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勇者をやめるには勇者をやるしかない!?  作者: 八刀皿 日音
4章 勇者よ、想いよ――今こそ大樹に花と咲け!
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第48話 勇者は、想いは――今こそ大樹に花と咲く!


「ふふ……ははは! はははははッ!!

 面白い――やってみるがいい!

 君こそが真実を見出したと言うのなら……そして!」


 わたしへの嘲笑とともに、マガトの姿は一瞬のうちに目の前へと移動していて――!


「――そんな状態で、まだ戦えると言うのならな!」


 鞭のようにしなり、鉄塊のように重い瘴気の帯に、わたしは受け止めたサクラメントごと、ハデに吹っ飛ばされる。


 だけど――そのまま倒れたりはしない。

 受け身を取ってすぐさま立ち上がり……見据える瞳に、闘志を漲らせる。


「戦えるわよ……戦えるに決まってるでしょ?

 言ったでしょうが、わたしは諦めが悪いって。

 それに――」


 言って、改めて意識を耳に集中すれば――。


「ズカぁ……! が、頑張れ……っ!

 頑張れ……頑張れズカぁ! がが、頑張れ頑張れ頑張え……っ!!」


 わたしを応援してくれるヒカリちゃんの声が――大声出すのなんてニガテなはずなのに、思いの丈を乗せて思いっ切りぶつけてくれる声が――何よりもしっかりと届く。

 ちょっと舌っ足らずで、しかも必死になるあまり噛んじゃって、小さい子みたいにも聞こえるところが、またかわいいじゃない。


 その想いが、わたしの戦意を――アツく昂ぶらせてくれるじゃない……!


「これだけ応援されてさ……戦えないわけないでしょうが――!!」


 わたしはサクラメントを眼前に掲げ――すっと目を閉じて、意識を集中し。

 自らの内へ、内へと……精神を深く沈めていく。


 これまでの戦いによる消耗で、そして先の〈世界の接触〉から身を守る全力の防御障壁で……ゲーム的に言えば、わたしの体力(HP)はボロボロ、精神力(MP)なんてもはやゼロに近いだろう。


 だけど――『精神力(MP)が足りません』で何も出来なくなるのは、それこそゲームまでだ。


 生きている人間に――ましてや〈勇者〉に!

 数字で『これだけ』なんて、お行儀良く計れるステータスなんざ……あってたまるか!!


 『限界』なんてのは、超えるためにあるんだよ!!



「いくよ――!

 我〈天咲香穏姫神(アマサカノオンヒメカミ)〉、勝利(ネツァク)栄光(ホド)従えし、麗しき崇高(ティフェレト)(きざはし)へ――!」


 わたしの猛りに呼応して、再び火が灯る〈勇者のチカラ〉――。

 熾火(おきび)のように小さいそれに、わたしの命を、魂を――想いをくべて。

 燎原の火のごとく、激しく燃え上がらせる!


 それを一気に、クローリヒトの〈鏡像〉を倒したときのように、普段の戦闘モードの一段上の領域へ跳ね上げて!

 そこから――!


「さらに……っ!

 麗しき崇高(ティフェレト)より、いと高き御座(みくら)へ――ッ!

 創造(コクマ)真理(ビナー)従えし、〈生命の樹〉の殿上……高天ノ座(ケテル)へと至らん!!

 〈神位昇殿(じんいしょうでん)至天(してん)〉――ッ!!」


 さらにもう一つ上の領域へ……正真正銘、限界を突破して!

 すべてのチカラを、闘気として全身に漲らせる!


 制御の臨界を超えたチカラが、わたし自身を燃え尽くすばかりに白熱させる……!


(あるじ)クン……!? いくら何でも、今の状態でそれは無謀だ!

 ロクな時間維持出来ない、いや、それどころか――命にすら関わるぞ!?》


 わたしの正真正銘の無茶に、ユーリが慌てて忠告してくれるけど。

 わたしは、身体を内側から引き裂きそうなチカラの奔流を必死に制御しつつ……それに、片頬を歪めて笑って応えた。


「――大丈夫。

 その僅かな時間に、勝負を決める――決めてみせる!!」


「フン、大口を叩いたな、面白い……!

 どれほどのものか、試してやるとしようか!」


 言うや否や、瘴気を纏ったマガトが襲いかかってくる。

 それも――〈鏡像〉を使い、複数が、全方位から……!


 対して、わたしは。


「ふぅ――……っ」


 小さく静かに、深呼吸。

 そうして――


「――――せいッ!!」


 呼気一つの間に、サクラメントを閃かせる。

 それは、夜闇を裂く雷光のごとく――すべてのマガトを一刀のもとに斬り払う。

 さらに……!


「――ここっ!」

「なに――っ!?」


 一瞬のスキを突いて奇襲をかけようとしていた……鏡像と、気配も外見もまるで見分けのつかない本体を察知し、その一撃を拳で受け止め、払い除けた。


「よく気付いたものだ……そのチカラのお陰か?」


「生憎と、そこまでの恩恵はないわよ。

 ――言ったでしょう? あなたの『真実』を見出した、って」


 そう――今のわたしには『見える』し『感じる』んだ。

 ついさっきまでわたし自身が、マガトにはないと決めてかかっていたものの存在が。

 ヒカリちゃんのお陰で、そんなわたしの身勝手な先入観が拭い去られ――そして、マガトの中に見出せたものが。


 だから――それを追えば。

 わたしはもう決して、マガトの鏡像に惑わされることはない――!


「それは真実か、ただのまぐれでハッタリか――どちらだろうな!」


 さらに、立て続けて鏡像を交えての、激しい連続攻撃を加えてくるマガト。


 もちろん、それらも今のわたしには通用しない。

 鏡像を斬り払いつつ、捌きつつ――敢えてさらした、一瞬のスキ。


 そこを突き、不意打ちを仕掛けてきたマガトの本体に――わたしは、身体ごと投げ出すように肉薄して……!


「ぉぉぉらあああああっ!!」


 出会い頭の事故よろしく、迫るマガトの額目がけ――思いっ切り、カウンターの頭突きをブチかます!!


 互いの勢いが存分に上乗せされた、恐ろしいほど質量のこもった頭突き。

 食らわせたわたしですら、一瞬息が止まるかのような衝撃に見舞われたそれは、だけど――!


 何せ頭突き(コレ)は、気合いと信念と根性で勝敗を分かつ必殺技だ……!

 今のわたしに、負ける道理なんてない!!


「ぬ、ぐぅ……っ!?」


 そして、その見立て通りに――踏み止まったわたしに対し、マガトはたたらを踏んで、ついに後退る。

 そこに生まれる空隙は、ほんの僅かな一瞬――。


 だけどわたしには、充分な一瞬だ……!



「灰は灰に、塵は塵に――()れども!

 灰塵なればこそ、枯木に花を咲かしめんっ!!」



 わたしの内の、限界を超えて燃え上がるチカラを……すべて。

 サクラメントの切っ先に集約して――。


 マガトの胸の奥……ようやく気付けた、見出せた、僅かな一点。

 そこに宿る、微かな『光』を目がけ――


 刀身の内でテスタメントを撃発して超加速――空間ごと圧し、貫き通す勢いの突進突きを放つ!!


「ぬうう――ッ!!??」


 その一撃は、マガトによってひたすら強固に練り上げられた瘴気の盾すらも、容易く撃ち抜いて――。


 狙い通りに、マガトの胸の一点を貫く!



「ぐっ、くく……! くははは……ッ!

 見事な一撃だ、だが……! この程度では、私は――!」


「言ったはずだよ――。

 わたしは、あなたの中の『種』を咲かせてみせる、と」



 不敵に笑うマガトから、サクラメントを静かに引き抜く。


 すべては――成った。

 枯れ木に灰は、撒かれた。



「〈天咲香穏姫神(アマサカノオンヒメカミ)〉の名において……!」



 最後に、桜の剛剣(サクラメント)を高く掲げながら――。

 切っ先を通しマガトに宿していた、わたしのチカラを〈解放〉する!



「今こそ、咲けッッ!!!」



 瞬間――マガトの胸の奥で、閃光が爆ぜて弾けて。



「!? これ、は――ッ!!

 ぐ――っ、ぅぅおおおおおおおおおおおッ!!??」



 マガトのチカラそのものだった、彼の内の〈穢れ〉が――閃光に裂けた胸から、高々と噴き上がる。

 けれども、それはか黒い闇などではなく――。


 ……そう。

 淡く光り輝き、夜闇の中を舞い散る――いっぱいの桜の花びらとして、だ。


 そしてその桜吹雪は、周囲の瘴気に触れれば、それらもまた同じく次々に、清浄なる光の花びらへと変えて爆発的に広がってゆき――。

 やがては、宙に集まってきていた、膨大な闇のチカラをも〈転化〉させて――。



大祓ノ断刀(おおはらえのたち)桜儀(おうぎ)――〈神桜天咲(サクラ・サクラ)〉」



 瘴気と闇のチカラが祓われ――。

 ようやく露わになった月と星空の下、満開の桜と咲き誇った。





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― 新着の感想 ―
[一言] 桜の時期にこの展開を持ってくるとは、ニクい演出ですね!
[良い点] ヤドリギとは違うけど、闇の力を桜に転化させる決め技が、バチクソカッコイイことは確か!
[一言] パチキきたーーーーー
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