8:林間ACademyでACtion-A Coward(1)
学校に向かいながら、昨夜のCさんとの通話を思い出す。
『A君、明日、お昼後の湖畔散歩の時間だけど…一緒に行かない?うぅん、違うね…行ってくれますか?』
『こちらこそ…よろしくお願いします』
僕はCさんと湖畔散歩の約束をした。
Cさんには共通の趣味で知り合ってからというもの、僕をからかったりと驚かされてばかりだけれど…
お互いに尊重し合う”仲良しな友人”としての距離感は僕にとって居心地が良く、とても嬉しかった。
僕以外の”仲良しな友人”と同じ様にスキンシップが多いのは、色々と照れちゃったり恥ずかしくなってしまうけど。
記憶を思い返しながら浮足立つ気持ちを抑え、校門を潜り集合場所であるグラウンドを目指す。
出発は8時00分だったが、各クラスにはそこそこに生徒が集まりだしており、僕の後ろからも続々と生徒がグラウンドに入ってくる。
数台のバス手前には担任教師が立っており、僕もそちらへ向かう。
既にオーケーコンビは着いており、Cさんも居た。
Cさんと目が合うと昨夜を思い出し、少し距離が近付いた関係に気恥ずかしさから顔が赤くなってきているのを感じる。
Cさんも少しだけ赤く見える頬に笑顔を携えながら小さく腰の辺りで手を振ったので、僕もお返しに腰の辺りで手を軽く振ってオーケーコンビの元に行く。
目敏いオーケーコンビはそのやり取りを見逃さなかった。
「ん?AとC、お前らいつもそんな挨拶の仕方だったか?」
そうオーが言うと、ケーも思い起こすように目を閉じ眉間に拳をコツコツしながら話す。
「林間のグループ決定以降も特に変わり無かった気がする…昨日、俺等が居ない時に何かあったのかもな」
ぼ、僕とCさんのやり取りなんて教室では殆ど無いのに、良く気付くね…
確かに注目がない時は2人がいてもCさんと話す時はあるけど、僕はオー君やケー君が誰かとのやり取りで変わったなんて気付けないかも…
「ふ、ふたりとも、凄いね…当たっているのが逆に怖いけど」
そう言って昨夜の件を小声でオー君、ケー君に伝える。
「なるほど。そうなると他の予定でも俺とケーは別行動が良いか」
「そうなるだろうな。折角、Aがボーイミーツガールな思い出を作れる機会だ」
「お前はどうする?俺は湖畔散歩の時間は撮影でもするかって考えてるが」
「良いな、俺もカメラ撮影に同行するわ。ついでに学生カメラマンに撮影の仕方でも教えてもらおう」
「流石、多趣味なだけはある」
「そっか、でももし散歩する気になったら、後から一緒」
遮ってケーは言う。
「それは駄目だ。それは申し訳が立たん」
続けてオーも捲し立てる。
「そうだぞ、A。幾ら俺でも分かる」
2人から厳つい剣幕で言われ、仕方なく頷く。
何が何でも一緒は駄目って事はないだろう。
だって僕とCさんは”仲良しな友人”なんだから…
共通の趣味で知り合った”仲良しな友人”、オタクモブな僕ではCさんに釣り合わない。
Cさんも勘違いされて嫌な気分になるかもしれない。
それは困る…
僕はCさんと”仲良しな友人”になれただけでも幸運だったんだから。
皆に見られない時にという制限はあるが、共通の趣味や雑談で盛り上がれる”仲良しな友人”。
それだけで良いじゃないか…
そうやって自惚れて、勘違いして、今の関係が壊れる事の方が怖いんだ…
そう、誰が見ても、自他ともに認める事実として、僕とCさんは釣り合わないのだから。
Aは2人の言葉が繰り返し聞こえるかのような錯覚を覚えながら、胸の内では必至にそう否定し、それ以上の希望を消し去ろうとしながら、言葉を告げる。
「そ、そっか…じゃぁ…その時間は僕とCさんで散歩させてもらうね」
その後の僕は胸の内に疼く様な痛みに耐えながら、バスに乗り込む時間までじっと黙っていた。
バスは1人掛け4列で左右に2席、後部座席5人がけの補助席込みで40人乗り中型バス。
僕は右窓側席で隣の通路側席にオー君が座る。
Cさんは反対の左窓側席で隣の通路側席にティーさんが座る。
Cさんの1つ後ろ左側窓席でアイさん、隣の通路側席にケイ君が座る。
バスに乗り込み目的地に移動が始まった後も僕の気分は落ち着かないままだった。
さっきまでの浮足立つ感覚は悪い方に浮足立ち、気持ち悪さが込み上げて来ていた。
みんながバス内で気持ちが昂り、スマホで曲を流して歌ったり、補助席を出してお菓子を一緒に食べて雑談に興じたりする中、僕は目を閉じ静かにする。
ライトノベルすら読もうと思わない。
いつもなら、ドキドキさせられてもドギマギしても、強固に抑えられてきた黒い感情。
それが少しだけ、昨夜の1件からしっかりと目に捉えてしまい、漏れてきていた。
だが必死に抑え、その感情から目を逸らし、無いモノとできた。
今までのCとの会話が思い起こされ、今朝のやりとり、オーケーコンビの言葉。
それらによって再びAの心には黒い波が目を逸らそうとしても、希望、期待、羨望、失望、諦念などないまぜの黒色となった奔流が堰を切ったように押し寄せ、Aの心を埋め尽くす。
その先の希望、期待を羨んで手を伸ばしても呑み込まれた暗闇の奔流の中では届かず、暗中模索で身動きも満足に取れない感情。
次第にAの感覚も周囲を閉ざし、気絶するように眠りについた。
そんなAの弱々しく見える姿をオーケーコンビとCが心配そうに覗いていたが、Aは目を閉じたまま気付かなかった。
目を覚ませば林間学校の目的地であるキャンプ場に到着していた。
2時間程のバス移動だったがずっと眠っていたようだ。
隣に座るオー君、アイさんと前の座席に座っていたケー君が話しかけてくる。
「A、起きたか?キャンプ場に着いたし、ある程度降りたら俺らも降りようか」
「うん、そうしようか」
寝ている間に意識が逸れ、幾らか落ち着きを取り戻したようで気持ち悪さも消えていた。
「さて、これからキャンプ設営の説明を職員の方にしていただきます。設営時に忘れた場合は各クラス毎に1人の職員が付いてくださっているので、都度確認してください」
全員がバスから出た後、施設職員がキャンプの組み立て方法を説明する。
キャンプ設営や薪運びは男子。
水運びや火起こし、調理は女子。
僕とオー君はキャンプ設営。
ケー君はCさん達女子グループと薪、水の確保で事務所から持ち運ぶ。
そのままケー君は火起こしも手伝っていた。
その間も僕とオー君は設営作業を続け、少し時間はかかったが4人用の前室とタープ付きのテントを区画に2つ設営し終わった。
「ふぅ…職員は1人でやってたけど、結構大変だったな」
「そうだね…ふぅ…過ごしやすい気温だけど、少し汗もかいたし疲れたね。休憩させてもらおうか」
横では火起こしが無事にでき、喜ぶケー君とCさん達。
「しっかりと火が付くまで煙かったねー」と口々に笑いながら話している。
もう、その時には僕はCさんをまともに見る事が出来なくなっていた。
再び黒い感情に呑み込まれないように…
暫く休憩してる内に昼食の準備もいつの間にか終わっていた。
CさんにBBQのお肉や焼き野菜の入った器を渡される。
「はい、召し上がれ!」
「あ、うん…」
僕は顔も見れず器を眺めて答える。
Cさんが心配そうに言う。
「大丈夫?バスでも気分悪そうな顔ですぐに寝ちゃってたし…」
「う、うん…平気だよ。ありがとう、Cさん」
僕はCさんから離れ、もそもそと食事をする。
このままだといきなり態度が変わった事でCさんを傷付けると分かっていても、僕は目を逸らし続けるしかない。
オタクモブの陰キャには静かに過ぎ去るのを待つのが定石で最善の一手なのだから…
大丈夫、その内にこんな感情も落ち着いて消えてくれるから…
心配そうなオー君とケー君の目を見て、Cさんには目線を合わせず無視して何でもないように告げる。
「美味しいね」
目を逸らして、何も見えない聞こえないかのように、昼食で僕はその一言だけを告げた。
題名に悩んでたら某芸風みたいになってた。
臆病で怖がりなA君。
シリアス展開は入れる予定だったのですが、草稿段階との急転直下具合と言いますか。
深刻そうなシリアス描写でつらつらと書き上げていました。
もうちょっと、わーA君ってば可愛いシリアスー、位のつもりだったんですけどね…
この先の展開で、こうだよなぁ、って考えていたら、ならもっと心中はこうだよな?私なりに絶望を読者に叩きつけてやる、って考えてたらこうなってました。
憎しみでも詰まってるのかな、この聖杯…