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3.獣

真っ暗な森をがむしゃらに走る。

ぶつかった枝が容赦なく皮膚を抉るがそれどころではない。走る音が嫌に響いて聞こえる。恐怖で見開いた目にじわりと涙が滲んだ。

先程見た怪物が後ろに迫っている光景を想像して首筋がぞわりと粟立(あわだ)つ。



こちらをみていた獣と目があったとき、日向は覚えていないが、きっと絶叫していた。

『あれ』は普通の獣ではなかった。

血で(したた)る口を(ゆが)め、『あれ』は日向を見てニタリと(わら)ったのだ!



そこからは覚えていない。

気がついたら恐怖で半狂乱(はんきょうらん)になりながら必死に走っていた。


どこをどう走ったかも覚えていない。自分の心臓の音が五月蝿(うるさ)すぎて他の音が聞こえないことも日向の恐怖を(あお)った。


きっと速さでは敵わない。ずっと走っていたって遅かれ早かれ追いつかれてしまう。その前になんとか切り抜けなければ、待っているのは死だ。

『あれ』が追いかけてくる姿を想像してしまい、反射で後ろを振り向いた日向は、走った勢いのまま何かに足元を(すく)われ盛大(せいだい)()けた。


「いった…」


どすんと重い音のあとにお尻に激痛が走る。太い根が地面から少し浮き出していたらしい。これに引っかかったのか、と荒い呼吸を繰り返しながら、未だ整わない呼吸をそのままに、日向は正面を見た。


「あ…」


『アレ』がいた。

日向をみて、ニヤリと嗤う。生臭い鉄の匂いが風に乗って日向の鼻腔を刺した。

死の匂いだ。


「やだ…、やだ」


日向は何とか距離を取ろうと後退った。湿った土で足が滑る。

『アレ』は日向を甚振(いたぶ)るようにゆっくりと近づいてきた。

咄嗟に握った地面の土を投げる。『アレ』はそれを軽々と(かわ)し、グッと腰を下ろした。


来る。


日向が身構えたのと『アレ』が跳躍したのは、ほぼ同時だった。

悲鳴をあげる暇さえなかった。

自分の死を呆然と理解する。

全てがスローモーションのように見えた。

大きく開かれた口も、血走った目も、鋭く尖った歯も、こびりついた赤黒い血も、滴る涎も、全て。


生温(なまぬる)い息が顔に当たる。

鋭い牙が目前に迫った、その時。


何の前触れもなく『アレ』が真横に吹き飛んだ。


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