09 めざせ!新聞部取材旅行
ありがとうございます。
「ねえ、ねえ、早く写真を見ましょうよー」
部室に帰って来るなり直子は、姫良に駆け寄り甘えるようにお願いした。
「…う、うん…」
照れながらも姫良は、テキパキとカメラからカードを抜き、部室のパソコンの電源を入れデスクトップのカードリーダーにさっきのカードを挿した。
「さすが姫ちゃん、手際がいいよね…」
直子が、そのパソコン操作を褒めると、マウスを動かす姫良の手が止まってしまった。姫良がまた照れていることに気づいた直子は、慌てて気を紛らわせようとして、別の何かを褒めようとあちこちを見渡した。
「ん…あ…すごい…よく撮れてるよ…きれいだよ……写真が……いっぱい映ってるね……」
なんだか、ちぐはぐな誉め言葉だが、写真はたくさんあったし、映りもよかった。
「……みんな……姫ちゃんの写真見なよ……いっぱいあるよ……」
片づけなどをしていた部長達にも声を掛け、みんなをモニターの前に集めた。
「おお、よく撮れてるなー」
「ピントもよく合ってるわ……………ん?…」
「どうした?満乃…」
「多くない?」
「ミッちゃん、何が多いの?」
満乃が、チラッと姫良を見たら、益々下を向いて小さくなって照れているのが分かった。
「いや、何でもないわ…とっても人が多いなあと思って…」
「そりゃあ、商店街だもん、人が多いのは当たり前だろう?変なこというなあ満乃は…」
文太は、真面目な顔で写真を見ながら、そんなことを言い返してきた。
満乃は、静かに姫良の傍に行き、他の人には聞こえないように小さな声で話しかけた。
「いっぱい撮れてよかったわね、大事な奴だけ自分のメモリにコピーしておいたらいいわよ……」
写真の3枚に1枚は部長が写っていて、どれも笑顔で素敵な物ばかりだった。
ここで満乃は、気になっていることを部長に確認することにした。
「キャップ、せっかくもらった取材旅行券だけど、私達高校生だけでは行けないと思うの。大人の引率が必要よ。それも新聞部の引率をしてくれる先生がね」
「そうだキャップ、この新聞部に顧問の先生でもいれば問題ないんだけど……」
と、副部長の文太が、困ったような顔で言った。
「え?新聞部に顧問の先生はいないの?」
びっくりしたように、直子が聞き返した。
「お前、今更何を言っているんだよ。部活の時に、誰か先生が来たことがあるか?」
大真面目な顔で文太に言われて、だれも反論できなかった。
しかし、朝日奈部長が、ちょっと笑いをこらえて、ゆっくり話し出した。
「みんな、思い出してほしいんだが、部活の時、誰も先生は来なかったけど、先生には会ってたよな……」
「………………………あ!…校長先生……新聞を届けに行ってた…」
「そう、校長先生に毎回会ってたんだ……そして、みんなで、話をしてた……」
「え?……まさか?……だから?………そうなの?……」
「そう……顧問なの。…僕が1年時、新聞部を作って言った時、顧問になってくれた…」
「わああああああ……そうだったんだ……」
満乃の目が光った。
「じゃあ、話が早いわ、これから校長先生に、夏休みの取材旅行の引率をお願いに行きましょうよ」
「そうだな…よし!」
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「………………と、言うわけなんです。校長先生引率をお願いできますか?」
「ええ、いいわよ!……嬉しいわね、久しぶりに若い人と旅行ができるなんて……しかも仕事じゃなくて……夏休みが楽しみだわ……」
「え?いいんですか?…」
「いいに、決まってるじゃない……何か文句あるの?」
「いいえ、何もありません……どうぞよろしくお願いいたします……」
「それじゃあ、私が、みなさんの親御さんに取材旅行願いのお便りを書くから、渡して了解をもらってきてちょうだいね」
「はい、わかりました」
傍で聞いていた孫の高之が、面白くなさそうな顔をしていた。
「いいなあ、陽太達は楽しそうで。生徒会なんて、夏休みも仕事ばかりで、学校を離れられないんだぜ!ずるいなーー、俺も行きてえなーー」
生徒会会長の桜坂高之は、背が高くスポーツ万能で女子にも人気がある。普段は生徒会の仕事をする関係で、ふざけた様子は全く見せない。でも、親友の朝日奈陽太といる時だけは、弱みも本音もさらしてしまう。
増田満乃は、そんな孝之が最近少し気になってきていた。
「会長さんも関係者じゃないかしら」
「ん?何のことだい、満乃」
部長が不思議そうに聞き返した。すると、満乃の、論理的説明がはじまった。
「つまり…………新聞部の原稿は、生徒会会長の“印”がなければ発行できません。ということは、新聞に押されている生徒会会長の印を押している生徒会会長もまた、新聞を作っている一員だということです。今回、取材旅行の券には、新聞部関係者と引率の先生限定クーポンということになっていますので、新聞を作っている一員の生徒会会長も新聞部関係者とうことになります。従って、桜坂高之さんも、一緒に取材旅行に行かなければなりません」
自信満々に、“旅行に行かなければならない”と、満乃は言い切った。そして、最後に、ニヤッと笑った。
「やったあああああああーーー」
一番喜んだのは、生徒会会長かと思ったが、満乃もまた、どこかで嬉しさを感じていた。
「やれやれ、これで遠慮なしに荷物持ちをさせられるからよかったのかな?……」
と、校長先生がニッコリと笑って眺めていた。
ありがとうございました。