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勇者をやめるには勇者をやるしかない!?  作者: 八刀皿 日音
4章 勇者よ、想いよ――今こそ大樹に花と咲け!
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第45話 それが選ぶのは、魔神か、勇者か


「ははははは!

 この状況にあっても、まだそれだけ吠えられるか。抗えるか!

 さすがは我が対極――世の希望を背負いし〈勇者〉と言ったところよな……!」


 ……とりあえずは、一撃ぶちかましてやったけど。

 もちろん、不意を突いて機先を制した程度のものだ――ダメージらしいダメージにはなってない。

 それを証明するとばかり、マガトは余裕を崩すことなく冷徹に、またわたしに散弾銃(テスタメント)の銃口を向けた。


 その態度からは、これまで愛剣(サクラメント)と一緒に戦いを支えてきた『相棒』でわたしをねじ伏せてやろうっていう、そんな底意地の悪さがまざまざと感じられる。


 だけど――さっきまでのやり取りで、わたしは一つ、気付いたことがあった。


(ねえユーリ、もしかすると、これって……!)


《ああ――(あるじ)クン。きっとそれは間違いじゃない。

 ボクもそう感じたからね》


 腕輪として一緒にいるユーリに確かめてみれば、どうやら同意見らしい。

 だから、わたしは……マガトじゃなく、彼が持つテスタメントを見据えて言葉を投げかける。



「ねえ……あなた、いつまでそいつに縛り付けられてるつもり?」



「……ほう? 何かと思えば……。

 〈勇者〉とは、道具まで救おうとするものなのかね?」


 わたしの行動に、マガトはバカにしたように片頬を歪めて笑うけど――気にしない。

 銃口に向かって語りかけるとか、ハタ目にはいかにもヘンな子かも知れないけど……今一度わたしは、思いの丈を言葉にして叩き付ける。


「わたしたちは、みんなを守るためにって、一緒に戦ってきたんじゃなかったの?

 このサクラメントと揃って、わたしの相棒になってくれたんじゃなかったの!?」


 わたしは、テスタメントを見据えたままに……一歩、また一歩と距離を詰めていく。


「確かにね、あなたはもともとはそいつの持ち物だったのかも知れない。

 そいつが人としての命を終えるそのときまで、側にいたのかも知れない。

 だけど――生まれ変わったはずだよ、あなたは!

 命を奪うものから、命を守るものに!」


「フッ、生憎だが……。

 これに、その言葉を聞き届けられるような意志などありはせぬよ!」


 言い放つや否や、引き金を引くマガト。

 放たれた闘気の散弾を、ギリギリで見切ってかわすわたし。


 さらに、立て続けにテスタメントが火を噴くのを、ときにかわし、ときにサクラメントで受けつつ――わたしはなおも近付く。


 ――やっぱりだ。間違いない……これで確信した。


 テスタメントは――毎回僅かに、わたしを射線の中心から外してくれてるんだ……!


 わたしを撃つのを躊躇うかのように。

 マガトの〈(えにし)〉との間で、自らがどうあるべきかを、迷うように……!


 だから――!


「選びなさい、テスタメント!」


 身を翻しつつ、振り袖で襲い来る散弾を払い除け、正面突破で一気に肉薄し――


「あなたの真にあるべき場所を! 為すべきことを――ッ!!」


 回転の勢いを込めたサクラメントの渾身の斬り上げで、テスタメントを上空へと跳ね飛ばす!

 そして――


「フン、無駄だと言っただろう……!」

「さあ、どうかしらね……!」


 わたしとマガトは互いに、落下してくるテスタメントへと手を掲げる。

 ――自分こそが選ばれると、確信して。




 果たして、その結果は――。




「――残念だったな」


 冷酷な笑みを浮かべてマガトは、その手に収まったテスタメントの銃口を、わたしの額に押し付ける。

 ――完全な、ゼロ距離。

 撃たれたが最後、もはやかわしようもない。


 そして、無情にもすかさず引き金が引かれ――



「なに――っ!?」



 しかし、わたしを撃ち抜くはずの弾丸は放たれなかった。有り得ないはずの弾切れを起こしたかのように。

 予想外の出来事に、一瞬、マガトは完全に動きを止める――けど!


「はああああっ!!」


 わたしは、初めから信じていた。

 テスタメントがマガトの手に戻った瞬間、そういうことなのだと察した。


 だから――このスキを突くために。

 すでに振り始めていたサクラメントを……一気に、全力で払い抜く!!


「ぐぅぅッ!?」


 無防備な胴に強烈な一撃を浴びて、大きく吹っ飛ぶマガト。

 そこへ、さらに――!


「おかえり――信じてたよ!」


 ヤツが手放したテスタメントを、キャッチと同時に3連射。

 マガトに、空中コンボ的な追い打ちを食らわせてやる。


 だけど、さすがに向こうもやられっぱなしとはいかない。


 2射は直撃したものの、最後の1射は帯状の瘴気で弾き返しつつ――空中で体勢を整えて着地した。


「……おのれ……っ!」


「まだまだ――っ!!」


 さらにここぞとばかりに、改めてテスタメントを連射して追撃。

 だけど――マガトが周囲に展開した濃い瘴気が、放たれた散弾をことごとく防いでしまう。


「あまり甘く見てくれるなよ……?

 その程度が私に通用すると思うのか?」


「でしょうね、だったら――!」


 わたしは素早く、テスタメントをサクラメントの刀身に格納。

 そして――そのまま立て続けに、闘気を込めてガンガン引き金を引く!


「なに――!?」


 一見すればそれは、サクラメントを内側から破壊する行為にも見えるだろう。

 だけど――そうじゃない。


 これは……いわば一種のブーストだ。

 わたしの闘気を、テスタメントを通し、剣の内側から蓄積させるための……!


 その証として――サクラメントの刀身は激しく白熱し、周囲に陽炎が揺らめく!


「いっけぇぇ――ッ!」

「させん――っ!」


 雄叫び一声、地を蹴り、真っ直ぐ突撃をかけるわたしに――マガトもまた、帯状に固着させた瘴気を、両手で鞭のように振り回して対抗してくる。


 普段の〈斬劇(ザンゲキ)〉速度ではとても対処が追い付かない、四方八方からの熾烈な攻撃。

 けれど――それは。そんなものでは。


 わたしの体術による加速じゃなく、ブーストによって剣自体が『爆発的な加速力』を得た今のサクラメントには、障害にはなりえない――!


「てぇぇぇやあああッ!!」


 突進しながら、それこそ竜巻のごとく――巨大なサクラメントを、まさしく暴走するかのような圧倒的な加速力のままに、ブン回してブン回してブン回してブン回す!

 そうして、邪魔をする瘴気を徹底的に斬り祓って、跳躍――!


「〈聖散ノ桜(サクラメント)花開祈(フロラシオン)〉ッ!!」


 豪快な縦回転でさらに勢いを増した、白く燃え上がるサクラメントを――思いっ切り大上段から叩き付ける!!


「――――ッ!」


 さすがにまともに受けるとマズいと踏んだのか、瘴気を凝縮して盾のように、渾身の一撃を受け止めるマガト。


「はあああああ!!」

「ぬううううう!!」


 激しく火花が散る、強烈なチカラとチカラの鬩ぎ合いの果て――。


「ぬ、ぐぅぅおおぉぉッ!?」


 惜しくも一刀両断とはならずとも……瘴気の霧散とともに、マガトの身体は大きく後方へと、地を削る勢いで弾き返された。


「くっそ……!」


 その様子に……思わず、唇の端から本音が漏れる。


 ここまでやったんだから、決着まではムリでも、もうちょっとぐらいはダメージになっててほしかったところなんだけど……!


 やっぱり、それこそ限界を超えて〈勇者〉のチカラを引き出すしかない、か……。


「ふぅーっ、ふぅーっ……!」


 ここぞとばかりに追撃したいところだけど……それが出来ないぐらいに、わたしも、結構な力を出したから。

 動きを止めて、必死に息を整えずにはいられない。


 その間に、ゆらりと体勢を立て直したマガトは――。


「……やってくれたな、カノン……!」


 愉悦とも憤怒ともつかない、ぞっとするような凄絶な笑みを浮かべていた。





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― 新着の感想 ―
[一言] おれは しょうきに もどった!
[一言] バトル漫画に喩えると、こちらの消耗に対して敵が余力を残してそうな引きが不吉ですね〜。 ベジータだったら十中八九やられるけど、御前は主人公だから大丈夫?(笑)
[一言] 剣戟で敵をぶっ飛ばしたところに銃で追撃って、なんて素敵アクションでしょう。 デビルメイクライやりたくなってきました。 行けカノン! 限界を超える者が勇者だ!!
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