14 めざせ!夢の想い人
ありがとうございます。盆踊り後編です。姫ちゃんの重大な決意が明かされます。さて……
「嬉しいよ、またの姫ちゃんに会えているなんて!早くこの事をみんなにも教えないと…」
「待って!…陽ちゃん、ごめんなさい」
「どうしたの?」
「ダメなの。このことを他の人に教えてしまうと、大騒ぎになって、大変なことになってしまうわ。だから、この前も………………」
「……そっか…………それで………僕は、姫ちゃんのことを覚えていなかったのか……」
朝日奈新聞部長は、すべてを理解した。姫良との記憶は、消されていたのだ。
「じゃあ、僕が覚えている“号外を配る新聞部員”っていうのは?……」
部長は、自分の記憶をたどりながら、不思議そうに姫良に尋ねた。
「わたし達の力って、とっても強い記憶は、一つの事しか消せないの。あの時は……“わたしが帰ったことをスクープして号外を配った高校生”と……“わたしに関する記憶”と……2つのどちらか一つしか……あなたから消せなかったのよ。…………そして……“わたしに関する記憶”を消せば、号外の中身も消えることが分かっていたので……あの時はそうしたわ……ごめんなさい」
姫良は、戸惑いながら、それでも陽太からは目を逸らさず、説明した。
「そうか、わかったよ。それは仕方がないことだと思うよ。でも、また、どうして会いに来てくれたんだい?」
陽太は、優しくうなずきながら聞き、ゆっくりと素直な疑問を返した。
「……わたしは、小学生としてきた時、真っ先に声をかけて遊んでくれたのが陽ちゃんだったの。そして、いろいろ親切にしてくれたわ、ウサギパンのこともそう、短い時間だったけど、本当に楽しかったの。わたしは…………忘れられなかったの!」
それを聞いた陽太は、心の底から嬉しかった。握っている手にも力が入り
「……ありがとう……」
と、言葉があふれた。
「ううん……わたしなんか。……そんな時、あのパンフレットを見たの。陽ちゃんのことが書いてあったの。もう、居ても立ってもいられなかったの!お父さんと、お母さんにお願いしたの。そしたら、なんとか夏の間だけ許してくれたのよ」
あんなに照れ屋だった姫良が、堰を切ったように話した。自分の気持ちを伝えたくて仕方がないという様子が、陽太には手に取るようにわかった。
「夏の間だけ?」
陽太は、驚いた。
「そう、今度の十五夜には、そろって迎えに来ることになっているんです……」
「それで、“迎えに来る”っていうことでも、悲しい顔をしてたんだね……」
陽太には、先日の“満月草”の光の意味がわかった。
「え?どうしてそれを…」
「この間の“満月草”の光は、僕達も一緒に浴びただろう。全部は、わからなかったけど、何となくは感じたんだ」
「そう…………それでも、普通に接してくれていたんですね……本当に陽ちゃんは……いいえ、みんなは……」
姫良は、今までのことを思い出すようにゆっくりと顔を上げると、何かを決意したかのようなしっかりとした目つきになっていた。涙こそまだ残ってはいたが、目には光が戻り、力強さすら感じた。
「姫ちゃん、心配しなくていいよ。今度はみんなで、笑顔で送ってあげるし、いつまでも忘れないようにするからさ…」
陽太は、勝手に姫良が別れの踏ん切りをつけたのだろうと思って、慰めたつもりだった。
「ううん、だから……わたし……陽ちゃんにも……みんなにも……お礼がしたいの!」
「お礼って、何だよ……そんなのいらないよ……」
「いいや……わたしの、最後のわがまま聞いてよ!」
「姫ちゃんったら…………」
ところが、姫良は、とんでもない決意をしたことに陽太は気が付いた。
「あのね……十五夜のお月見会が終わったら、わたしは帰らなきゃならないの…………だから、陽ちゃんは、それをよく見ていてちょうだい!…………どこへ、どうやって帰るかをスクープして、号外にして、配ってちょうだい…………そしたら、陽ちゃんの願いは、叶うでしょう…………すごい号外が配れるわ!」
姫良は、真剣だった。
「やだよ、そんなこと……」
陽太は、また姫良の記憶を失うのはいやだった。
「だって、新聞部の目標は、号外を配るカッコイイ新聞部員でしょ!」
「それは、そうだけど……、そんなことしたら……」
「大丈夫、記憶を消すのは、わたしが居たことで、号外を配ったことは残すから心配しないで!きっと、そんな様子を見て、中身は覚えてなくても、自分も号外を作りたいってって子が、また出てくるかもしれないわよ。陽ちゃんみたいにね」
「でもさあ~……やだよ~……忘れるの~……やだよ~……」
陽太は、今は、うろたえるしかできなかった。
「いい、この事は、他の部員には、内緒だからね…」
姫良は、優しく陽太を諭し、目を見つめて落ち着かせ、眠らせた。
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次の日の朝、文太から電話が来た。
『キャップ、大丈夫ですか?昨日、具合が悪いとかで、姫ちゃんが送って行ったって言うから、心配したんですよ……』
「ああ……すまん、すまん。……(そうだっけ?)……んん……ああ……もう大丈夫だ。ちょっと、慣れないことしたんで、疲れたんだな、きっと。それより、文太こそ太鼓うまかったな!疲れなかったか?」
『大丈夫ですよ……』
「なあ、昨日、姫ちゃんには会ったか?」
『キャップを家まで送った後に、会いましたよ。その時に、キャップのこと聞いたんですよ……』
「そっか……姫ちゃん、様子どうだった?」
『え?……とっても楽しそうでしたよ……キャップといっぱいお話して、嬉しかったって言ってましたよ!!』
「そっか……、じゃあ、また、後で部活の時にな…」
『はい……それじゃあ』
朝日奈陽太は、家のベッドの上で、上半身を起こし、頭髪に右手を突っ込み、一度髪の毛を思いっきり引っ張った。そして、大きなため息をついて、天井を見上げた。
ありがとうございました。次回、場面はお月見会です。最終回になります。お楽しみに……