03 めざせ!定期購読者倍増計画
ありがとうございます。
「あら!ナオちゃん久しぶり、元気だった?」
「あ!お肉屋のおばちゃん、うん、元気だよ!おばちゃんも元気そうで何より!」
「ありがとね!コロッケ食べる?みなさんの分もあるよ…」
「ほんと?……キャップ?いい?……」
親し気に話しかけられた直子は、肉屋のおいしそうなコロッケの匂いを我慢しつつ、部長に“おねだり”の表情を見せた。
朝日奈部長は、ポケットの財布を取り出し中身をちょっと見てから、苦笑いしてうなずき
「……いいよ」
と、直子に言った。
すぐに、直子は、おばちゃんに人数分のコロッケを買うから、“ちょうだい!”と伝えた。すると、肉屋のおばちゃんは、即座にコロッケを渡してくれたが、笑顔でこんなことを言ってくれた。
「何言ってんのナオちゃん。あんたとこのパンフレットのお陰で、今年はうちも儲かってのよ、ありがとうね!これは、お礼よ……」
「おばちゃん、どういうこと?」
直子は、不思議そうに聞き返すと、
「今年は、星ヶ空学園の学生が増えたでしょう、それにこの町に住む人も増えたのよ。だから、商店街で買い物をする人が増えたって事よ……」
「……ああ、そうなんだ」
そんな話をする間中、肉屋のおばちゃんは、ずうっと笑顔でニコニコしていた。
「他の店にも行ってみようか……」
部長がそう言って、歩き出すと、あちこちから声が飛んで来た。
「ミッちゃん、あの雑誌ね~新刊入ったよ、とってあるからね……」
「文太君、帰りに寄ってね~、大きなスイカが入ったんだ、あげるからもっていってね……」
「陽ちゃん、みんなで来たのかい?うちでおやつ食べていきな、おまけしとくからさ……」
「お、新しい新聞部員さんだね、めんこい子だね、商店街で歓迎するから何でも言ってね……」
ちょっと歩いただけでも、次から次へと声を掛けられて、お土産もたくさんもらって、持ちきれなくなってしまった。
「キャップ、あのパンフレットって、商店街にもだいぶ影響があったんですね……」
副部長の文太は、自分達の影響を今更のように驚いた。
「よし、このことを素直に商店街の会長さんに話して、定期購読者を増やす案を一緒に考えてもうらおう」
朝日奈部長達は、その足で商店街の会長さんのお店に向かった。会長さんのお店は上杉電器照会という小さな電器屋さんだった。
部長達は、会長さんに新聞の定期購読者を増やす相談をしに来たことを伝え、何か力を貸してほしいと伝えた。
すると会長は、喜んで商店街が協力を惜しまないことを約束してくれたが、それよりもまず、新聞部の活躍で、この電器屋を含めて、商店街全体にお客さんが増えていることを感謝された。
「いやあ、みんなにはそのうちにお礼に行こうと思っていたんだよ。今日は、丁度よかった。うちにある品物、何でも好きな物一つあげるよ。持って行っていいよ、学校で使っておくれ」
「え?そんな…電器屋さんにある物なんて、そんな高価な物、いただけませんよ…」
部長は、必死で断ったが、電器屋のおじさんはなかなか引き下がらず、何か新聞部に感謝の気持ちを伝えたいと、一生懸命に品物を勧めてきた。
部長は、仕方なく
「じゃあ、もし何年も売れ残っていて、これからも売れないんじゃないかなんていうものがあれば、それをいただくというのはどうでしょうか?」
と、提案してみた。
電器屋のおじさんは、少し考えていたが、何かひらめいたようで、明るい笑顔で奥から大きな古い箱を引っ張り出してきた。
「これを持っていきなさい。これは、電動式の天体望遠鏡だ。倍率はそんなに高くはないが、月を見るにはちょうどいいし、電動なのでピントも自動で合わせてくれる。ちょっと古いが、性能は抜群だ。だが、これは誰も買わないんだ。」
「え?どうして誰も買わないってわかるんですか?」
「ん、それはな、これは、わしが作ったからじゃ。そして、これは売り物にしていないんじゃ。でも、今だけ売り物にした。だから、君達にあげよう、いいな」
電器屋のおじさんは、高校生たちに何かを期待するようなまなざしを向けて箱を渡した。そして、おもむろに言葉を続けた。
「ああ、それからな……例の新聞な~……商店街のチラシ形式の新聞にしたらどうだね?新聞に商店街のいろいろな店のおすすめや特売、名物などを入れるんだ。そして、買い物に来ているお客さんにその新聞を契約してもらうというのはどうかな?」
「ああ、なるほど……」
「キャップ、いいアイディアですね…」
「そうよ、それなら、たくさんの人が新聞を見て、買い物を考えたりできるわ!」
「さすが!商店街の会長さんだわ!」
「ありがとうございます、さっそくこのアイディアで、新聞を作ってみます…。できたら、来週、また、来ますのでよろしくお願いいたします…」
「ああ、いつでも…何回でも…遠慮なくどうぞ…」
………………………………………………
次の日から商店街の特徴を盛り込んだ新聞づくりが始まった。手分けして、商店街の取材をして、お客さんが買い物をしたくなるような紙面づくりを考えた。
「おお、さすが直子だ。それぞれの店の“売り”がよく盛り込まれているし、店主の人柄もよく表現されている」
久しぶりの編集長として血が騒ぐのか、陽太は紙面の隅々まで念入りに目を通した。
「文太、もう少し満乃の記事と直子の記事を枠で囲って目立つようにしてくれ!」
「キャップ、了解しました!」
「それが出来たら、今日はもう終わりにしよう…」
もう、6月になり北の国でも衣替えで夏服になったが、夜はまだ少し冷える。男子は夏も冬も学生服だが、上着の着用が自由になる。女子は冬のセーラー服から夏は半そでのジャンパースカートになるのでより軽装感が増す。
今週は、新しい紙面づくりで、帰りが遅くなり、もう暗くなっている。学校は、住宅地より少し郊外にあるので、気温も低い。
「直子と満乃は文太が送って行っていってくれ、姫ちゃんは僕が送って行くから」
「ああ、わかった」
いつものように、帰り道が同じ方向で朝日奈部長は指示した。
姫良は、校長の紹介で学園の寮に入って生活している。基本的に、星ヶ空学園の学生寮は大学生専用だが、特別に使わせてもらっていて、高等科からは少し離れている。
その夜も晴れていて星がきれいに見えていた。
「姫ちゃん、寒くないかい?」
「…ええ、…だいじょうぶ……です」
いつものように、朝日奈部長の方を見て、笑顔で答えていた。
「新聞づくりは、大変じゃないかい?今回、また、新しい方法を試しているけど…」
「楽しいわ…とっても。…もっと、もっと…この時間が続けばいいなあと……」
姫良は、きれいな星空を見上げながら、いつもよりたくさん話した。
陽太も、つられて星空を見上げると、そこには大きな月が浮かんでいた。
「…満月なんだね…」
思わず、そう言うと
「…あと何回、一緒に見れるかしら…」
姫良が月を見たまま、小声でつぶやいた。陽太は、聞き返そうかどうしようか迷ったが、そのままにした。
しばらく歩いていると、姫良が朝日奈部長の方を向いて、迷いながら新聞づくりの話をし出した。
「キャップ……今回の新聞……ですが……このままだと……ただの……………お店のチラシ広告になって………しまうんじゃないでしょうか?」
「チラシ広告?……確かに、そうかもしれないなあ…でも、それもお客さんは、喜ぶかも?」
「それじゃあ……私達、新聞部が……作る………意味が…………」
「じゃあ、姫ちゃん、何かいい案は、あるかい?」
朝日奈部長は、月野姫良に向き合い、優しく尋ねるように、ゆっくり質問した。
「私達の日常を書くんです。この新聞を作っている高校生の、私達自信の事を、“書き足す”んです」
「なぜ、そうすることがいいと思うんだい?」
「キャップは、去年作った学校パンフレットに、入れたじゃないですか。部長達、新聞部の人達の日常を。毎日の頑張りを。自分達は、こうやって毎日学園生活を頑張っているんだって、書いてありました」
「ああ、あれは、文太のアイディアなんだ。せっかく作るんだから、誰が作ったかも知ってもらいたいって。余った余白でいいからって、満乃にもらって、みんなで日記風に書いたんだ」
「……私……とっても、嬉しかったんです。あれがあったから、もう一度、会いたくなったんです…あ…な」
姫良の目に光る粒があった。姫良は、本当にいつもより力強く、気持ちを込めてお願いしているように感じた。
「だから…ただのチラシ広告ではなく…私達を伝えることができれば…きっと…喜んでくれる人もいるんじゃないかと…………」
朝日奈部長は、しばらく姫良の顔を見ながら考えていたが、すぐに笑顔になって明るく言った。
「ありがとうね。そんなに僕達を待っていてくれたなんて…本当に嬉しいよ…、よし!今度も、また、僕達を届けることにしよう!!」
ありがとうございました。