4:Cさん、Aを狙うって
入学から2ヶ月、Cさんと映画に行ってから1ヶ月経った6月、HRでちらほらと先生から野外学習(林間学校)について話が上がりだした。
数日経った今でも、午前の休み時間中はHRで話題が出る林間学校についてだ。
クラスメイト達は今の内にある程度の班決めも兼ね、日程近付く野外学習の話題に触れている。
そんな6月…僕は…
友人が2人でき、ボッチでは無くなっていた。
4月下旬にCさんと行った映画後、5月のGW明けの席替えで近くなった事もあって仲良くなった。
クラスの席は縦6席、横5席で元々は右から男子生徒が名前の順、続けて女子生徒が名前の順となっていた。
席順を将棋盤と同様に考え、横列は算用数字で123と順に、縦列は一二三と順に割り振ると…
僕は3二、Cさんは5三、オー君は1五、ケー君は2三だった。
それが僕は5五、Cさんは3五、オー君は5四、ケー君は5六と移動した。
Cさんの周りはグループ女子生徒で固まっている。
席替えの縁で出来た友人2人がいるお陰で、学校生活はなおさら楽しくなってきている。
一人は、写真撮影が趣味の亀子央君、あだ名はオー君。
おかっぱでメガネをかけている。
カメラ小僧として、被写体にリラックスさせ自然なポージングを誘う為に培ってきたコミュ力で会話も問題なく物怖じしない。
ただ物怖じはしないが、学校生活に於いてそのコミュ力を友人作りには活かさなかったようだ。趣味を理解してもらえるかの賭けを避けた、のだろうか?
また学生カメラマンとしての審美眼からクラスメイトの目測3サイズを網羅している、らしい。
許可無しのモデル撮影はギルティ、との本人談である。コス撮影にかける努力が凄すぎる…
もう一人は、アウトドアからインドアまで幅広趣味の多隅慧君、あだな名はケー君。
七三ツーブロックで爽やか笑顔の持ち主で見た目はバリバリの陽キャだ。
オタク趣味も多趣味の1つのようだ。
インドアなサブカル趣味の僕、アウトドア?な写真撮影趣味のオー君に「君の趣味は何?折角同じ学校、学年、クラスでお近くなんだし仲良くしてくれ」と話しかけてくれたのがキッカケだ。
なんでも、席を四隅にしたのは名前に隅があるからだとか。
ケー君は僕等以外のクラスメイトとも交友関係があり、クラス内外を隔てずリアルに友達100人できるかな、が出来そうだ。
ただ、「趣味はそれぞれ別だが、お互い気楽に言い合えて非常に良い塩梅」、とケー君は僕らと良く喋っている。
見た目は整っており、性格も良く優しいとくればモテそうだが、仲の良い友達どまりで本命には届かない、とは本人談だ。
何故だろう…
そんな僕とオー君だけだと陰キャ同士の云々に見えそうだが、ケー君が居るから特段陰キャな雰囲気もなく、クラスにも馴染んでいる。
僕は自分の席から、ちらっとクラスの腰高窓(教室と廊下に面した窓)に中腰で腕を顎に乗せ、他クラスの人も交えて話しているCさんを見る。
Cさんとは映画以降も、登下校や周囲の注目が余り無い時に話している。
入学から暫く、クラスでCさんが僕に話しかける姿は見られており、何だ何だと少なからず興味を持たれていた。
だが今では、サブカル話で陰キャボッチ予備軍とも分け隔てなく接するCさんと評価されたようだ。
その間もCさんのグループでは何かと遊びもあった様だが、特に僕は呼ばれないし、呼ばれる理由もない。
せいぜい、優しいCさんに構って貰ってるモブA君って評価になるのかな。
まぁ、僕は僕でオーケーコンビと一緒にファミレスやバーガー屋で駄弁ったりしてたしね。
Cさんと話はすれど遊ばずとも、「グループ違うしね」、と考えている。
映画に誘われた後の1週間程度は脳裏に浮かんでどぎまぎしていたけれど、Cさんは登下校で会った時に毎度の如くスキンシップをしてくるので、徐々に今まで通りに戻れた。
今も不意に腕を引かれたりすると僕は顔は赤くなりどもってしまうが、映画時みたいにお互いで意識して変な気持ちにはならない。
「オーはさ、林間学校でクラスの撮影係でもやんの?」
「なぜ?流石に撮影は班ごとにやるっしょ?それにクラスメイトとはいえ、撮影係からの趣味バレが怖い。いかがわしい趣味と思われそうだ」
Cさんから目線を戻し、いつの間にか僕の席に集まっていた2人の会話に参加する。
「オー君、別に撮影自体は色んなの撮ってるじゃん。校舎とかの風景や料理だったり」
「A、もしも撮影したの見せてって話題になった時に、うっかり記録データやクラウド上の際っきわな写真が出たらどうするんだ。異端審問にかけられるぞ」
異端審問って…
まぁ、女子からはエロティックなコスとかポージングは色々と言われそう…
男子は…心の中で小躍りしながら女子の手前、否とは言えないだろうなぁ…
「ケーなら趣味の一つとでも言えなくはないし、クラス内外の親交もあるから良いだろうが…俺はお前等以外と親交温めず、ガッツリと校内でも撮影しまくってる姿が見られてる。下手すりゃ盗撮疑惑まで出そうだ…コエぇって…モデルに許可無しは犯罪だってのに…」
顔を青ざめながら、ブツブツと愚痴るオー君。
見かねたケー君が話題を本筋の林間学校に戻す。
「そ、そういや、グループどうするよ?俺とオー、Aで一緒で良いよな?後は女子3人だけど、お前等、希望ある?」
ケー君の言う女子の希望、僕のは無理だろうなぁ…
Cさんと一緒なら少なからず登下校や放課後に映画行ったりと関わりあるし、ドキドキさせられても変な緊張はないんだけど…
Cさん、クラスの中心だし…もうどこかに参加しちゃってるだろうし…
「僕は…出来れば話した事がある人が良いなって思うけど、言うほど話した事のある女子は少ないし…そうなったら申し訳ないけど、オー君とケー君にちょっと頼らせてもらっちゃうかも…オー君は?」
「気にすんな、A。んで、俺は別にA程、会話の免疫が無い訳でもないしな。誰という希望もない。せいぜい、優しい男子を求めて文句ばっかりな人で無ければ良いや」
「了解。オー、流石にそこまでの女子は居ないと思うが?」
「カメラ越しに数多のモデル取ってきてるから、レンズ越しだと心の内が透けて見えるんだよ」
「お前、顔洗う時と風呂と寝る時以外、基本メガネかけててレンズ越しじゃねぇか。透けてんのかよ」
「3サイズも透けて見えるぞ」
「魔眼でも持ってんのかよ、中2」
「被写体の為に培った努力を魔眼持ち中2呼ばわりすんな」
わーぎゃーと男同士、馬鹿な事を言い合うオーケーコンビを尻目に僕はCさんの事を考えて、再度ちらりと覗き見る。
Cさんと同じグループで林間学校に行けたら、ドキドキはするけど楽しめただろうな…
僕の脳内は既に諦観の念でいっぱいだった。
まさかその姿をオーケーコンビが目敏く見ているとは露ほども思わず。
…
その日のお昼休み終わりケー君が唐突に告げた。
「A、オー、女子グループに話しつけてきたぞ。Cさんのいるグループな」
えっ!?いつ、Cさんが良いなって伝えたっけ!?