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魔法少女と黒の勇者へ告げる、勇者の思い


 魔神マガトダイモンが引き起こした、今回の事件は――結果として。

 世間的には『〈フリー・アーバ〉テロ未遂事件』って形で決着した。


 その筋書きは……。

 テロリスト〈アガトン〉の遺志を継いだ一団が、かつてのリーダーが戻ってきたかのように『装い』――。

 特殊な催眠ガスにより〈フリー・アーバ〉内の人々を昏睡状態にして人質に取って、政府に対して要求を突きつけようとするも、警察の〈特殊強襲部隊(SAT)〉の迅速な対応により、人的被害が出ることも無く、無事に鎮圧された――というもの。


 ある意味、幸いにも、というか……。

 ほとんどの人が瘴気で意識を失って詳しい事情を知らないし、結界により外界とは遮断されてた(外の人間は異常に気付けないようになってた)から、そんな風に幕を引くのはそれほど難しくもなかったみたいだ。


 で――もちろん、その絵を描いたのは、ルコちゃんや網野(あみの)くんの報告を受けた2人の先輩忍者さん(ちぃちゃんと赤宮(あかみや)くんを助っ人に送ってくれた人だ)――ではなく。

 さらにその先輩忍者さんからも報告を受けた、もっと上の人たちみたい。

 それが誰なのかなんて、当然わたしには知る由もないけれど……まあ、政府関係者とかなのは間違いないだろう。


 ともあれ、そんな形になったわけだから、実際には事件に深く関わったわたしたちもみんな、普通に『事件に巻き込まれた被害者』って括りにされて。

 しばらくは、身体検査のために病院に通ったり、警察に色々話を聞かれたりする羽目になった。


 ちなみにうちのパパは、警察官としての使命感から、詳しい話を聞きたいって気持ちはあったみたいだけど……。

 一番大事なのは、事件に巻き込まれた娘の気持ちだ――って、きっぱりとその考えを断ったみたい。

 で、わたしは、やっぱりパパのそういうところ、カッコイイなあ……って思い直しちゃった。

 ……あ、わたしはファザコンじゃないから、家族としてだよもちろん。

 まあ、どのみち聞かれたところで、ホントのことは言えなかったんだけど、ね。




 ……そんなこんなで、ようやく落ち着きを見せた(くだん)の事件から数日後。


 学校帰りにわたしは、あのショッピングモールのフードコートで――以前のように、一組のカップルと会っていた。


 そう――実はシルキーベルって〈魔法少女〉だった旧友のちぃちゃんと。

 その彼氏で、わたしと同じ異世界帰りの〈勇者〉だった、ホンモノのクローリヒトの赤宮くんだ。


 あの事件の夜、わたしがマガトを倒した後は、わたしたちみんな正体を隠すために、一般人の被害者を装い、倒れてる人たちの中に紛れ込んで救助を受けて。

 そしてその後は、それぞれが、家と警察と病院を行き来するような数日間だったわけだから――。

 たまに警察や病院でちらっと顔を合わせるぐらいはあったけど、こうして改めてゆっくりと会うのは、あの日以来ってことになる。



「「「 おつかれさまでしたー! 」」」



 とりあえずわたしたちは、お互いの――そして事件に関わった人たちみんなの無事と、事件の終わりを祝って、ジュースで乾杯。

 その後は3人揃って、まずは1つ、大きなタメ息をついた。

 ……この数日間、事件の後処理関係のことで何かと忙しかったからねえ……。


 まあそれはそれとして――だ。

 世間話もそこそこに、わたしは……。

 2人に〈マガトダイモン〉のこと、そして彼が何をしようとしていたのかを、分かっている限り詳しく報告した。


 やっぱり、わたしは当事者になるだろうからね……。

 ルコちゃんたちの計らいで、わたしの正体は政府の人にはバレてないはずだし、それに伴ってアガトンとマガトの関係性も、そっちには秘密のまま(結局アガトンは、マガイクサのような〈穢れ〉による影武者的なもの、と処理されたらしい)なんだけど……。

 それとはまた別に、いくらちぃちゃんたち2人が『普通の人』じゃないにしても、巻き込んだようなものなんだから、やっぱり説明ぐらいはしておくのが礼儀だと思って。



「……と、まあそんなわけでね。

 何かと後手後手に回って、それだけに危ないところも結構あったけど……2人が助けてくれたお陰で何とかなった、って感じかな。

 だから――ありがとう」


「そんな、お礼なんかええよ、しーちゃん。

 結果的に――な形やったけど、ウチは、しーちゃんの力になれて嬉しかったし。

 それに、そんな魔神放っといたら、みんな危なかったんやし……!」


「うん、千紗(ちさ)の言う通りだよ――って、いやいや!

 俺なんてむしろ逆に、〈鏡像〉に使われてたことを謝らなきゃ――ゴメン!」


 パン! と勢いよく手を合わせて、そりゃもう威厳も何もなしに、ペコペコとわたしに頭を下げてくる赤宮くん。


 うーん……これが、あの鬼神めいた強さの〈勇者〉クローリヒト本人とはねえ。

 でもまあ、そんなところが彼の魅力なのかも。


 ――てか、今の状況下での赤宮くんのこの態度、見ようによっては……。

 彼女だけじゃなく、その友達にまで手を出したのがバレて、必死に謝りたおしてる浮気男――って感じじゃない? なんてね。


 普段モードとクローリヒトのときと、結果として2回も、「いいかも」って胸のときめきを彼に流されるような形になったわたしとしては、そんな風に考えると面白かった。

 別に赤宮くんが悪いわけじゃないけど、何て言うか……ちょっと溜飲が下がる、みたいなね。ふふふ。



「あ、そう言えば……。

 結局、どういう流れで赤宮くんって、マガトにコピーされてたの?」


「え? ああ……。

 その、ホントにさりげないことなんだけど、それがまた申し訳ないというか……」


 恥ずかしそうにそう前置きして、赤宮くんが話してくれたこと。

 そして、わたしが知ることと、事実を照らし合わせてみると……。


 どうやら、マガトがわたしを利用してこちらの世界に渡ったとき――その妙なチカラの現出を感じ取った赤宮くんは、有事を警戒してクローリヒトの姿で現地を訪れて。

 そこで、本質の〈宝鏡〉の姿に戻っていたマガトを見つけ……不用意にも近付き、自分を映し出してしまったらしい。

 そのとき同時に、〈鏡〉が内包する大きな闇のチカラにも気付いたみたいだけど、彼がどうこうしようとするよりも先に、〈鏡〉は――マガトは、素早く姿を消したそうで。

 多分マガトも、こちらに渡ったばかりで、まずは状況を把握したり、チカラを安定させたりしたかったんだろう。だから、安全策を採って一度離脱したに違いない。

 で、何だか分からないまま取り残された赤宮くんは、それでも、〈鏡〉の闇のチカラに良くない予感を覚えて……しかも、そんな〈鏡〉に不用意に自分を映してしまったことも気に掛かって。

 何か悪いことが起きようとしているのかも――と、ここしばらく〈鏡〉を探して、アヤしいチカラの痕跡を追いかけたりしていたそうだ。


 以前、このモールでクローリヒトとしてわたしと対峙したとき、〈鏡〉という単語に反応していたのは、そういう経緯かららしい。

 ……まあ、それでお互い、大いに誤解しちゃったわけだけど。


「とにかく、別にワザとじゃないんだし、謝らなくたっていいよ。

 その後の誤解もお互いさまだったんだし――って、あれ、でも待てよ?

 そもそも赤宮くんが不用意にコピーされてなかったら、わたしが誤解することもなかったんじゃ……?」


「…………。

 ホント、すいませんっした!!」


 ジトーっとした目を向けると、さらにペコペコ。


「あはは、冗談冗談!

 いいよ、ホントにもう。その分、いっぱい助けてくれたんだしさ。

 ――てか、あんまり赤宮くんいじめると、ちぃちゃんにパイルドライバーとかされそうだし?」


「しーちゃんはウチを何やと思てるんよ……。

 こんな場所やねんもん、せいぜいDDTぐらいやで?」


「こんな場所だと頭割れるよ! やっぱり大惨事だよ!」


 悪ノリに乗っかってくれたちぃちゃんと、ひとしきり楽しく笑い合って。



 それから……今度はわたしが。

 一区切りついたのを見計らって、2人に頭を下げる。



「……しーちゃん? どないしたん?」


「いやー……なんか、申し訳なくなっちゃってさ。

 2人は、魔法少女に勇者として、これからも平和のために戦ったりするんだろうけど……わたしは、ここまでだから」


 そう告げてから、改めてわたしは、〈勇者〉をやめるために〈勇者〉をしていたことを打ち明ける。

 言うなれば、経験値を稼いでさらにチカラを増し――それによって、既に容量が限界に達していたわたしの中の〈勇者のチカラの器〉を壊してしまうためだった、って。


「それにそもそも、わたしが〈勇者〉のままだったのは、マガトをちゃんと祓ってなかったから――ってのもあったと思うんだよね。

 でもその使命も、ちゃんと果たせたから。ついでに、オーバーフローを起こすだけの経験値も貯まったと思うから。

 だから、わたしは――〈勇者〉をやめるよ。ゴメンね、2人とも」


 わたしが、またそう謝ると……2人は一度顔を見合わせて、「謝ることなんてない」と気持ちよく笑って――そして口々に、普通の高校生に戻ろうとするわたしを、祝福してくれた。



「ありがとう……ありがとう、2人とも……!

 ――あ、でも、〈勇者〉じゃなくなっても、わたしはちゃんと2人の友達だから!

 何かあったら、出来る限り協力するからね!?」



「うん、よろしくね、しーちゃん……!」


「こっちこそありがとう。頼りにしてる」


 そう言って、2人が差し出してくれるジュースのカップに――わたしはもう一度、感謝の想いを乗っけて。


 自分のカップを、軽く……でも景気よく、ぶつけた。





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― 新着の感想 ―
[一言] そういえば、御前の目的はレベルのオーバーフローでしたが、すっかり忘れておりました。 上手くいく気がしないんですけど……(笑)
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