

「仕事と観光が半々かな。島袋先生と打ち合わせがあったから」

「島袋先生……あ、勝さんか」

「先生とは仲がいいみたいね。やっぱり妹さんを事故で助けたのが

縁?」

「まあね」

 健太の脳裏に、海里の顔が浮かんだ。あれ以来、会っていない。

『元気にしているだろうか――』そんな思いが、ふと胸をよぎった。

 車は、島の道をゆっくりと進んでいた。

 窓の外には、サトウキビ畑が広がり、風が葉を揺らしていた。


「さ、そろそろ出発しよう。最初はコート盛だ。昔作られた見張台

だけど、サンゴで作られているから、珍しいよ」

 健太はそう言って、車をゆっくりと発進させた。

 車内には、さっきまでの緊張が少しずつ和らぎ始めていた。

 窓の外には、青い空と緑の畑が広がっている。波照間島の午後は、

どこか穏やかで、時間がゆっくりと流れていた。


 コート盛に着くと、すでに何組かの観光客が訪れていた。

 ハイシーズンらしく、カメラを構える人や、ガイドブックを片手

に歩く人の姿が見える。

 健太は車を停め、沙也夏と並んで歩き出した。

 螺旋状に積み上げられたサンゴ石の見張台は、陽射しを受けて白

く輝いていた。


 沙也夏は、その石の形をじっと見つめていた。

「珍しいね……サンゴでできてるなんて」

「昔の人が、島を守るために作ったんだ。見張り台として使われて

いたけど、今では観光名所だね」

 見張台の上からは、海の向こうに島影が見えた。


 沙也夏は、遠くを指さして言った。

「遠くに見える島があるけど、あれは何?」

「西表島だよ」

「あれが……イリオモテヤマネコがいる所なのね」

「一般的にはそう言われてるけど、実際に見られることはほとんど

ないらしい。それにしても今日は西表がよく見える。天気がいいか

らかも」

「そうなのね」

 沙也夏は、海の向こうを見つめながら、静かにうなずいた。


 次に向かったのは、波照間島灯台だった。

 島の中央部に位置するこの灯台は、海が見えない代わりに、周囲

にはさとうきび畑が広がっていた。

 風が吹くたびに、さとうきびがざわわと音を立てる。その音は、

まるで島の呼吸のようだった。


「歌は本当だったのね」

 沙也夏がぽつりと呟いた。

「歌?」

「森山良子さんの“さとうきび畑”」

「ああ、あるね。最初の歌い出しのところか。でも悲しい歌だよな。

戦争で父を亡くしたひとりの少女が、父を探しにさとうきび畑を訪

れる歌で、風のなかで悲しみと向き合うんだよ」

「そんな深い意味があったのね。聞き流すようにしか聞いたことが

ないから」

「今度じっくり聞いたらいいよ。風の音と一緒に聴くと、また違っ

て聞こえるかもしれない」

「そうね」


 ふたりは、さとうきび畑の前でしばらく立ち止まっていた。

 風が吹き抜け、畑がざわざわと揺れる。

 健太は、沙也夏の横顔をちらりと見た。彼女の表情は穏やかで、

どこか遠くを見ているようだった。


 最後に向かったのは、高那崎だった。

 島の南端に位置するこの場所は、波照間でもっとも荒々しい海が

見られる場所として知られている。

 車を降りると、健太と沙也夏は断崖の縁まで歩いた。目の前には、

果てしなく広がる海。しかし、その海は穏やかとは程遠く、荒波が

容赦なく岩肌に叩きつけられていた。波が砕けるたびに、白い飛沫

が空へと舞い上がる。まるで断崖絶壁と荒波が喧嘩しているかのよ

うだった。


 健太は、その光景を見ながら、あらためて大自然の厳しさを思い

知らされた。

 沙也夏は、何も言わずにその様子をじっと見つめていた。風に髪

が揺れ、ワンピースの裾が波のリズムに合わせるように揺れていた。

 健太は、彼女の横顔を見ながら思った。

――今でも、海が好きなんだな。


 三か所を回り終え、ちょうどいい時間になっていた。

 健太は、ふと思いついて言った。

「今からニシハマに行けば、夕陽が見えるよ」

 しかし、沙也夏は静かに首を横に振った。

「ニシハマは行ったことがあるからいい。他にビーチがあるのかな?」

「あることはあるけど……行くまでが大変かも」

「明日、ひとりで行ってみようかな。場所、教えてくれる?」


 健太は、少しだけ考えてから答えた。

「たぶん、やめたほうがいい。たぶん道に迷う公算が大だよ。なん

なら案内しようか?」

「でも、仕事があるでしょ」

「女将さんに話してみるよ。許可がとれればいいと思う」

「ありがとう。でも無理しないでね」

 沙也夏は、ふわりと微笑んだ。


 その笑顔は、どこか懐かしく、そして少しだけ切なさを含んでい

た。健太は、その笑顔を見ながら、胸の奥に静かな波が立つのを感

じていた。

 再会してから、少しずつ距離が縮まっている。けれど、それが何

を意味するのかは、まだ分からなかった。

 高那崎の風は、荒々しくも澄んでいた。その風が、ふたりの間を

静かに通り抜けていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ