13 めざせ!盆踊り大会の助っ人
ありがとうございます。夏休み後半に盆踊りの助っ人を頼まれます。さて、そこで何が……
「いやあーお前達が、夏休みも新聞を発行するとは思わなかったなー」
「何を言ってんだよー生徒会長。普通、部活動は、夏休みでもやるだろう?」
「いや、まー運動部だとかだと、大会があるからわかるけどさー、新聞部だぞー、普通は休むだろうー」
「新聞部だからさー、定期新聞を発行しなきゃならないんだぜー、わかってんのか?だから早くここに、ハンコ押してくれよ!」
「ああ、わかったよー、ほい」
夏休み中にも関わらず、朝日奈部長は、定期的に完成した新聞をいつものように生徒会長に見せて“生徒会印”をもらい、その後、印刷をして商店街と学食へ配達していた。
もちろん学食は、夏休み中でも部活の子がいるので、一部営業している。
「なあ陽太、夏休みも部活やって、みんなは文句言わないのか?」
生徒会長は、親友として朝日奈部長に聞いてみた。
「文句?言う訳ないだろう。……部活さえやっていれば、姫ちゃんに会えるんだぜ……」
「……ああ、そうか……」
笑顔で部活をやっている新聞部員の顔を想像すると、あの星の河湖での出来事が嘘のように感じられたし、あれ以来そのことには誰も触れていなかった。ただ、決して朝日奈陽太は、忘れた訳ではないということもわかった。
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手分けして定期新聞を配布し終え、全員が部室に戻った時、部長がみんなに声を掛けた。
「ちょっと聞いてくれ!今、商店街へ行った時、ちょっと頼まれ事をされたんだ。来週お盆の夜、手伝ってほしいことがあるそうだ。もう夏休みも終わりに近いんだが、いいかなあー」
「キャップ、どんな手伝いなんですか?」
文太が、興味津々に聞いてきた。
「それが、商店街主催の盆踊り大会の手伝いなんだ、どうかなあ~」
「わーー、なんか楽しそうだわ~、盆踊りって、いろんな屋台とかも出るのよねー、子どもとかもいっぱい集まるし、大きなやぐらも建って、周りをまわって踊るの、私ねー小さい頃よく行ってたのよー、楽しみだわー」
直子は、やる気満々で浮かれていた。
「それで、どんな手伝いをするんですか?」
冷静に満乃は、仕事の内容を尋ねた。
「まあ、仕事の内容は当日現場へ行ってからなんだが、とりあえず女子は浴衣着用な。男子は動きやすいように作務衣を借りてきたからこれを着て来てくれ。場所は、商店街の隣にある神社の境内だ。」
「へー、あそこの境内はすごく広いよね。それに大きな木が何本もあるんだ」
「よく知ってるな文太」
「昔は、よくあそこで遊んでたんだ」
「じゃあ、よろしくな。ところで、姫ちゃんは、浴衣持ってるかい?」
「わたし……持って……ないのよ……どうしよう……」
姫良は、困った顔をして下を向いてしまった。
「大丈夫だ……ばあちゃんに言っておくから何とかなるさ!ついでに、俺も行くからな、陽太、言っておいてくれよ!」
いつの間にか部室の入り口のところに、生徒会会長が立っていて勝手に話しを進めてきた。
部長は、姫良をチラッと見たが、すぐに会長の方を向き
「ああ、わかったよ。浴衣は頼むな。当日、早めに着替えに寄るから、お願いしておいてくれ」
と、笑顔で言った。
それだけ聞くと、生徒会長はすぐに部室から居なくなってしまった。
「姫ちゃん、当日は昼頃、迎えに行くから、寮で待っててね」
「……うん……ありがとう……」
姫良の顔が、パアっと明るくなり部長の方を見つめた。
「ミッちゃん、よかったね」
後ろで、直子が満乃に近づき小声でささやいた。
「え?……何かな……」
と、知らない振りをした満乃だったが、顔から笑みがこぼれるのは止められなかった。
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「いやあ、お手伝いありがとうございます。それに、浴衣指定なんてして、すみませんね……でも、みなさん素敵ですよ。こんな薄暗い神社なのに、みなさんのところだけパアッと明るくなった感じがしますよ!」
「いやだあ!おじさんったら……もう……調子がいいんだから」
直子は、そう言いながら、盆踊りの雰囲気も楽しくて仕方がないようだった。
「お、いつもは髪の長いお嬢さんも、今日は浴衣に合わせたのかな?」
姫良は、校長先生のところで、浴衣を着せてもらっただけでなく、髪の毛も結ってもらいいつもとは違った雰囲気になっていた。長い髪の毛を小さくまとめ、頭の後ろで大きな花の櫛で留めている。水色に大きな緑の植物の模様が入った浴衣と合わせて、いつもより少し大人びた感じがする。
「今日の姫ちゃんも、かっこいいよね……」
文太が、見とれてそう言った。
部長は、姫良と目が合って(僕もそう思う)と思ったが、何も言わずにお互いに照れてしまった。
部長は、気を取り直して商店街の会長に尋ねた。
「ところで、上杉さん、具体的な仕事は何を……」
「そうそう……実はこの盆踊り最初は子ども盆踊りなんだが大人が仕事の関係で間に合わないんだ。すまないが大人が来るまでの間手伝ってほしいんだよ。……まず、そこの綿アメの売り子をお願いしたいんだけど、もしよかったら機械で作るのもやってもいいですよ……」
すぐに飛びついたのは、直子だった。
「私がやります……」
と、持ってきた巾着からタスキを勢いよく引き抜くと、端を口にくわえ、右手で左袖の下、肩から首を通して右に引っ張り出し、その紐を左手に持ち替えて、右袖の下、そして肩から首の後、左肩にもってきて、口にくわえていた紐とで、あっという間に蝶々結びをした。
「よし、これで完成!」
それから、もう一本の細い紐で鉢巻をして、戦闘態勢を作ってしまった。
「おおお、すごいですなーー。準備万端じゃないですか。じゃあ、綿アメの方は任せますよ」
「はい!」
「次は、場内のアナウンス全般です。定時のアナウンスから、迷子の連絡までお願いしたのですが……」
「それは、私がやりましょう」
落ち着いた感じの満乃が、ピッタリだった。
「じゃあ次は、太鼓なんだけど、実はいつも太鼓をやっている玄さんが、ちょっと腰を痛めてな……そんなに長い時間はできないんだ。教えるから、交代で何人かお願いできないかなあ、太鼓は疲れるけど、盆踊りの主役みたいなものでなああ……大人の部になったら誰か来るから、それ迄頼みたいんだけどなあ」
「それなら、俺が」
「いや、俺の方が……」
文太と生徒会長の二人がお互いに、張り合って手を挙げた。二人とも体力には自信があった。
「じゃあ、2人にお願いしましょう。よろしく頼みます。あのやぐらのところに行けば玄さんがいるから教えてもらっておくれ……」
「よーし、負けないからな…」
「俺だって……」
「あのう……僕達は、何をすればいいですか?」
「ああ、陽ちゃん達は、大事な仕事があるんだよ。盆踊りが始まったら、最初は子ども達がたくさん来るんだ。その子ども達をあのやぐらの周りに誘導してやってほしいんだ。踊りながら一緒に回ってくれればいいんだけど、最初は慣れない子どももいて大変なんだけど、踊りに慣れたら、大丈夫だ。陽ちゃん達は、自由にしても平気だよ……まあ、仲良くやんなさい……」
「え?ああ、はい、わかりました……じゃあ、姫ちゃん、行こうか…」
「…はい……」
新聞部のみんなは、それぞれ任された持ち場へ行き盆踊りの準備に取り掛かった。あたりは、まだ明るかったが、会場はお祭りの提灯もたくさん飾られ、にぎやかな雰囲気になっていた。
踊りのお囃子が鳴り響き、太鼓が聞こえ、子どもの数もだんだん増えてきた。
「姫ちゃんは、盆踊りって踊れるの?」
やぐらのところに来た部長は、最初の子ども達が集まるまでの時間つぶしに何気なく聞いてみた。
「わたし……はじめてなの。こんなお祭りも、盆踊りも……みんなで部活するのも……」
その話をしている様子は、いつもの照れくさそうにしている姫良ではなく、とても嬉しそうで楽しそうなキラキラした目は、別人のようだった。
「そっか。でも、盆踊りなんて簡単だから心配しないでいいよ……僕の真似をすればいいからね」
「うん、そうする!」
そう言って、姫良は部長の方を見てうなずいた。
そのうちに、子どもが何人か集まって来た。
『ピン・ポン・パン・ポン……只今より、子ども盆踊りを始めます…参加賞もありますので、どうぞやぐらのところで踊りましょう……』
「あ、満乃のアナウンスだね。さすが、上手だね……さあ、僕達のところにもたくさん人が集まるよ、姫ちゃん」
「はい、……みんな~こっちよ~…ここにならんで~ね~……」
姫良が、小さい子ども達に向かって、精一杯声を出して呼びかけていた。
「姫ちゃん、いいよ、その調子………さあ、みんな~いっしょにおどろ~、はい、てをだしてね~みぎ~ひだり~……」
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「会長、あれ見てみなよ、キャップと姫ちゃんだ」
「どこだよ、文太」
やぐらの上で、生徒会長と文太が、子ども達を並べたり一緒に踊ったりしながら、仲良く話している部長と姫良を見つけた。
「こうやって見ると、本当に陽太は、姫ちゃんに優しいよな」
「え?キャップは、みんなに優しいと思うんだけどな……」
「まあいいけど……じゃあ、俺が最初に太鼓をたたくから、お前、陽太に手でも振ってやれよ!……じゃあ、玄さん、俺、行きます……」
「お!気合入れて、叩けよ!」
「はい!」
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「……お囃子の太鼓が変わったね。……なんか聞こえるぞ、……文太だ!あ、太鼓を叩いてるのは、高之だ…すごいなあ、手をふってるぞーーー」
「……すごいですね……」
姫良も、踊りながら、笑顔で控えめに手を振っていた。
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「……姫ちゃん……もう大丈夫だと思うよ……僕達も休もう……」
子ども盆踊りも終わり、参加賞の配布を済ませたので、部長は姫良の手を引いて踊りの輪から静かに離れて大きな木の陰に身を寄せた。
「姫ちゃん、疲れたでしょ」
「ううん、平気。とっても、楽しかったわ……こんなの初めてだったんだもの……」
姫良の笑顔は、心からのもので、部長には眩しかった。
「お腹すいたでしょ、何か食べに行こうか…」
部長が、屋台へ買い物にでも行こうかと姫良に背を向けた時、すぐに後ろから両袖を引っ張られた。
「…………………」
部長は、ゆっくり後ろを振り返りながら姫良に尋ねた。
「どうしたの?」
姫良は、片手を離して先ほどの笑顔とは打って変わって深刻な顔になりつぶやいた。
「……ありがとう……陽ちゃん。」
「?どうしたの、それに……」
「あのね……こんなに、楽しい思いをさせてくれて……きっと陽ちゃんだから……本当にまた会えて嬉しかった……」
「……また?……前に会ったこと?……姫ちゃんと?…………………」
姫良は、もう片方の手も向かい合って陽太の手と繋いだ。そして、何かを必死で思い出そうとしている陽太の目をゆっくり見つめたのであった。陽太には、盆踊りの太鼓の音が、だんだんと遠くになっていくような気がした。
「陽ちゃん、あのウサギパンを一緒に食べたわよね……」
姫良のその言葉を聞いた時、陽太は5年前のあの日、小学部の購買で食べたウサギパンの事を思い出した。
「……姫ちゃんだったんだ……あの……姫ちゃん……お帰りなさい……」
「ああ……ありがとう…………陽ちゃん…………そして……ただいま……」
向かい合ってしっかり握られた両手のこぶしは、2人の涙でところどころが濡れていた。
ありがとうございました。続きが気になります。次回は、盆踊りの後半です。