08 めざせ!楽しい夏休みの計画
ありがとうございます。
「ナオちゃん、今日もありがとうねー」
「いいえ、どういたしまして」
直子は、いつものように満面の笑顔で新聞を渡してお礼を言った。新聞を受け取った買い物途中の女性も直子につられるように笑顔になっていた。
「いやあ、陽ちゃん、お疲れさん。だいたい終わるかな…」
「あ!会長さん…もうすぐ新聞も無くなるようです」
「キャップ、俺の新聞は、無くなりました~」
「私もで~す」
「私の新聞は、後は、会長さんの分だけです」
「そうか、みんなお疲れ様。では、はい、これは上杉会長の分です」
満乃から受け取った新聞を部長は、商店街会長に渡した。少し小太りでメガネをかけたいつも笑顔の商店街会長は、嬉しそうにちょっと新聞を眺めてから部長のまわりを探した。
「……これは後でゆっくり読むとして……あの髪の長い、めんこい女の子の姿が見えないようだが……」
「姫ちゃんでしたら、今日は写真を撮ってもらってまして。さっきは、向こうでカメラを構えてましたが……」
部長がさっきまで新聞を配っていたあたりを指して話していると、姫良がこちらに笑顔で走って来るのが見えた。
「あ、今、こっちに来たようです」
「……キャップ……す……い……ません、夢中で……撮ってたら……はぐれちゃって……」
息を切らしながら、とても楽しかったのか、笑顔が止まらなかった。
「いいんだよ、楽しそうに撮ってたね。いっぱい撮れたかい?」
「…はい、たくさん………」
「帰ったら、みんなで見ようね、楽しみだな」
直子が、駆け寄ってきて姫良に抱き着きながら、カメラを覗き込んで嬉しそうに言った。
姫良も嬉しそうにカメラを抱えて、笑っていた。
そんな様子を見ながら、商店街会長の上杉さんは、部長達に改まってもう一度確認した。
「本当に、これでいいのかい?」
部長は、一度部員のみんなを見渡してから、ゆっくりと返事をした。
「はい、ありがとうございます。僕達の新聞をこの商店街で、決まった時間と場所を確保して配布することを許してくださり、加えて報酬までいただけるなんて、とても光栄なことです」
「…報酬って言ったって……アンパン5つだぞ!……これじゃ、報酬にはならないんじゃないか?」
「いいえ、僕達は、報酬のために定期購読の新聞を発行しているのではありません。僕達は、“号外!”を発行するためにやっているんです」
朝日奈部長は、堂々と“号外発行の目標”を言った。
「号外?」
上杉会長は、まったく意味が分からなかったが、その堂々たる態度だけは、自信満々だと理解できた。
「そうです。その昔、号外をかっこよく配る新聞部の高校生を、僕は見たんです。僕もあんな風になりたい、あんな新聞部を作り、号外を発行したい、そう思うようになりました」
「いやあ、よくわからんが、君達がそれでよければ、我々はいつまでも協力するよ。なんせ君達の新聞のお陰で、この商店街もとてもにぎわっているんだからね。ところで、学食の方はどうしたんだね」
「学食も商店街と同じようにお願いしました」
「私達が作った新聞を食堂に置いてもらって、その代わりにパンを1個もらうことにしたのよ。上杉のおじさん、何だと思う?」
直子は、もう慣れたもので、商店街の会長も自分の身内のように話していた。
上杉会長も、直子には甘くなっていて、砕けた言葉遣いでもまったく気にならないほど親しくなっていた。
「おや?学食からは、パンを1個でよかったのかい?…腹が減るんじゃないか?」
「大丈夫よ…とびっきりのやつをお願いしたの」
「……何だろうね?……降参します!」
「えっとね……ウサギパンです!…これはね、なかなか買えないものなの、初等部購買の人気商品で、姫ちゃんのお気に入りなんですよ!」
「へえーーすごいパンがあるんだね……うちの商店街でも仕入れるかな?」
「あ!ずるいーー」
そんな話をしていると、ますます姫良の顔が赤くなり、下を向き、長い髪の毛に全身が隠れてしまいそうな雰囲気になっていた。
「あ、ごめん、ごめん……」
気がついて、みんなが、口々に姫良に謝りだしたから、ますます顔だけが赤みを増してきた。
そこへ商店街会長上杉さんの奥さんが、何なら1枚の券を持ってきた。
「ほれ、あんた、これをあげるんだろ」
と、渡されたものを上杉会長は
「おお、これこれ、忘れるところだった、よく思い出してくれた、よーし!」
と、朝日奈部長に手渡した。
「これを新聞部にあげるよ。もうすぐ夏休みだから、取材旅行にでも行ってきなさい。この券は、商店街で発行しているもので、この夏限定のクーポン券だ。行先はここに書いてある。交通手段と宿泊は、すべてこの券1枚で済む。新聞部関係者と引率の先生限定のプレミアクーポン券だ」
「え!でも、また、こんなすごいものいただけませんよ……この間の天体望遠鏡といい……」
部長は、びっくりして券を返そうとした。
「なあに、大丈夫だよ、これは、君達の新聞のお礼にしようと考えた物なんだ。なあ、これで、ひょっとしたらスクープ記事が書けて“号外”を出せるかもしれないだろ?なんせ取材旅行だよ!」
笑顔の商店街会長だった。
「やった~キャップ、すごいなー、夏休みが待ち遠しいなー」
「キャアー、ウレシー」
手放しで文太と直子は、大喜びをした。姫良は部長の後ろに隠れていたが、満乃にはちょっと気になることがあった。
「それでは、遠慮なくいただきます。ありがとうございました」
思わぬ夏休みのプレゼントをもらって、新聞部員達は、心うきうきで学校に戻って行った。
ありがとうございました。