12 めざせ!新聞部のねむり姫
ありがとうございます。核心に触れる展開へ……
「姫ちゃんは、どうですか?」
「うん、眠っているわ……」
「ああ、びっくりしたね」
姫良を抱えて旅館に戻った朝日奈部長は、病院に行くことをまず考えたが、校長先生に止められ、そのまま女子部屋の布団に寝かせることにした。後は、校長先生に様子を見てもらい、みんなは隣の男子部屋で待っていたのである。
「大丈夫、意識もあったし、眠る前に話もできたから。ちょっとびっくりしたのと、昼の疲れが出たのかもしれないから、一晩寝たら平気だと思うわよ……」
10分もしないうちに付き添っていた校長先生が、やって来て落ち着いた顔でそういうので、新聞部のみんなも安心したのだった。
「それにしても、あの光には、驚いたぜ!さすがの俺も何もできなかったもんな……」
生徒会長の高之は、澄ました調子ではなく、本音の方で感想を漏らした。
すると、横に座っていた満乃が小声で、
「でもね……高之さんね……私の手をしっかり握ってくれてたの……」
「そ、そりゃ、みんな…バラバラにならないように、だな……」
「…ありがとうね…」
「う、うん…」
「私だって、文太君が守ってくれてたよ、こうやって……」
直子は、両手を広げて文太の背中に隠れた。すると、文太は、少し赤くなって
「俺は、副部長だからな…部員を守らないと…」
と、大げさに照れていた。
笑いが収まった時、部長が、急に真面目な顔で尋ねた。
「なあ……みんなは、聞こえたか?あの光の中で……」
一瞬の沈黙の後、高之が口を開いた。
「俺は、気のせいかと思ったんだ……」
すると、満乃も言った。
「私は、聞こえたというより、感じたという方が……近いような気がするの……」
「そうね、私も……そんな気がする」
と、直子が言った。
文太は、カメラを取り出した。
「みんな、これを見てくれ。……今度も写真を撮ったんだ。でも、きっと“満月草”の光は、映らないだろうから、一か八か被写体を自分達に向けて連写してみたんだ」
カメラのモニターを見ながら、ゆっくりと写真をコマ送りしていくと、光に驚く新聞部員達の表情が写っていた。
「そう、ここだ。この姫ちゃんの表情を見てくれ……」
そう言って、コマ送りにしたものを見ると、
「……最初は、嬉しそうな表情をしているが……すぐに寂しそうな表情に変わり……だんだんと悲しそうな顔になって涙まで浮かべているのがわかるだろう……。そして、最後は、崩れてしまうんだ……」
「そうか!僕が聞いたものの答えなんだ……。あれは、ひょっとすると、姫ちゃんへのメッセージなのかな……」
朝日奈部長は、不思議な光の意味を自分で納得したかのようにつぶやいた。
「待てよ、陽太。何、自分だけで納得してるんだよ!……確かに、あの光の中で、俺も感じたよ、最初は“懐かしさ”……次は“別れている寂しさ”……最後は“迎えに来るという安心感”だ。でもよ、もし、姫ちゃんへのメッセージなら、どうして最後のもので、姫ちゃんは悲しそうな顔になるんだよ!変じゃないか……」
「そうよね、迎えに来てくれるんだったら…嬉しくなるんじゃないかしらねえ…」
直子が、そう言って校長先生の顔を見た。
「私にはわからなかったわ。きっと若い人にしか聞こえないのよ……だから、あなた達で考えてごらんなさい……」
校長先生は、そう言って「姫ちゃんの様子を見るから」と言い、その場を離れて行った。
「陽太、お前、この事を姫ちゃんに聞くのか?」
生徒会長は、真剣に部長に尋ねた。他の部員達もみな同じことを聞きたかった。
しばらく黙って考えていたが、
「いや、姫ちゃんには、何も聞かないよ。今まで通り、新聞部の活動をするだけさ。みんなも、そうしてもらえると助かるな……」
と、いつものにこやかな部長の笑顔で答えた。
「「「「もちろん!」」」」
新聞部員の気持ちは、いつも一緒だった。
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その話を廊下で聞いていた校長先生は、姫良が寝ている部屋に入り、静かに布団の傍に座った。
「起きてるんでしょ?気分はどう?」
「……すみません。大丈夫です……」
「あ、寝たままでいいわよ。よかったわ……でも、本当にびっくりしたわ……あんな連絡方法があるなんてね……」
「本当にごめんなさい……お父さんもお母さんも……心配症で……」
「何言ってんの……こんな遠いとこに来てるんだから……当り前よ……前は……みんな一緒だったからね」
「はい…」
「本当に……よく……一人で来ようって思ったわよね……」
「だって……会いたくて……」
「そうね……よかった?」
「はい…」
「ところで……何だって?」
「……今度の十五夜に迎えに来るって……」
「そう……ちょうど、お月見会の夜ね……、それが最後のお楽しみね……まあ、それまで楽しくいきましょう…」
「……………」
「みんなはね、あなたに何も聞かないってさ……。あなたはどうするの?何も言わないで……帰っちゃうの?」
「それは……」
「そうよね……黙って帰ると……また、何にも覚えていてもらえないもんね……」
「それは……いや……」
「まあ、後は自分で考えてね……、協力はするわよ……」
「…………」
「今晩は、ゆっくり眠りなさい……」
今度こそ、姫良が眠りにつくまで校長先生は傍で愛おしそうに見つめ続けた。
ありがとうございました。今だ謎は残りましたが、期限だけは切られてしまいました。さて、お月見会までどのように過ごすのでしょうか……