04 めざせ!人と人との橋渡し
ありがとうございます。
「ありがとうございます…来週からは、お宅へお届けしますから…」
「楽しみにしてるわね…」
「キャップ、また契約が取れましたよ!」
「私もです…それにしても、よくこんなにお客さんが買ってくれますね…」
今日は、夕方の買い物時期を目指して、星ヶ空学園新聞部の“星空新聞売り込み大作戦”を行っていたが、すぐさま定期購読者の申し込みが詰めかけ、大忙しになっていた。
「いやあ、これも2週に渡ってみんが頑張ってくれたおかげだよ」
朝日奈部長は、商店街の一角を借りて臨時新聞販売所を設け、そこでお客さんを案内しながらも部員の頑張りを笑顔で褒めていた。
「だってキャップは、先週、新聞を無料で配っちゃうんだから、俺はびっくりしたんだよー」
「そうそう、本当にキャップは、相談もしないで決めちゃうんだから…」
文太と直子は、文句を言いつつも自然に笑顔になっていることに気がついてはいなかった。
「まあ、どんないい新聞作っても、宣伝無しでは効果が上がらないのよね…」
実は、商店街の広告入りチラシ形態の新聞を作った時、宣伝を兼ねて1回目は無料配布にしたらいいと提案したのは、満乃だった。その効果が見事的中し、2週目に作成した新聞の申し込みをする人が、激増したという訳である。
「やあ、朝日奈君……」
「あ、上杉電器の、…いえ、商店会会長、この度は、ありがとうございます…」
「何をそんなに、改まらなくても…電器屋のおやじでいいよ……」
「いやあ、そんな、でも今回のアドバイスのお陰で、とってもいい新聞になり、お客さんもたくさん増えました…」
「おや?聞いたよ!君達は、もっとすごい工夫をしたって!」
「え?工夫?」
「そうさ、うちのお客さんが言ってたよ、ただの新聞のチラシより面白いって!だから、契約したってさ!」
上杉電器照会のおじさんは、新聞部のみんなを見渡し、誇らしげに褒めるような口ぶりで、お客さんの話を伝えた。
朝日奈部長は、何を褒められているのかよくわからなかったが、嬉しさだけは心に残った。
……………………………………………
学校に帰って来て、いつものように学食のおばちゃんにも新聞を届けに行った。
「…ほら、みんな来たよ!……みんなも…どうだい?」
「おばちゃん、いつもの新聞だよ。」
「ああ、ありがとう!ナオちゃん。…ねえ、余分にあるかい?」
「どうしたの?」
「見て、学食の仲間なの!」
そこには、学食で働くおばちゃん達が、何人も集まっていた。いつもは、少し離れた場所で働く人や曜日が違う人、売店で働く人なども集まっていた。
「え?みなさん、どうしたんですか?」
朝日奈部長が、みんなを見渡して尋ねた。
「なにね~、先週もらった新聞あるだろー、あれを見せたら、みんなが、ほしいって言うんだよ~。いやあ、あれは売り物だから、毎週はあげられないよって言ったら、みんなは自分で買うって言うこと聞かなくてさ~、何とかならないかな~」
いつも定期購読しているおばちゃんが、困った顔で朝日奈部長に頼んできた。
「…大丈夫ですよ。新聞ありますから、いつもの“アンパン1個分”でお分けできますよ!」
「本当かい!!……実はさ……食堂だけで、こんなにアンパンもらってもしょうがないだろ?…だからさ、クリームパンやジャムパンでも、許してくれないかな?」
どうも、食堂のおばちゃんは、本気でみんなで相談したらしく、真面目な顔でお願いしてきた。
もちろん、朝日奈部長は、すぐに笑顔で心からお礼を言って
「もちろんいいですよ。ありがとうございます」
と、応じた。
「キャップ、商店街の情報って学食のおばちゃん達にも大切なものだったんですね」
自分達の新しい新聞の情報源を商店街に求めたことが、成功のカギだったと分析した副部長の文太は、誇らしげにそう朝日奈部長に話した。
ところが、横でその会話を聞いていた学食のおばちゃん達が、ちょっと首をかしげてしみじみと新聞を見ながら、おしゃべりをし出した。
「私らは、商店街のチラシもよく見るんだよね……そうそう……チラシだって買い物の参考にもするさ……けど、あんたらの新聞はチラシと違って、すごくー面白いのよね……だって、この食材をあんた達が、食べたらどんだけおいしかったかとか、あんた達の中には好きじゃない人がいるとか、自分の好みは何かとか、……今の高校生が考えていることが、全部詰まっているような気がして本当にわかりやすいんだものね……高校生の眼で見た商店街って、面白いよね……よく書けてると思ったわよ……毎週楽しみにできるものね……」
おばちゃん達は、口々にそんなことを言いながら、またそれぞれの仕事場に戻って行った。
「そっか……そういうことか……上杉電器のおじさんが言ってたのは」
朝日奈部長は、上杉電器の商店会会長の言っていた“広告チラシだけじゃない”という意味をようやく理解したような気になった。同時に、それをいち早く気づかせてくれた姫良には、とても感謝した。
「キャップ、あの時みんなで記事を書き直してよかったですね」
「そうだな、アイデアをくれた姫ちゃんに、改めてみんなでお礼をしなくちゃなあ」
新聞部のみんなは、嬉しそうにはしゃぎながら、姫良に近づき喜びを伝えた。
「……そんな……お礼だなんて……私だって……」
姫良は、また照れて朝日奈部長の後ろに隠れてしまった。
ありがとうございました。