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05 めざせ!想いの再会を

ありがとうございます。

「待っていましたよ、さあ…」


 校長室の扉が開いた時、新聞部のみんなは、やっぱり緊張して中に入った。


「これが、今回の新聞です」


 でも、朝日奈(あさひな)部長だけは、少し胸を張って真っ先に進んで行った。そして、大きな机に向かって座っている校長に新聞を渡そうとした時、その横に立っている人影に気が付いた。


「なんだ、お前もここに居たのか。ちょうどいいから、一緒に渡すわ」


 そこに居たのは、桜坂(さくらざか)生徒会長だった。


 びっくりしたのは、新聞部員で、直子(なおこ)が部長に近づき小声で


「キャップ、どうしてここに生徒会長がいるんですか?」

「ん、直子は知らなかったか?生徒会長は、校長の孫なんだ。何か用事でもあったんだろう?」

「え!生徒会長と校長って、そんな関係だったんですか?ミツっちゃんは知ってた?」


振り返って、今度は満乃(みつの)に詰め寄った。


「…んん、なんとなく、名字が同じだったんで…親戚かなぐらいには思ってたけど……まさか孫だなんてね……」


 相変わらず満乃は冷静で、そんなに驚いた様子は見せなかったし、幼馴染の文太(ぶんた)も知っていたようだった。


「別に、あいつが校長の孫だって、知ってるやつもけっこういるぞ。俺も昔から知ってるけど、だからって、どうこう言うやつじゃないぜ…」


 朝日奈陽太と桜坂高之(さくらざかたかゆき)は、小さい頃からの知り合いで仲良しだった。

 校長は、そんな2人の関係を他の部員にもそれとなく気遣って声を掛けた。


「朝日奈部長、少し用があって生徒会長に来てもらってたの、一緒に新聞の感想なんかお聞きしたいわ、どうかしら?」


「校長先生がそう言うのならいいですよ…」


 朝日奈部長は、チラッと桜坂生徒会長を見て、この後渡すつもりだった新聞を手渡した。


「さあ、みなさん、ソファにかけて休んでください、お茶もありますから…」


 校長自らが、それぞれの学生のティーカップに紅茶を入れて回った。

 生徒会長は1人用のソファに座ったが、校長は少し離れた自分の大きな机に陣取った。新聞部員は、残りのソファに分散して座ったが、どうにも落ち着かなくてやりきれなかった。

 

 新聞に目を通した校長は、いつものように部員達を褒め出した。


「とてもよく書けているわ。いつもながら、大したものだわ。先週から始まった商店街の記事は、抜群に面白いわね…」

「ありがとうございます…」

 

 すると、生徒会長が、ゆっくりと新聞を片手で持ち上げながら口を開いた。


「この新聞さー、商店街の商品チラシのような感じがするんだけど……」

「確かに、商店街の商品の事を書いています…」


 副部長の文太が緊張しながら答えた。


「それじゃあさ……やっぱり、新聞じゃなくて、広告チラシじゃないかなあ」


 少しバカにしたような感じで、生徒会長は新聞をヒラヒラさせながら、新聞部員に言った。

 朝日奈部長は、『またいつもの事か』ぐらいであまり気にならなかったが、周りを見ると、他の新聞部員達は、頭に血が上っているのがわかった。

特に文太は、先ほどの続きがあるから、今にも怒り出しそうな顔をしていた。

さっき食堂のおばちゃん達が言ってくれたことを言えば、反論になるかなと思い、お腹に力を込め、目を見張って生徒会長を見つめた時、校長先生が、不意に話を遮った。


「高之、もうおやめなさい!あなただってわかって言ってるんでしょ。……下原稿の時、生徒会の“印”を押してるんだから」


急に生徒会長は、名前を呼ばれて“孫”の顔に戻ってしまった。そして、つい、いつもの癖が口から出た。


「ばあちゃん……何を言ってるのかな?……」


 もうそこには、生徒会長ではなく、昔の“ケンカ友達”の桜坂高之がいた。


「だめよ、あなたの負けよ、今回は、陽ちゃんに負けたのよ。だって、あの新聞の素晴らしさは、あなたが一番わかってるんだからね…そうでしょ!」


 優しい口調で諭すのは、校長ではなく、“陽太と高之のばあちゃん”だった。


「もう、ばあちゃんには、かなわないなあ。みんな、ごめんよ。意地悪な事言って…」


 すっかり穏やかな顔になった桜坂生徒会長は、新聞部員に謝って、おいしそうに紅茶をすすった。

 新聞部部員達は、呆気にとられてしばらく沈黙したが、部長の方を見ると何事もなかったかのように紅茶をすすっていた。


 みんなが見ていることに気がついた部長は


「ああ、すまんな。やっぱりサクは知ってて意地悪しやがって…本当に。昔からそうなんだから」

「だから、ごめんって。あんまり、上手に作るものだからさ…」

「お、そんなに、上手かったか?」


 部長は、ようやく本気で嬉しそうに笑った。


「ああ、……でも、これ、お前の考えじゃないだろう!」

「そうか、サクには、わかるか。……これはな、(ひめ)ちゃんのアイディアなんだ…」


「姫ちゃんか…すごいな。よく、思いついたね…」


「そういえば、姫ちゃん言ってたよね。去年のパンフレットを見て、僕達のことをまた知ることができたって…」


 姫良(ひめよ)は、だんだんと下を向き誰かの後ろに隠れたくなった。ソファに座ってはいるが、自分の居場所は、ここではないと思えてくるのだった。


「…………………」


(ずーーーと前に、どっかで会ったことが、あるのかな?)


 朝日奈部長は、この間の夜送って行った時に、姫良が言っていたことを思い出していた。


 その時、校長が静かに立ち上がり、みんなの傍に近寄って来た。


「この陽太(ようた)君と高之はね、小さい時からケンカばかりしてたの。でもね、今みたいに最後は、必ずお互いにわかり合うのね。逆に言うと、わかり合うことができると知っているからケンカするんだと思うの。そんなわかり合える人って、きっとまた会いたくなるものよね。この新聞はね、そんなきっかけを満たしてくれる……いい新聞なのよね」


 校長は、最後に姫良に近づき頭を撫ぜながら


「……本当に良かったわね……」


と、小さな、小さな声で言った。


ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
仲が良いからこそのケンカなんですね。 校長先生も生徒の自主性に任せようと、最初は干渉しなかったんでしょうね〜。
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