10 めざせ!花火大会のスクープ
ありがとうございます。取材旅行前編です。
「キャップ、そっちはおやつありますか?」
「ああ、大丈夫だ…。それより直子、あんまり食べすぎるなよ…」
「平気ですよ…」
「姫ちゃん、はい、ジュースよ」
「…ど、どうも……ありがとう…」
「生徒会長さんも、ジュースどうぞ…」
「満乃さん、生徒会長はよしてくれよ…、今は、新聞部の関係者なんだから……」
「じゃあ…桜坂さん?」
「ん…それじゃあ…ばあちゃん、校長先生と同じだから…名前でいいよ…」
「……た、たか、高之さん、はい、お菓子もどうぞ、これ作ってきたの…」
「クッキーかい、おいしそうだね…いただくよ」
「おやあ、高之~、お前、もてるね~」
「うるさいよ、陽太は姫ちゃんの面倒を見てればいいんだよ…」
星ヶ空学園高等部新聞は、夏休みに入って間もなく取材旅行に出かけることになった。商店街にもらったクーポン券で、ちょっと離れた星の河湖温泉に1泊2日の宿泊旅行である。汽車で2時間ぐらいだが、普段はなかなか乗らないので、遠足気分も高まっている。
それに夏休みということもあり、私服での参加は、それだけで気分もまた違っていた。
スポーティーな直子は、ジーンズにTシャツで、動きやすさをアピールしていた。暑がりの文太は、半ズボンとTシャツで少年丸出しだった。オシャレな高之は、黒のスラックスに真っ白なワイシャツ。胸元のボタンをはずし、腕まくりをして、日焼けした筋肉のついた腕を見せるような恰好をしていた。
なんとなくいつもと違ったのは、満乃だった。眼鏡をはずし、コンタクトにし、紺色の長めのスカートをはき、ちょっとフレアのついた薄い緑色のブラウスを着ていた。そして、なんとなく集合した時から、高之にあれこれとかまうことが多かった。
部長の陽太は、紺色のスラックスをはき、ポロシャツにブレザーを羽織ってきた。集合した時、高之に冷やかされていたが、「一応部長だし、これポケット多いから」と言い訳をしていた。
姫良は、膝までのピンクのスカート。ピンクのブラウスに、黄色いカーティガンなので、「とてもきれいで、遠くからでもはっきりわかる」と、集合時に言われ、いつものように照れまくっていた。
校長先生は、日焼けを気にしてか、全身を覆う黒のタイトなパンツスタイルだった。黒の帽子にサングラス、それに背が高く痩せてはいるが背筋が伸びているので、歳より10歳は若く見える。
「さあ、もうすぐ着くから、おやつなんか片付けてくれよ……」
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「キャップ、ここですか?俺たちが泊まるとこ」
文太が目を丸くして建物を見て言った。
「そうだな、クーポン券にはそうなっている、さあ、入ろうか…」
商店街でもっらた券を見ながら、部長はみんなの先頭に立って歩き出した。
「大きな旅館ですね…」
「中には、プールもあるらしいぞ。お前達、ちゃんと水着は持ってきたか?」
部長は、小声で確認した。
「ミッちゃんの作ってくれた旅のしおりに、“水着”って書いてあったから、持って来たけど、この辺だと海は無いし、星の河湖は夏でも泳げないから変だと思ったのよね~」
直子は、しおりを取り出し、もう一度そのページを見てみた。
すると満乃が自慢気に話し出した。
「私は、ちゃんと旅館の下調べもしたのよー、ここは温水プールなの、……高之さん……後で一緒に、泳ぎに行きましょうね~」
そして、それとなく生徒会長を誘っていた。
「あ、俺も行くぞー」
「えー、文太も行くの~」
「何だよ、満乃…いいじゃないか、みんなで行けば、楽しいよな~、姫ちゃんも行くよな~」
姫良が、もじもじしながら、
「…う、…うん…でも……わたし……泳げない……から………」
と、言うと、
「あははは……大丈夫だって……俺も泳げないから………」
と、半分勇気づけるつもりで副部長の文太が言った。
ところが、それを聞いた直子が
「な~んだ文太、あんた泳げないでそんなこと言っての?もう、ダメね~、私が教えてあげるから、任せてよ~」
と、積極的に文太に迫ってきた。
すると文太は、まんざらでもなく
「お、お、さすが、直子、いや直子様~、よろしくお願いします…」
と、直子の誘いに乗ったのであった。
その様子を傍で見ていた部長は、
「……じゃあ、姫ちゃんには、僕が教えてあげるから、一緒に行こうか、どうだい?」
と、言うと
「うん、おねがいします」
とすぐに返事が返ってきた。
「あれ?姫ちゃん、部長の時は、返事が早いね~」
と、文太が、半分ふざけてチャチャを入れた。
「……もう……」
「こら、文太…、姫ちゃんが、また照れるじゃない…あははは」
「ああ、ああ、こめん、ごめん」
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「直子達は、校長先生と一緒の部屋なんだな」
「そうよ文太、そっちは男子組、こっちは女子組だからね…」
「ああ、それから取材会議のためと食事のための広い部屋をもう一つ借りることができたんだ。これからそこで昼食をとりながら取材旅行の計画を確認するぞ」
部長がそう言ったあと、みんなはそれぞれの部屋に荷物を運び片付けてから、大広間に集まった。
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「みんな、夕食はまたここでとるんだけど、それまでは取材活動にする。各自、この星の河湖についていろいろ取材してきてくれ。」
朝日奈部長は、昼食を食べ終えた頃、部員達にこれからの日程を話し出した。
「なあ陽太、俺は何もしなくていいだろう、自由行動ってことで……」
生徒会長の高之は、すでに昼食会場のテーブルから離れ畳に転がって休憩スタイルになっていた。
「………」
部長が、少し思案していると、すかさず満乃がすました笑顔で割って入ってきた。
「高之さんは、今回新聞部の関係者なんですから、取材活動も一緒に行ってもらうってのはどうでしょうか?」
「え?でも、俺は、今まで取材なんてやってないし、やり方も知らないぜ!」
慌てて飛び起きた生徒会長は、少し焦っていた。
そんな様子を見て、満乃はまた少しニヤっとしながら、
「だから、私がフォローします。今回の取材活動は、1人ずつでは心細いので、2人1組で行うというのはどうでしょうか?高之さんは、私と組んでもらって、副部長の文太君はナオちゃんと、キャップは姫ちゃんと組むんです。キャップどうですか?これだと、引率の校長先生も安心じゃないですか?」
と、部長と校長先生の方を見て返事を待った。
「そうだな、僕もその案に賛成だ。どうですか、校長先生」
「いいわ、そうしましょう。私は、この旅館で待機しています、困ったことがあったら、いつでも連絡をちょうだいね」
「よし、じゃあ、夕食前には戻るようにしよう、では、スクープを目指して取材してこよう」
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「直子、どこ行く?」
「え、決まってるじゃない、まずは御土産物屋さんよ!いっぱいあったわよ」
「え?取材するんじゃないの?」
「え、取材もするけど、お土産も大事でしょ!…さあ、行くわよ、文太君!」
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「…ねえ、満乃さん、取材って何をするのさ…」
「そうね…あ!あそこに、民族シアターがあるわ、ちょっと覗いてみましょよ…」
「え?何か、薄暗いよ…」
「大丈夫よ、昔の人の踊りとかを見ることができるの…きれいらしいわよ」
「詳しいんだね」
「来る前に、ちょっと調べたのよ…どんな…デー…ース…がいいかなあって……」
「え?何コース?」
「ううん、何でもないの…始まるわよ!」
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「…姫ちゃん、どこ行こうか?」
「……わたし、遊覧船……乗りたいな……」
「そうだね、星の河湖を一周する遊覧船か、いいねえ」
「うん、湖の真ん中に……行ってみたいの……」
「あ、もうすぐ、遊覧船の出発の時間だ……ちょっと急ぐよ…」
「はい」
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「おかえりなさい、みんなどうだった?楽しかったかい?」
「校長先生、はい、とても楽しかったです」
会議室に確保した和室には、大きな座卓のテーブルが並べられ、地元の食材で作られたごちそうがたくさん並んでいた。
「それにしても、夕食には少し早いような気がしますが……」
しおりを作った満乃が、不審そうな顔で質問すると、
「先にお風呂に入って浴衣に、着替えておいで。夕食後に出かけるところがあるから、そのためよ…」
「はい、わかりました…」
と、新聞部のみんなは、お風呂に入って浴衣に着替えてから夕食の席についた。
そして、食べながら取材活動の報告会も同時に始まった。
「俺たちは、土産物屋を回ったんだ。」
文太が話し始めると、すぐに高之がチャチャを入れた。
「つまみ食いばかりしてたんじゃないか?何かおいしいものはあったか?」
つられて直子が、夕食のごちそうそっちのけで
「あった、あった、おいしいものばっかり。イカ焼き、タコ焼き、星煎餅、芋餅、肉揚げ、カボチャ天、……」
と、名前だけでも止まらなくなりそうだった。
「おい、おい、もおいいよ、わかったよ。それ、全部食べたのか?」
「ん…文太君と半分こして食べちゃった!」
「え?それでも、まだ、この晩飯が入るのか?」
「入るよ、……だって、これもおいしいもの……ね、文太君!」
「ああ、わかりましたよ」
あきれたように、生徒会長は直子と文太を見た。それでも、副部長の文太は、真面目な顔で、付け加えて話をした。
「これだけ、たくさん味見をしたんだけど、一番おいしかったのは、“満月まんじゅう”だったんだ。この“満月まんじゅう”は、この星の河湖温泉にしか売っていなくて、他の場所に持って行って食べようとすると割れてしまうそうなんだ。つまり、満月でなくなってしまうという訳で、他では見ることができないということらしいんだ」
「“満月まんじゅう”か」
部長が、感心したように聞き入った。
「うん、よく調べたね。…では、次、満乃達はどうだった?」
「ええ、私達は、芸術鑑賞をしてきたわ!いろんな踊りを見たり、絵を見たり、民芸品を見たりしたの。楽しかったわよね、高之さん」
いつもの満乃と違い、ゆったりとやさしい口調は、とても新鮮に感じたみんなだった。
「ああ、いいなあミッちゃん、楽しそうで、まるで…」
「ん、ん、ナオちゃんにも、お土産買ってきたから、後であげるね!」
「わあーい、ありがとう!」
ここで、高之も思い出すように口をはさんだ。
「俺は取材とかはよくわからないが、あの踊りはとても心に残ったんだ。星河シアターで見た“満月踊り”だ」
「そうね、あの“満月踊り”は、地元の人も大昔から伝わっているということしか知らないけど、地元の人はみんなが踊れる踊りらしいの。しかも見る人を魅了することができる踊りよ。ただし、地元以外の人は、決して踊れないの、踊ったとしても絶対に間違ってしまうらしいの。不思議でしょう」
「“満月踊り”か。すごいね……じゃあ最後に僕達の話を聞いてくれ」
部長は、姫良と一度顔を見合わせてから、ゆっくりと話し始めた。
「僕達は、遊覧船で星の河湖を廻ったんだ。今、星の河の周回とちょうど真ん中あたりに大きな水中花が顔を出しているんだ。ひまわりのような形状で、茎は水の中から生えているが、花の部分は水面に出ているんだ。まだ、つぼみなんだが、咲くと大きな満月のような形になるらしいんだ。ただし、この花は、新月の時だけ、つまり空に月が無い時だけ、湖に月を咲かせることができるという花なんだそうだ。それで、みんなは“満月草”と呼んでいた。とってもきれいだそうだ。この花も星の河湖以外では育たないそうだ。」
「キャップ、僕達が取材したもの、すべて満月じゃないですか……」
文太が、驚いたように声を上げた。他の部員達も皆、息をのみ、部屋は一瞬静まり返った。
すると、校長先生が、にこやかに微笑みながら静かに言った。
「あなた達、一つ大事なことを調べてないわよね…」
みんなは、なんのことだか、考えをめぐらせたがまったくわからなかった。
「今日の夜は、何があるのかしら?」
校長先生は、しおりを見せながら質問した。
もちろん、しおりを作った満乃はすぐに答えた。
「えーと、星の河湖温泉の大花火大会ですが……」
「そうよね……。何を記念して……?」
しばらくの沈黙の後、勘のいい満乃は、もらったパンフレットの隅から隅までを読み始めた。そして、カレンダーを見比べて、気が付いた。
「あ!…そういうことですか!」
みんなは、「「「「なにが?」」」」と、満乃に聞き返した。
「キャップ、今日は、新月なんですよ。花火大会が終わって、空が真っ暗になったら、真夜中に“満月草”が満開になるんです!」
「そういうことか、よし、みんなで、“満月草”を取材にいくぞ!」
ありがとうございました。次回は、姫ちゃんの秘密が……