表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者をやめるには勇者をやるしかない!?  作者: 八刀皿 日音
4章 勇者よ、想いよ――今こそ大樹に花と咲け!
53/57

第47話 勇者が、親友という鏡に見出すもの


「ヒカリちゃんっ!!??」



 そのあまりに予想外の闖入者に、わたしの声はキレイに裏返る。

 当然、何でここに――って疑問が湧き上がるけど、それを尋ねている余裕なんてない!


 チラリと視線を戻せば、マガトの頭上の禍々しい渦の中、これまではぼんやりしか見えてなかった〈異世界〉の光景が、はっきりそうだと分かるほどになっていて……!



 マズい……! 本当に、世界同士が〈接触〉する――!



 ヒカリちゃんを今すぐ、ここから遠ざける……!?

 ――いや、ダメだ! もうそんな余裕なんて無い!


「ヒカリちゃんッ!!!」


 わたしは、ヒカリちゃんに飛びつくようにその小さな身体を掻き抱き――右手で、ありったけのチカラを込めたサクラメントを床に突き立てて……!

 それを支点に、防御障壁を展開する――!


 世界の接触なんて事態が、具体的にどれだけの破壊力になるかなんて想像も付かない。

 ただ分かるのは、ユーリも危惧していたように、『とんでもないことになる』ってことだけ。

 それこそ、わたしなんてあっさり消し飛ばしかねないぐらいの――!



 だけど――――!!



「ぅぅああああああーーーっ!!」


 今、わたしの腕の中には――ヒカリちゃんがいる!

 大切な友達の命がある!

 だから――!



 だから、凌ぎきってみせる! 絶対に――!!



 後先なんて考えない、全身全霊、ありったけのチカラを防御障壁に注ぎ込む!


 直後――〈異世界〉が見えたと感じた、その瞬間。

 視界が一気に、白く染まった。




 閃光よりも、眩しく白く、果てしなく――。


 一切の音すらも消え――。


 五感そのものもあやふやになっていって――。




 垣間見えた〈異世界〉の景色に、微かに胸を過ぎった懐かしさと、腕の中のヒカリちゃんの感触だけを頼りにして――ううん、それに縋り付くようにして。


 白しかなくなった世界の中で、何とか、わたしという存在を繋ぎ止めようとして――そして。




 そうして――――





「……っ……! カ……ぁっ! ズ……ぁっ!」


《……じ……ン……っ! あ……じ、ク……!》



 なにか安堵を覚える響きに、鼓膜を揺らされ。

 あたたかくて柔らかい感触を、身体に感じて――。


 それを起点に――まるで、世界が急速に再構成されていくかのように。

 意識が、視界が、身体の感覚が……相次いで像を結ぶ。



 わたしが――わたしに、戻る……!



「……っ――!?」


 ――いつの間にか、大の字になって倒れていた身体を跳ね起こす。


「――ぐ、っ……!」


 関節を動かない方向にムリヤリ動かしたみたいな激痛が、全身を駆けるけど……むしろ生きている証だ、御の字だと歯を食いしばって。


「! ずず、ズカぁぁぁッ!!」

(あるじ)クン――! 良かった……!》


 加えて、わたしにしがみついていたヒカリちゃんとユーリの声が――ずっと呼びかけてくれていた2人の声が。

 どうしようもなく軋む身体に、僅かながらでも、確かな活力を灯してくれて……!


「わた、し……!

 わたし、どれぐらい、気絶――して、た……!?」


《大丈夫、ほんの一瞬だ!

 それに、相当なダメージではあるけれど……致命打には至っていない!》


 ユーリの分析を聞きながらわたしは、傍らに転がっていたサクラメントを、震える手で拾いあげ――今一度、マガトへと向き直る。


 当のマガトは……ここぞと追い打ちをかけてくるでもなく、ただ静かに佇んでいた。


「ふむ……よくあれを耐えきったものだ。

 カノン、君には素直に賞賛を贈らなければならないな」


「ホント……確かに。

 わたし自身、よく耐えたものだと思うけど、ね……」


 わたしは、まさしく満身創痍の身体に、必死に気合いで鞭打って構えだけは維持しつつ……何とか息を整えつつ、チラリと、背後に隠れるヒカリちゃんを見やった。


「……それで、ヒカリちゃん……何でまた、こんなところに来たの?」


 あくまで、純粋な疑問だったんだけど……怒られたように感じたのか、ヒカリちゃんは一度ビクリと身を竦ませてから。

 最初は上目遣いにおずおずと――けれど、次第に力のこもった声で応える。


「み、見届けなきゃ、って、思った、から……。

 む、娘の――娘のわちしが、ささ、最後――最後を、見届けなきゃ、って……!」


「……そっか……うん」


 ……そうだね――。

 これまでの人生じゃ何の関係もなくて、ただ、血が繋がってるってだけかも知れないけど。

 そもそもその『血の繋がり』だって、マガトが〈アガトン〉としては既に一度死んだ存在である以上、無いようなものかも知れないけど……。


 それでも……もう一人の『父親』ではあるんだもん、ね……。


「でで、でも……!

 わ、わちしなんかが、き、来たせいで……ズカ、が……!」


 勢い込んで想いを告げたものの、さっきまでのことを思い出して――それを自分のせいだって考えちゃったんだろう。

 自分を守るために、わたしが、余計なチカラを使って……窮地に追い込まれてしまった、って。

 だから、ヒカリちゃんは、泣きそうな顔で視線を落とす――けど。


 ……わたしの想いは、真逆だった。

 一つの事実に、気付いたことで。


「ううん……来てくれてありがとう、ヒカリちゃん。

 お陰でわたし、助かったんだよ?」


「ぅえ――?」


 ヘンな声を出してわたしを見上げるヒカリちゃんの頭を、ニカッと笑いかけつつ撫でてあげると……。

 そのまま、マガトに視線を戻す。



「マガト。あなた……ギリギリのところで、威力を抑えたわね?

 ヒカリちゃんを、死なせないように」



 ――そう。それが、わたしの気付いたこと。


 あの瞬間、わたしが覚えた危機感に対して……マガトのあまりに強大なはずの攻撃に対して、受けたダメージがあまりにも軽すぎるんだ。


 もちろん、わたしだって必死だった。

 絶対に死んでやるもんかって思ってたし、ヒカリちゃんだって守り切るつもりだった。

 その想いが、いつも以上のチカラになってもいただろう。


 だけど――それでも。

 行動不能にまで至らず、この程度で済んだのは……やっぱり予想外なんだ。


 ……攻め手が、手を緩めない限りはね――。



「ほう……気付いたか」


 てっきり、はぐらかすかと思いきや……マガトは、素直にわたしの見立てを認めた。


「先に教えてやったように、私はかつて〈麗原ノ慧殿(ウララガハラノエデン)〉で命を落とし、肉体を失った身。

 そしてその娘は、そんなでも我が血族……つまりは、私が現世に甦るための〈()(しろ)〉として、最も適性のある素体だからな。

 出来る限り、壊さずにおきたい――決まっているだろう?」


「だからあなたはこれまで、ヒカリちゃんを捕らえはしても、殺しはしなかった――ってこと?」


「逆に言えば、依り代としての価値しかないわけだがな」


 余裕ある態度で、マガトは(いびつ)に笑う。

 その凶顔をしっかと見据えて――しばし。



「――ウソね」



 そう言い切りわたしは、小さく首を横に振った。


「……なんだと……?」


「いいえ、ウソ、というのも違うのかもね――もしかしたら、あなた自身すら気付いていないのかも知れないから。

 わたしだって、まったく気付かなかったんだから……今の今まで」


「何の話をしている……!」


 わたしの回りくどい言い方に、少しばかり苛立ちを見せるマガト。

 けれど――わたしは逆に、ますます落ち着いていた。


 圧倒的なチカラの差を思い知らされ、さらに満身創痍となった今。

 戦況が限りなく不利になった今。

 だけどその今、ようやく――逆転への、確かな道筋が見えたから……!


「マガト……あなたはなまじ〈鏡〉と一体化したばかりに、大事なことを忘れてるのよ。

 ――人はそもそも、それぞれが〈鏡〉みたいなものだってことを。

 他者と向き合う中で、繋がる中で――その他者の中に、『自分』を見るってことを。

 そうして人は、自分も含めた『人』を知っていくんだってことを」


「……理解出来なかったのか?

 私は、何の話をしているのかと――」

「ヒカリちゃんが来てくれたことで」


 マガトの強い言葉を、わたしは冷静に、有無を言わさぬ調子で押さえ込むと。

 ちらっとだけ、固唾を飲んで状況を見守っているヒカリちゃんを振り返る。


「わたしはこの子の中に、わたし自身を省みて。

 そして、あなたの真実をも見い出せた――そう言ってるの」


「なに……?」


 苛立ちと並び立つ当惑に、その凶顔を――あるいは、それこそ人間のように複雑に歪めたマガトに、わたしは。

 全身に必死に力を込めて……サクラメントを突きつけた。


「泥土に隠れる蓮のごとく――あなたのその、どこまでも深い真闇の中にも『種』があるのなら……。

 今こそ! わたしが、花と咲かせてみせる!

 この、〈天咲香穏姫神(アマサカノオンヒメカミ)〉の名にかけて――!!」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 咲かせてみせます桜柄(迫真)。
[良い点] なんとか防げた理由付けがあるところと、なんといっても御前の口上と、その続きが気になる引きですね。 物語としての盛り上がりを感じます! 常人の感覚ならクズ親父と断じて、怒りを覚えるところです…
[一言] パンドラの箱じゃなくて泥中の蓮を出してくるとは、属性が和に固まっていて良いですね~。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ