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勇者をやめるには勇者をやるしかない!?  作者: 八刀皿 日音
1章 やっぱり経験値稼ぎは勇者の日常なのか
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第4話 勇者、尾矢隅高校七不思議を斬る?


 ――尾矢隅(おやすみ)高校七不思議の1つ、『走り続ける女』。


 それはルコちゃんの解説によれば、


『憧れの先生が担当する移動教室に遅れまいと猛ダッシュした挙げ句、足を滑らせ首を折って死んだ女子生徒の霊が、今も夜な夜な廊下を走り回っている――』


 と、いうものらしい――けど。


「いや、何そのストーリー、もはやコントじゃない……。

 ――ってか、ヒカリちゃん、聞こえる?」


 3人で、急ぎつつも慎重に階上を目指しながら、インカム越しに語りかける。


『ずず、ズカ……?

 いいいや、ズカはもう呪われてしまっているのだだだ……!

 つ、つまりこれは、ズカの声をマネた怨霊のワナに違いないのだ……! だだ騙されるなわちし!

 ううう、なんまいだなんまいだ〜……』


「怨霊にビビったあげく御仏(みほとけ)に救いを求めるな邪神。

 い・い・か・ら、うちの学校で過去、廊下で事故って死んだ生徒がいるか調べる! ソッコーで!」


『ぴぎゃっ!?

 ううう、この怨霊以上のコワさ、ホンモノのズカなのだ〜……』


「うら若き乙女に何つーこと言ってくれちゃうかねこの子は。

 ……で、どうだった?」


 普通なら、『まだ調べだしたところ!』とかって答えが返ってくる程度の時間しか経ってないけど、そこはそれ、何せヒカリちゃんだ。


『むむむむ……。

 そそ、創立まで遡っても、ろ、廊下ですっ転んで死んだ生徒なんていないのだ』


 思った通り、バッチリ解答がもらえた。

 こういうトコ、ホントさすがっていうか……スゴいんだよなあ、この子は。


 まあ、今それを手放しに褒めると、『偉大なる邪神の叡智にひれ伏すがいい!』とか何とか一気に調子に乗ってメンドクサイから、後にするけど。


「オーケー、ま、そりゃそうだよね」


「でも、穏香(しずか)センパイ……足音がするのは確かですよ?」


 ――そう、ルコちゃんの言う通りだ。

 わたしたちが階段を上がる間も、廊下を往復する足音は響き続けていて。

 七不思議の話が作り物でも、今まさに『何かがいる』のは間違いないわけで。


 でもなあ、これって……。


「先輩、どうやらこの階みたいですね。

 俺も筋肉以外は準備万端です、任せて下さい」


「うん、筋肉だけ頼りにしてるから」


 最上階の3階に着いたわたしたちは、往復運動する足音に先回りするような形で、廊下に一気に躍り出る。


 果たして、懐中電灯の光に浮かび上がったのは――



「うっひゃあああっ!?

 な、なな、なななな……っ!?」



 メチャクチャ驚いて飛び上がってる、ジャージ姿の、若い女の人。

 もっと正確に言うなら――現国担当の喜多嶋(きたじま)先生だった。


「こんなトコでこんな時間に、何やってるんですか先生……」


 まあ、『妙な気配』は感じなかったから、魔物やオバケの類じゃないのは分かってたけど……まさか、先生とはね。


 で、事情を聞いてみれば――どうやら、こっそりダイエットしようと、以前からこうしてときどき、廊下を使って走り込みをしてたみたい。


「ほ、ほら、校舎なら、雨の日でも濡れる心配ないし……!

 廊下って直線で長いから、走りやすいじゃない!? ね!?」


「ね!? じゃないです。

 廊下は走るな、って教わりませんでしたか? せ・ん・せ・い?」


「あう……ごめんなさい……」


 仁王立ちするわたしの前で、正座して小さくなる喜多嶋先生。


「で、でも、聖桜院(せいおういん)さんたちこそ……こんな時間に校舎で何してるの?」


 先生の至って真っ当な疑問にわたしたちは、生徒会として、『七不思議』に関連したウワサを調査してることを告げた。


「て言うか先生、夜の校舎に1人とか、怖くなかったんですか?」


「ううん、ゼンゼン?

 むしろ、人がいっぱいいる方が気疲れして大変というか……暗い場所に1人とか、すっごく落ち着くんだよねー」


 何とも良い笑顔で、ヒカリちゃんみたいなこと言ってるよこの人……。

 まあ、度胸では天と地ほどの差がありそうだけど。


「とにかく……。

 ヘンなウワサのもとになって不安がってる生徒もいますので、今後は慎んで下さいね。

 物音の正体が先生だったってことは、ナイショにしておきますから」


「うん……ごめんね、ありがとう」


「ね、キタやんセンセ~?

 2度目は、ありませんから――ね?」


 続けて、ルコちゃんがニッコリと――悪の帝王めいた笑みを浮かべると。

 喜多嶋先生は跳ねるように立ち上がり、敬礼しそうな勢いでビシッと背筋を伸ばす。


「ひゃ!? ひゃいいぃっ! 肝に銘じまっす!!」


 ……ヘタな怪奇現象より、ルコちゃんのコレの方が怖いんじゃなかろうか……。


「ほらほらルコちゃん、先生を脅さないの」


 わたしは苦笑混じりに、先生に助け船を出してあげる。

 先生は、もう一度わたしたちに謝ってから――


「はあ……やっぱり、どこかジムにでも通うしかないかあ……」


 そんなことをつぶやきながら、思案顔で立ち去っていった。


 その背中を見送り――わたしたちは改めて、顔を見合わせる。


「いやあ、いきなり超常現象に遭遇か!?……と思いきや、まさかまさか、でしたねー。

 キタやんセンセもお騒がせだなあ〜」


「うむ……先生も、人とは筋肉以外こそが本質だと、気付いてくれればいいのだが」


「「 お前が言うな筋肉 」」




 そんなこんなで、肩透かし的に『七不思議』の1つめを早くも解明したわたしたちは――続けて、ここから一番近いポイントの音楽室へ向かうことになった。


「音楽室の『七不思議』は、ですねえ……。

 なんと! 『飾られている肖像画が歌う』というものなんですよ!」


 今回もまた、歩きながらルコちゃんが解説してくれた。


 ふむ……音楽室ってこのテの話の定番だもんね。

 肖像画の目が光るとか、ピアノが独りでに鳴り出すとかって話は聞いたことあるけど……『肖像画が歌う』となると、その辺を組み合わせたみたいな感じだなあ。


「絵が歌う、か……つまり、筋肉もないのに声を出す……?

 これは――! 筋肉以外で何とかする、いい参考になるのでは……!」


「「 なるか 」」


 大マジメにおバカな言葉を洩らす網野くんに、ルコちゃんと揃ってツッコミを入れ――ているうちに、わたしたちは音楽室の前までやって来ていた。


 ……ぶっちゃけ、歌声どころか物音すら聞こえない。


 けど、ここは――


「しっつれいしまーす」


 わたしがちょっとしたことに気を取られてる間に、夜の校舎に似つかわしくない明るい挨拶とともに、ルコちゃんがさっさと部屋に入ってしまう。

 続けて、網野くんも。


 この2人、ホント怖いモノ知らずだなあ……なんて、呆れるやら感心するやらなわたしも、さっさとその後に続く。


 もしかしたら、入室と同時に肖像画が歌い出すのかと思いきや――結局、何の物音も聞こえない。

 ……っていうか……。


「…………。

 無いですね、肖像画が。そもそも。1枚たりとも」


「うん、無いねえ……影も形も」


 音楽室には、お約束のハズの大音楽家たちの肖像画が飾られていなかったのだ。


「ヒカリちゃん、音楽室の肖像画について、何か学校のデータに記載ある?」


『え、ええと、だな……ん、んんんっ?

 あ〜……そそ、その、何て言うか〜……うん』


 実に言いにくそうにワンテンポ置いてから、ヒカリちゃんは色の無い声で事実を告げる。


『て、撤去されてる……のだ。

 い、いずれ新調する予定で――2日前に』


「「「 ………… 」」」


 そのあまりにアレな事実に、わたしたち3人は誰ともなく顔を見合わせ――。


「はーい、2つめ、しゅ〜りょ〜」


 そんなルコちゃんの宣言とともに、さっさと音楽室を後にするのだった。

 ……いやホント、これまた見事な肩透かしだったよ。


 けど――。


「…………」


「穏香センパイ? どーしました?

 もう次、次行きましょう!」


「……ん。そだね」


 元気に歩き出すルコちゃんたちに続きながら――わたしは。

 背後の音楽室に、チラリと、もう一度だけ視線を向けるのだった。





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― 新着の感想 ―
[一言] 喜多嶋先生!?!? これが4勇の喜多嶋先生と同一人物だとしたら、時系列は……!?
[一言] 音楽室には何かいる? 楽しみになってきました♪
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