7:林間学校CAmp前準備
林間前の描写が終わりと言ったな…
あれは…ミスだ!
唐突なCさんグループとの参加が決まった林間学校。
経緯を全くと言っていい程に知らない僕はあれから悶々としながら午後授業を受けた。
ケー君にどう切り出すべきなのか悩んでいたが、休み時間でケーがCさん加入の件でクラスメイトに呼び出され話に行く。
Cさんも同じくグループ内外からケーグループ加入について質問を受けていた様だが、あーね…と困った顔で殆ど返答していた。
前の席に座るオー君はオー君で、声をかけると大袈裟なアクションで「放課後、な」と言ってスマホで撮影データを確認し始める。
僕は僕で手持ち無沙汰だったのでラノベを読んでいたが、僕とオー君に男子生徒数人が寄ってくる。
「なぁ、A、オー。Cさん加入するらしいじゃん?Cさんのグループも参加するだろうからさ、出来れば代わってくんね?」
「どっちかでも良いんだ!俺と代わってくんね!」
「代わってくれ!」
数人が代わってくれ代わってくれと言う。
「ふむ…」
オー君は気にする事無く放置した。
「え、え…それは…」
僕はといえば圧によって自分の席で縮こまる。
言い淀んでいると今度は争いが始まった。
「お前はどうせCグループのエルちゃんだろ!俺が優先だ!俺はCさんなんだよ!」
「おまっ!わっかんねぇだろ!参加するかも知れないんだ!どこにも誰も参加してねぇ中で光明がさしたんだぞ!」
「俺は美少女達と林間参加して、設営、炊事、焚き火に散策とうふふなイベントをこなし、嫉妬に狂うお前等に対して優越感を」
「「お前は不順過ぎるわ、あほ!」」
争いが終結しないまま、6限のチャイムがなる。
担任教師もほぼノータイムで来たので、みな名残惜しそうに僕とオー君を見やり座席に戻って行く。
オー君が後ろ手に紙を渡してくる。
『午後HR終わり、一緒に速攻出る。準備しとけよ。ケーにも回せ』
僕も後ろ手にケー君に回しコソコソと準備をし始める。
ちらっとCさんを見れば静かにノートに書き取りながら髪をクルクルといじっていた。
どうして僕らのグループ?と顔を見ていると聞きたくなってくるが、今は6限、HRの後に備えておかなきゃ。
6限後のHRまでは時間が短いので大抵のクラスメイトは席に座ったまま待機している事が多い。
だが状況が状況だ。
さっきみたいな事が短い時間でも起きたら、帰り支度に手間取り放課後も囲まれるだろう…
少しブルっとしながら支度を終え、後は今の教科分を入れれば、最悪置いていこうと考え書き取りを再開した。
…
「日が延びて来ておりますが、放課後は遅くなりすぎないよう気を付けて下校してください。では、解散」
既にカバンに手をかけていた僕はさっと立ち上がる。
そして一気に下駄箱を目指して教室を駆け出す。オー君も後ろについて来ている。
ケー君は、いない。
「お、オー君、ケー君!」
「あいつは、もう駄目、だ!見捨てろ!」
「そ、そん、な!」
「後で、話す!今は俺達、優先だ!」
「…フ〜ドコ〜ト〜、私達も行く〜」
そんな声が近くで上がっていたが、急ぎ教室を出て廊下を走り階段から下駄箱へ、そして靴を履き替えた僕とオー君。
ケー君は平気なのだろうか、と思いながら先行するオー君に付いて走り続けた。
…
「はっ、はぁ、はっ、はぁ…は、ぁ…ぐ…」
息を切らしながら走って向かった先はいつも利用してる駅近くのファミレスだった。
僕とオー君はいつもの壁際の隅の座席を選び座る。
「ひ、久しぶりにあんなに全力で走ったよ…今も息苦しいし、ドキドキしてる」
「もう少し体力あると何かと便利だぞ、A。俺はカメラ撮影で色んなところ行ったりするから体力そこそこ付いてるし、手持ちで姿勢もブレないように体感鍛えてるからな」
胸をドンと叩き、ドヤ顔で誇らしげに言うオー君。
「それで、ケー君はなんで置いてきちゃったの?一緒に走ってファミレスで良かったんじゃない?」
「まぁ、紙を渡した時はそう思ってたんだけど、あのタイミングで付いて来てなかったしな。あの場は置いていく方が、一緒に俺等が残るよりもケーも上手く男子に説明してくれるだろう。そうなれば明日も代わってくれと囲まれる事もないだろうしな。まぁ、ケーなら上手くやってくれるだろうから、スマホに場所連絡しとけばその内ケロッと来るだろ」
そっか、確かにケー君なら囲まれても萎縮せず、上手く説明して断りを入れてくれるだろう。
それに交友関係も広いから他の代わって欲しい人にも直ぐに伝わって行くだろう。
「なるほどね。でも今日はお昼休み以降が本当に大変だったよ。Cさんがどこにも加入してなかったのにも驚いたけどさ」
「C、というかCのグループは誰も参加表明してなかったからな。それもあってグループ女子狙ってた奴らも可能性に賭けて入れ替え希望してきた訳だしな。」
「へぇー…あれだけ中心の人達だから、既にどこかに参加してると思ってたや…でもCさんが参加してくれて嬉しいな。ケー君がCさんを誘ってくれて良かった」
「まぁ、林間学校の話題の時に俺もケーもAがCをちらちら見てたの気付いてたしな。あぁ、一緒が良いんだろうなーと思ってたが、ケーが勝手に行動してたな」
「そ、そっか…気付かれてたのか…恥ずかしいな…」
「まぁ、その辺の諸々はケーが着いてから言えば良いだろ。それと林間の準備も考えてwireで林間用グループチャットにCを招待をしないと駄目だろうが、Aは知ってるか?」
「知らないや…」
「なら、ケーが来てやってもらおう」
そっか、Cさんと林間の準備や行事中の役割とか連絡取り合う必要があるか。
今更に気付いたけど、映画とか行ってるのに連絡先聞いた事ないぞ…
正直、登下校中もそうだけど、ドキドキしてたりと意識が連絡先に向いてなくて2ヶ月過ぎてた…
Cさんにも聞かれなかったからとはいえ、今の今まで気付かないとはなぁ…
こちらから聞こうとしたら色々と考え過ぎて慌てて、それをCさんにからかわれてたかもしれないけど。
「じゃぁ、ケー君が来るまでラノベでも読んでるね」
そう言って僕はラノベを取り出し、集中して読み始めた。
…
それから1時間ほど経った頃、ケー君から『話し合いが終わったからそちらに向かう』と連絡があった。
「もう15分くらいでこっちに来るだろうな。ドリンクバー以外でなんか頼んでおくか?」
「軽く摘める物だけ頼んでおけば良いかな?フライドポテトとか…?唐揚げも食べたくなってきたや」
「どっちも頼んじゃえば良いだろ。夕飯は夕飯で食えるさ。3人で分けるんだしな」
そう言ってオー君が注文を済ませ、短時間でにゃんこ配膳ロボで運ばれてきたフライドポテトと唐揚げを食べているとケー君が到着した。
「遅くなったな。俺もポテト食っていい?」
「お疲れ様、ケー君。どうぞどうぞ」
「んで?態々クラスに残って話した結果はどうだったよ?」
フライドポテトを摘み、ケーは答える。
「あぁ、んぐ。明日からは何も言われないと思うぞ。粗方、納得してもらえたはずだしな。多少の嫉妬は仕方ないと割り切ってくれ」
最後に笑いながらケーは摘んだポテトの残りを口に頬張る。
「んじゃ、俺もドリンクバー頼んで飲み物取ってきたら今後の話と行こうか」
そう言い、ケーは注文端末を操作した後、ドリンクバーへ向かい、ドリンク片手に直ぐに席に戻る。
「さて、まずはCさんを誘った件だけど。Cさんの事を誘いたそうに見てたし、フリーでワンチャン。付き合いあるCさんとならAも気を使い過ぎず楽しめるかな、とさ。人気者だし、ぬか喜びさせるのもなんだってのと、サプライズで喜んでもらえたらなって気持ちもあってさ…気を悪くして無ければ良いんだが」
頬をぽりぽりかきながらこちらを見るケー君。
「そんな、気を悪くなんて!Cさんを見てたのを見られてたのは恥ずかしいけどさ…寧ろそこまで考えてもらっちゃって嬉しいやら申し訳ないやらだけど、当日が楽しみだよ」
僕はケー君ににっこりと笑顔で伝える。
「俺には何もないのか?俺もグループの一員なんだが?」
「オーの要望は満たしてるだろ。感謝してくれて良いぞ」
「ケーに残してた唐揚げ食っちまうぞ」
二人は喧嘩のようなじゃれ合いを暫くして満足したのか、オーとケーはソフトドリンクをズゴゴと飲んで一息付く。
「そんでケー、Cのwire知ってるよな?林間のグループチャット作ってCにも伝えてくんね」
「ん?Aも知らなかったのか。仲良くしてるし交換してると思ってた。んじゃ、ささっとCさんに連絡送って…んでグループチャット作って俺等とCさん招待っと。残りの女子はCさんに招待してもらえば良いだろ」
ケー君からグループチャットの招待が送られて来たので承認する。
「おし、これで後は女子側は決まり次第、グループチャットに入れてくれるだろ。挨拶と林間の必要な物や役割分担の件を書いて徐々に決めていこうぜ」
ケー君の言葉で林間学校に向けての本日やるべき事は終わり、僕らはファミレスで思い思いの事をやったり、サイドメニューを摘みながら駄弁ったりして、時間を潰し、帰宅。
その日の夜、グループチャットにはCさんの招待でアイさんとティーさんが参加。
グループチャットでは少しティーさんの言葉尻が強いように感じたけれど、皆でわいわいと林間学校に向けて話したり、雑談に逸れたりと悪くないと思えた。
それに、Cさんからの個別チャットで挨拶が来たので返したあと、Cさんが続けてラノベ原作アニメの話を振り、継続してチャットで会話のラリーを続けていった。
チャットは翌日以降も夜20時頃になると自然と行われるようになっていき、時々通話も交えながら、Cさんとの時間が登下校や注目がない時以外にも自然と増えていく。
学校内では余り関わりがない僕とCさん。
それがチャットが多いとはいえ会話している不思議な時間。
放課後の時間も終わり帰宅して、自分の領域同士での会話。
僕の部屋にCさんが、Cさんの部屋に僕がいるかのように錯覚する時間。
少しずつ、少しずつ。
誰でも知れないCさんの事を知っていく時間。
いつもなら眼の前のCさんにドキドキさせられ、上手く言葉が出せなかったりする僕だけど、この時間はCさんに上手く言葉が返せる。
僕の気持ちもすんなりと言える時間。
林間学校前夜、Cさんから通話がかかってきた。
「何も言わずに通話しちゃったけど、今って…平気?」
「うん、今は僕も夕飯食べてのんびりしてたから」
「そっか、他の人達は明日の前夜祭みたいな感じで今日はカラオケとかではっちゃけてるみたい」
ふふふ、と笑いながら言うCさん。
「A君のグループは皆で静かに帰っちゃってたね。私達も駅ビルのフードコートで少し話して解散しちゃった。ちょっと勿体なかったかな?」
「明日から1泊2日とはいえキャンプだし、体調整えて行けると思えば悪くないよ。本番は明日だしね」
「そうだけどね。ただ、あぁいうのも学生だから、1年生だからこそ経験できる、全力で何も気にせず遊べるっていうのかな?」
分かる気はする。
僕等はまだ1年だ。バイトに遊びに学校行事と、余力が有り余る。
けれど2年からは進路がちらつき始める。3年では大学進学か就職かで悩んだり、学力向上や就活に苦悩しながら過ごす期間も多いだろう。
だけれど、だからこそ…
「僕は、今の、この時間も悪くないよ…それこそ…他の人の前夜祭に引けを取らない時間だよ」
しっかりとした口調でCさんに伝える。
「そ、そっか、それは、良かったというか、嬉しい、と言いますか…」
いつもなら照れて言えないけど、今ならしっかり言えた。Cさんには少し驚かせてしまったみたいだけれど。
電話口でスーハーと音が漏れ聞こえる。
そしてCさんが再び話し出す。
「A君、明日、お昼後の湖畔散歩の時間だけど…一緒に行かない?うぅん、違うね…行ってくれますか?」
今度は僕が息を呑み、不意に訪れた動悸をなんとか鎮め、震えそうになりながらも、しっかりと声をだし返事を伝える。
「こちらこそ…よろしくお願いします」
どちらともなく、それ以降は言葉も少なくなり、会話を終えた。
そうして…
当日を迎える事となる。
学校以外でのグルチャや個チャの詳細部分は描写すべきか悩んだけど、現時点だと林間まで2人に進展できる描写は少ないと考え、冗長になっても困るのは事実なので、少しあっさり目です。
徐々にお互いの時間が増え、知っていき、喜び、そこで共に行動し、といった状況。
次回こそは林間学校です。