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勇者をやめるには勇者をやるしかない!?  作者: 八刀皿 日音
1章 やっぱり経験値稼ぎは勇者の日常なのか
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第6話 勇者、桜の剛剣と夜闇に舞う!


 1年生を見送り、1人、西棟の前へと戻ってきたわたしは。

 マジメに階段上るのも面倒なので、夜闇に紛れ、窓枠を蹴って外壁を駆け上がり、一息に屋上へと降り立つ。


 そうして、意識を研ぎ澄ませてみれば――


「ん、来た来た……やっぱりわたしを狙ってきたね」


 生き物のそれとは明らかに違う『よくない気配』が、西棟全体から、ここに集まってきているのが分かった。


 これが、霊感というか、カンの鋭い生徒が何となく感じていたんだろう――ウワサの元になった『妙な気配』の正体だ。


 七不思議を探るのに西棟を歩き回るうち、色々なところにちょっとずつ、言うなれば()()()いるのを感じ取ったモノ。

 怨霊とかじゃなく、モヤみたいな……個々では何ともハッキリしない存在だったけど、こうして集まって『濃く』なってくると、その正体も見えてくる。


 影や闇といったモノが質量を備えて実体化したような――スライムっぽいゴーストっていうか、ゴーストっぽいスライムというか、とりあえずそんな感じの不定形の存在だ。


 ……というか、こうして改めて前にすると――



「コイツって……まるで、〈禍気(マガキ)〉……?」



 〈禍気〉――それは、動物に植物といった有機物から、人形とかの無機物、果ては人や神様まで……様々な存在に取り憑き『よくないモノ』に変えてしまう、悪い気の集合体。

 いわば、濃縮した世の〈(けが)れ〉だ。

 そしてそれこそが、わたしが異世界〈麗原ノ慧殿(ウララガハラノエデン)〉で戦ってきた『敵』でもある。


《ああ。キミの感じる通り……アレはどうやら、〈禍気〉と同質の存在のようだよ。

 まあ、〈禍気〉とは即ち、世界を流れるチカラの澱みや穢れだからね。

 こちらの世界で近しい存在があったとて、不思議ではないというところかな》


「なるほどね」


 ユーリの同意をもらって、わたしもしっかり腑に落ちた。


 ともかく〈禍気〉と同じようなモノなら、こうやって早いうちにあぶり出せたのは良かったって言えるだろう。

 そもそもがどこから発生したのかは不明だけど、放っておけば、誰かが被害に遭ったかも知れないんだから。


「さて、それじゃあ――」


 〈勇者〉のチカラを完全に解放するほどの相手じゃないけど、キッチリと祓うなら、やっぱり武器はあった方がいい。


「あなたも、〈穢れ〉なんかでいるのはツラいでしょう……?」


 一度目を閉じ、伸ばした右手に意識を強く集中すれば、ポケットに挿した〈姫神咲(ヒメカンザシ)〉を通してチカラが集い、結び、カタチを成して――。

 花吹雪のような光を勢いよく散らしながら、手の中に一振りの剣が姿を現す。


 それは、普通に刀剣と称するには、あまりに縦にも横にも大きく、刀身も分厚い――むしろ『超・大ナタ』とでも呼んだ方がしっくりきそうな剛剣。

 形状こそそんな無骨極まりないモノでありながら、同時に、細部に至るまで、桜をモチーフにした細やかで美しい装飾が施された、強大さと美麗さが共存するこの剣こそが――。


 わたしのもう一つの相棒たる愛剣、〈聖散ノ桜(サクラメント)〉だ。


「あるべき形で世界に還れるよう――しっかりと祓ってあげる」


 月明かりに映える夜桜のごとく、白く輝くサクラメント(この剣)の、清浄なチカラに脅威を感じたのか。

 ついにはわたしより二回りは大きくなっていた〈禍気〉が、身体の一部を腕のように伸ばして――いきなり、巨体からは想像もつかない速さで叩き付けてくる。


「おっと」


 でもその速さはあくまで、この世界の常識的には、ってだけ。

 わたしにとっては、問題無くかわせる程度でしかない。

 さらに、もう一方の『腕』による叩き付けも、サイドステップで回避。


 立て続けにすんなりかわされて頭に来たのか――。

 そこから、かんしゃく起こしたダダっ子みたいに連続で振り下ろしてくる〈禍気〉の両の腕を、わたしは進みも退がりもせずに避け続ける。


 こちらの世界における〈禍気〉が実際どれほどのチカラを持つのか、確認するための様子見だったんだけど……。


「想像よりも――強い、か」


 一撃でももらえば、常人なら全身複雑骨折どころかぺっちゃんこは確実だ。

 今のわたしでも、それなりの大ダメージだろう。


「もっとも、当たれば――だけどね」


 わたしがそんな風につぶやいたのを理解したのか、たまたまなのかは分からない。

 だけど、次の瞬間――。

 〈禍気〉はこれまでと同じように振り上げた腕を、いきなり、外側からすくうような横薙ぎに変化させてきた。

 まるで、わたしの意表を突こうとするみたいに。


 でも――


「おあいにくさま――ミエミエだよ!」


 それに向かって、サクラメントを逆袈裟に振り上げつつ――その巨大な刀身をさらに、宙返りしながら蹴り飛ばして加速させる。

 剣と一緒に回転上昇しながらの大気を巻き込んだ一撃は、豪快に、迫る〈禍気〉の腕を斬り飛ばした。


 ただ、向こうも痛覚なんてないような相手だ。

 それで怯むこともなく、宙に浮いたままのわたし目がけ、もう一方の腕を突き出してくる。


「それも、甘い!」


 対してわたしは、空中でサクラメントの刃を返し、今度は刀身に乗っかるようにカカト落としを打ち込んで、ベクトルを一気に逆転。

 そのまま急降下斬りで、襲い来る腕を真っ二つに両断。


 さらに、着地したところに〈禍気〉本体から槍のように鋭く伸ばされてきた闇のトゲを、肘打ちで刀身を弾き出しながらの回転斬りで一掃。

 続けて繰り出されたトゲの第二陣も、剣を逆の手に持ち替えながらの、後ろ回し蹴り回転斬りでさらに一掃。


 相手の攻め手をすべて潰したところで――わたしは改めて悠々と、サクラメントの切っ先を向ける。


「じゃあ、こちらからいくよ。

 あるべき形で、世界の流れに還りなさい――!」


 そこから繰り出すのは、一息に距離を詰めながらの、身体ごとブチ当たるような突進突き。

 その暴走車めいた勢いで、なおも伸ばしてくるトゲを軒並み蹴散らしつつ、本体を貫いて――。


「トドメっ!」


 そのまま、カカトから入る宙返り蹴りで、わたしの身体ごとサクラメントを一気に、空を割る勢いで上空まで斬り上げる!


 サクラメントの描いた軌跡通り、その巨体に、白い神聖な光を刻み込まれた〈禍気〉は――。

 そこから溢れ出す輝きに包まれ、呑み込まれ……そのまま、無数の光の粒子となって砕け散った。


 わたしは、空中でくるりと身を翻し――舞い散る花びらのように宙を漂う、粒子のただ中に着地すると。

 改めて一度背筋を伸ばし、顔の前にサクラメントを立てて僅かに目を閉じる。



「――浄祓(じょうふつ)、完了。

 次なる(めぐ)りは、綺麗な花と咲きますように――」



 それは、もとは世界の穢れだった〈禍気〉が、天地あめつちを廻る良い流れの中に還るように――っていう、ちょっとした儀式というか、願いを込めたおまじないみたいなもの。


 半ば習慣化してもいる、その祈りをもって――。

 今夜のわたしのクエストは、今度こそコンプリートとなったのだった。





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― 新着の感想 ―
[一言] コンプリートっ! アニメにして見てみたいシーンですね!
[一言] >「――浄祓、完了。 > 次なる廻りは、綺麗な花と咲きますように――」 こういう決め台詞はやっぱイイっすねえ! アニメ化したらCMで流れるパターンのやつ!
[一言] 学制服に刀っていいですよね……(性癖)
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