06 めざせ!月のウサギパン
ありがとうございます。
「キャップ、これ何とかしましょうよ~」
部室に帰ってきた直子と文太は、両手いっぱいの菓子パンをようやく机の上に積み上げて叫んだ。
「それにしても見事ね……、いつものアンパンでしょ、クリームパン、ジャムパン……これ焼きそばパンよ!」
冷静な満乃も、目を丸くしてパンの山をほじくっていた。
「姫ちゃんが好きなパンはあるかな」
後ろを覗き込んで、部長が尋ねると
「……わたし……ウサギパンが……」
消えそうな声で姫良が答えて、また隠れた。
「あれ、俺知ってるぞ!ウサギパンって、この星ヶ空学園の初等部売店の超人気商品で、あんまり手に入らないんだ……」
文太が、ちょっと残念そうにそう言った。
すると、部長がパンの山に手を伸ばしながら、ニッコリ微笑んで
「探してみようよ、こんなにパンをもらったんだ。ひょっとしたら、売店のおばちゃんが“ウサギパン”を入れてくれてるかもしれないよ……姫ちゃんも一緒に探そうよ」
そう言って、姫ちゃんの手も繋いで一緒にパンを一つ一つ探し始めた。
それに、部長は
「これは、学食のおばちゃん達がくれた大切なパンだからね。丁寧に扱ってよ……頼むよ」
と、アンパンを頬張りながら、嬉しそうに付け加えた。
しばらく探していると、
「あ!」
と、姫良と部長が、同時に声を上げた。
なんと、姫良の左手と部長の右手が、ウサギパンの長いウサギの耳を片方ずつつかんでいたのである。次の瞬間、ゆっくりともう片方の手で、顔の部分を2人は持ち上げ、見事“ウサギパン”を救出することができた。
「わああああ!!!」
新聞部員達は、全員が喜んだ。
姫良も喜んだ。
普段は、大きな声など出さないのに、きっと自分でもびっくりするくらい大きな声を出して喜んだ。
だって、しばらく朝日奈部長が、見とれていたのだから。
「…あ!………………う……………んんん…………」
すぐに、気がついてしまった。
「嬉しかったよ、僕もとっても。飛び上がっちゃった!!よかったよね、ほら…」
部長は、ゆっくりと手に繋がっている“ウサギパン”の耳をたどりながら、反対側がまだ姫良ににぎられていることを確認した。
姫良は、パンと部長の顔を交互に見ながら
「……あの時も……」
と、何か続けて言いたそうにしていたが、直子達も喜んで飛びついて来たので、その先はうやむやになってしまった。
満乃は、“ウサギパン”を姫良と部長で食べればいいと言ったのだが、姫良が『みんなで』というので、耳を姫良と部長で、顔を直子と満乃と文太で食べた。
しっとりとした焼き上がりで、耳にまでチョコとカスタードクリームがブレンドされ、飾りには多様な果物が使われたとても豪華なものだった。
「……キャップ……」
半分まで食べた“ウサギパンの耳”を片手に、姫良が部長に近づき話しかけた。
“”
「ん?……」
部長は、食べかけていた“耳”を慌てて飲み込んだ。普段は、姫良から声を掛けることなどほとんどなかったので、慌てて返事をしようとしたが、まだ“パン”が口の中にあって焦ってしまった。
「……あ……う…んん…」
「……この間、電器屋さんにもらった……天体望遠鏡……組み立てていいかしら?」
ようやくすべてを飲み込んだ部長は、落ち着いて返事をした。
「かまわないよ。姫ちゃんは、星を見たいのかい?」
「……月を……」
すると直子が、寄ってきて姫良を手伝うと言い出した。
「だって、去年のお月見を思い出すじゃない!みんなでお月見、楽しかったわよね。姫ちゃん、早く組み立てよう、手伝うからさ!」
「何言ってのナオちゃんったら、お月見の時の団子や校長先生がくれたお菓子がおいしかったから、またやりたんでしょ!」
満乃が、去年のことを持ち出し、直子を少しからかった。それでも、直子はお月見がしたいと言い出した。
「じゃあ、今年は姫ちゃんもいるし、高之や校長先生も呼んで、楽しくやろうか?」
部長が、いつもの笑顔で言った。すると、部員もつられて、
「よーし、じゃあ9月の満月の夜は、お月見大会にしよう!おー」
と、歓声が上がった。
「そうと決まれば、早く天体望遠鏡を組み立ててしまおう!」
部員達は、姫良を中心に天体望遠鏡の組み立てを始めた。
もうすぐ夏休みも控えている新聞部員達は、楽しいお祭りの目標ができて、なんだかいつも以上にうきうきしているように見えた。
ありがとうございました。