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幼馴染みという呪い

救いなんて殆ど有りません

―俺はアイツらが嫌いだ。


顔も運動神経も頭もそれなりに良い男と、同じくらいに良い女。

そんな奴らのご近所さんに生まれたのが俺こと長谷川優一。

一つでも優れたものが有れと願われたらしいが、比較対象がアレな時点で運の尽き。

これでも小学校卒業くらいまではただの仲良し幼馴染みだったんだ。


流れが変わったのは中学二年の頃。

俺は初めて恋をした。所謂一目惚れってやつなのだろう。

で、そんな相手から手紙で何故か呼び出された俺の心ははち切れんばかり。

ウッキウキで場所に向かって告げられた一言が、


「君、山下君と仲良いんだよね?彼に告白したいから協力して」


ときた。初恋は砕けるわ便利屋か仲介人としか見られてないわで散々だった。

当然断った。冗談じゃねぇ。


それからも状況は似た様なもんだった。

やれ情報寄越せだの協力しろだの取り成せだの…だーれも俺を見ちゃいねぇ。

流石に嫌気が差した俺は、せめて高校くらいはと頑張ってアイツらと違う所を目指した。

親にも志望校をバラさないように念を押した。だと言うのに、だ。

高校一年の春、クラスメイトにはアイツらの姿があった。何の冗談だこれは。


高校生になってからは更に酷いものだ。

女子ネットワークの牽制駆け引き抜け駆け処刑。何故ここまで残酷になれるのか。

一番不愉快なのがそのネットワークの一部に俺が勝手に組み込まれてる点だ。

何でもアイツが気安く話して懐に入れる数少ない人物だかららしい。殺すぞ。

当然俺に話し掛けてくる女子の目当てはアイツ。脅迫してくる奴まで居たのは笑った。物理被害出た時は警察巻き込んで大事にしてやったが。お陰で少しは静かになったよ。

尚、渦中のアイツ。よく女子に囲まれてモテモテだなとかぬかしおる。首を柱に括りたくなったのは初めてだ。

結局、卒業まで俺は色恋とは完全に無縁。

大学こそはと一念発起して県外の妖野大学なるあまり知名度の無い所を受けた。


受験戦争も難なく終わり、一人暮らしが始まった春。晴れやかな気分で目にしたものは、人の群れと中心のアイツらだった。

この辺りからアイツらに恐怖を抱いて生活することになる。

俺はサークルとは関わらず勉強したりバイトしたりの一般的大学生活を送っていたのだが、サークル関係者はそうではなかった。

「アレは逸材だ!口添えを!」

「彼が居ればウチはもっと飛躍を!」

「聞いたよ。仲良いんでしょ?連れてきてくんない?異論は聞かないけど」

どいつもこいつも俺を苛立たせる。皆死ねばいい!

と、腐り掛けた俺を助けてくれたのは民俗学の教授。夏の遠征の人手が欲しいんだとか。

アイツら及び勝手に形成されてる輪から離れられるならと俺は二つ返事で乗った。

教授との不可思議な縁は教授が死ぬまで続く事になる。

それからは大分気が楽だった。

野郎の叫びも女の悲鳴もただの雑音として処理出来る様になったからだ。

そして夏季休暇。親とアイツらには教授に付いて課外活動してくるとだけ伝えスマホの電源を落とす。

新幹線の車内には同じ科目を専攻している先輩方が何人か。もっと多いかと思っていたのだが教授曰く、


「見込みのある者しか連れてこれないのだよ。君はその一人というわけだ」


とのこと。期待されれば応えたくなるのは人の性。何が有るかは分からんがまぁ頑張ろう。


割りと人知を超えたトンデモな夏を越えて秋。アイツらが少ししつこかったが話す事なぞ何もない。というか話せないとごり押しした。いやアレは無理だわ。話した所で狂人扱い待ったなしだから。


翌年、進級に成功した俺を待っていたのは合コンの人数集めの為にアレを誘えという圧力の伴った自称お願いの群れ。

全部ぶった切ってやった。知るかボケ自分で誘えやクソが。

そしたら今度は俺にも参加してくれと色が変わった。問い詰めたらアイツが俺が参加するなら行くとかほざいたらしい。

俺は一度アイツをぶん殴っても許されるのではなかろうか。

当然全部シカトをくれてやった。泣きながら土下座する連中もいたが頭を踏みにじってスルーしてやった。


その後の生活は割りと安定した。学業、バイト、教授の手伝い。アイツらだけは相変わらず関わってこようとしてたが、教授の頼みを優先し続けた。

そのお陰か留年も無く無事卒業。就職先も教授の伝で即決まり、アイツらからも離れられるのが決まった。ああ本当にせいせいする。


就職して業務をこなす事早三年。アイツからメールが来た。なんとアイツら結婚するそうだ。まぁ不思議とも思わんが招待状送りたいから住所を教えてくれ、と書かれたメールを読んで思い切り顔をしかめた。

さてどうするべきか。

直接顔を見せて縁切り宣言が速いか、このままアドレス変えて物理的縁切りが速いか。

悩んでいたら上司に声を掛けられた。スマホを見ていきなり百面相し始めたから気になったそうだ。

なので感情整理も含めて相談する事にした結果、有給を使って乗り込む事になった。

アイツらの面を見るのもいつ以来か、楽しみではないが何事も…起こすのは今回は俺だな。取り敢えず現住所をメールで教えてやった。


披露宴というものは実に華やかだ。

おじさんやおばさんの顔も揃っている。まぁ結婚式なら揃って当然だが。

他の招待客と特に話す事も無いので煙管を磨いていたら、スタッフから声を掛けられた。何でも新郎が呼んでいるらしい。

此方は応じるつもりはない事を逆に伝えてもらった。

友人代表だの両家の親だのスピーチが終わる。そしたらアイツ、マイクを持って俺を見ながら話始めやがった。

そして言った。


 「俺達が無事結婚出来たのは、お前が様々な悪意や人から守ってくれたからだ。本当にありがとう!」


俺の中の何がが切れた。


「ふざけるな。ふざけるなよこの野郎。誰が、何時、お前らを、守ったって?ふざけるな!守ったんじゃねぇ、押し付けられたんだよ!いつもいつもいつもいつもいつも!寄ってくる連中は皆お前ら狙い!俺はその始末に追われ!ただの一つの報いも無く!」

「離れようとした俺の首に縄をかけたのは誰だ!去ろうとした俺を引きずったのは誰だ!他ならぬお前らだろうが!」

「幼馴染みの最後の情けだ。結婚を祝福はしてやろう。ああ本当におめでたいなクソッタレ!だがな!お前らとの縁もここで終いだ!もう二度と生きて会う事はねぇ!」

「それと、早々に離婚なんてしてみろ。地獄の底から舞い戻ってでも殺してやるからな」


長年腹の内に抱えていた物をぶちまけて、俺は退場した。

後悔は無い。とてもとても晴れやかな気分だ。今晩くらいは酒一本空けても許されるだろうさ。新たな俺の出発に乾杯ってな。


体調がなかなか良くならない苛立ちをぶつけました。

彼の行く先に幸有らんことを。

あ、誤字脱字の報告や感想お待ちしてます。

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