01 めざせ!定期購読者の獲得
新作です。ありがとうございます。
「キャップ、今週号の記事打ち込み終わりました!」
「よーし、文太、お疲れ。確認するからプリントアウトしてくれ」
「了解」
「姫ちゃん、これどう思う…」
「……あのう………ここ………もう少し………誇張……してもいいと思います…………それに……………写真なんかも………入れたら……どうでしょうか?…」
「おお…そだね…」
「もう、姫ちゃんったら、もっと自信をもって言ってもいいのよ。姫ちゃんのセンスは、みんなが認めているんだからね!」
「そうそう、ナオの言う通りよ、どんどん言ってね」
「はい…ありがとうございます…」
「よーし、文太、文書を少し直してくれ、満乃は写真をPCに送ってくれるか?」
「OK!この間撮ったやつがまだカメラに入ったままになっているから、すぐやるわ!」
星ヶ空学園高等部新聞部。
北の地で、夜空の星がきれいに見える、都会から少し離れた長閑な町の高校生の部活動。
部長で編集長を兼任している朝日奈陽太は、みんなからキャップと呼ばれている。この新聞部は、5人で活動している割には、毎週新聞を発行している真面目な部である。
「キャップ、校正が済んで今週の原稿ができたよ」
副部長の作田文太は、いつものようにプリンターから原稿を取り出し大事そうに部長に渡した。
「ありがとう、じゃあちょっと、生徒会へ行ってくるから待っててくれ」
そう言って、部長の陽太は、急いて生徒会室へ飛んで行った。そして、いつのもように、ノックもそこそこに、中に入って行った。
生徒会室には、ここもいつものように、会長だけが待っていた。
「会長、今日の分だ。確認、よろしく!」
4月から始めたこのルーティーンワークも、ほぼ毎週2ヶ月も続ければ慣れたもので、何の説明も無く手に持った原稿を会長の目の前にそのまま置いた。
「ああ…」
生徒会会長の桜坂高之も、自分の机に向かったまま、原稿に目を通し、黙って右端の所定の場所に生徒会の“印”を押した。
特に感想を言うでもなく、そのやり取りは、毎週繰り返される一連の動きだけのように行われていた。
それでも、朝日奈部長は、原稿を受け取ると高らかに“礼”を言って、生徒会室を後にした。
桜坂会長は、朝日奈部長がいなくなってから
「やれ、やれ…」
と、表情を崩し、肩の力を抜き、椅子に深く座りなおした。
……………………………………
「さあ、原稿を刷るぞ!」
部室に戻った部長は、生徒会の“印”が押された新聞原稿を輪転機にかけた。これは、新聞を毎週待ち望んでいる定期購読者に配るためである。
定期購読者?
「部長、毎回言いますが、コピーでいいんじゃないですか?」
「あのな~満乃さん、新聞というのはね、輪転機で作るものなの!今は、定期購読者は少ないですよ…(さっき、誰かが?を付けてたが)…確かに定期購読者は、いるの!」
「はい、はい、部長。確かにいますよね…これから、みんなで配ってきますもんね!」
「そう、そう。じゃあ、いくよ!」
…………………………
「こんにちは、星空新聞で~す」
「あら、いらっしゃい、待ってたわよ。今週の記事はな~に?」
「えー、今回のメインは、学食のハンバーグはおいしい!っていう記事です」
「いいわね!ハンバーグは、私が作ってるのよ!嬉しいじゃない…じゃ、はい、お代のアンパンね…本当にアンパンと同額でいいの?」
「はい、もちろんです!毎度、ありがとうございます」
1件目は、学食のおばちゃん。どういう訳か、新聞の代金が、アンパンと同額というのを、アンパンと同じと思い込み、新聞代をアンパンで払ってくれる。
…………………………
全員、ドアの前に一列に並び、少し緊張して、部長が代表で軽くノックをする。
「はい、どうぞ…」
「星空新聞です、今週の分をお届けに来ました…」
「あらーご苦労様…さあ、みなさん、入ってくださいな」
ここは、校長室である。教室よりは狭いが、とても高そうな机やソファが置かれている。周りは見たことがない戸棚や家具が壁一面に備え付けられていて、一面だけが窓になっている。
「さあ、みなさん、ここに座って、お茶でも飲んで行ってくださいな…」
校長先生は、いつもお茶を用意してもてなしてくれる。新聞の内容の話もしてくれるし、読んだ感想も聞かせてくれる。何せ、この新聞作りを進めてくれたのも校長先生なのだ。
部長達は、いつものように、新聞代をもらい校長室を後にした。
「部長、いつもながら、校長室での時間はとても長く感じます」
副部長の文太が、少し汗をかいた額を手で拭って言ったが、他のみんなも同じ気持ちだった。
「いやあ、校長室に居たのは、10分ほどだ…そう大して長くはないんだ…」
そういう部長が、実は一番疲れた顔をしていた。
………………………………
「さあ、最後はここだ」
ここも、いつも通りに、部長のノックが早いか、ドアを開けるのが早いかぐらいのスピードで中に入った。
「お待たせ!今週の分だ」
「ああ、いつもご苦労様…本当に続けるかか?」
部長に、こんな失礼な事をサラッと言ったのは、生徒会長だった。
「あったりまえよー、誰がやめるかよー」
実は、朝日奈部長と桜坂生徒会長は、幼馴染の親友だった。
「校長の言いつけで、前の新聞の確認をしてハンコを押してるもんだから、仕方なく責任をとって俺も定期購読なんてものをしてやってんだぞ!ありがたく思えよな!」
「はいはい、どうもありがとうございました。では、今週の分のお代をいただきますので…」
「…もう…まったく、ほら…」
「はい、毎度、ありがとうございました…またよろしくお願いいたします…、それでは」
このような調子で、星ヶ空学園高等部の新聞部が発行する「星空新聞」は、3人の定期購読者を抱えて、順調?に運営されていたのであった。
ありがとうございました。