表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者をやめるには勇者をやるしかない!?  作者: 八刀皿 日音
4章 勇者よ、想いよ――今こそ大樹に花と咲け!
48/57

第42話 黒い勇者もまた、勇者たるを知る


 ……まさかまさかの、ホンモノのクローリヒトの正体だった赤宮(あかみや)くん。


 いやでも、驚きはしたけど……妙に納得もしてしまった。

 何せ、あのちぃちゃんがベタ惚れしちゃうほどの男の子なんだから。

 そりゃあ、〈勇者〉ぐらいやってるよね……みたいな感じに。


 まあね……おかげさまで、わたしの仄かな胸の高鳴りは、恋心へと成長する前に敢えなく散ったわけだけど――。


「いや、いいけどね! 今はそんな状況じゃないしね!」


「……へ?」


 つい、自分への戒めを口に出してしまったわたしに、怪訝そうな顔を見せる赤宮くん。

 そんな彼に、「何でもないですよ〜」とか柔らかく告げつつ、ルコちゃんが耳打ちしてくる。


「その、センパイ……なんとなーく、お察しします」

「あ、うん……ありがとね……」


 気持ちは嬉しいけど、改めて言われるとなおさらちょっとクるかも――って、だからそんな場合じゃないんだってば!


 ――そもそも、だ!


 そうだよ、赤宮くんはちぃちゃんと一緒にここへ来てたのに!

 こうして一人、クローリヒトとして行動してるってことは――!


「ちょっと赤宮くん!? わたしのことよりも、ちぃちゃんだよ!

 そりゃ確かに助かったけど、こんなときに、彼女のちぃちゃんを放っておくのは――!」


 赤宮くんに苦言を呈そうとしたわたしの脳裏に、その瞬間……一つの記憶が、映像が閃いた。


 中学生ぐらいの華奢な体型と、それには不釣り合いな肉弾戦とプロレス技。

 なのに、名乗りを挙げるのを恥ずかしがるぐらいに奥手な性格――。


 それらが合わさり、まさか、と連想が繋がって――。



「も、もしかして……。

 さっき見かけた、あの、シルキーベルって魔法少女は……!」



 わたしの真っ直ぐな視線を受けて……赤宮くんは、バツが悪そうにはにかむ。


「あ〜……うん、そう。

 それ、千紗(ちさ)


「やっぱりぃぃぃ!!??」


 マジかぁぁぁぁ……!


 うんまあ、そりゃね、ショッピングモールの騒動のとき、とんでもない二人だとは思ったよ? 思ったけど!

 まさか、ホントのホントに、フツーじゃなさ過ぎるカップルだったなんてさ……!


 ――て言うか、わたしが〈勇者〉なのもアレなのに、知人が軒並み、同じ〈勇者〉だとか魔法少女だとか忍者だとか、どーなってるんだ広隅(ひろすみ)

 市のゆるキャラがヒーローだからって、それっぽいの集まり過ぎでしょ……。


「でも……言っちゃなんだけどさ。

 ちぃちゃんには赤宮くん、キミほどの強いチカラは感じなかったよ?

 なのに……単独行動させてていいの?」


「この広い〈フリー・アーバ〉の中で、色んな場所に取り残されてる人たちを、少しでも早く瘴気から守るには、手分けする方が良かったんだ。

 もちろん、心配はしたけど……千紗が、『任せて』って言ったから。

 千紗が、俺を信じてそう言ってくれた以上は――俺も、千紗を信じるだけさ」


「……赤宮くん……」


 ……ヤバい。

 何だ、何なんだこの二人……! 関係性がうらやまし過ぎる……!


「そして俺は、聖桜院(せいおういん)さん――いや〈勇者カノン〉、キミも信じるよ。

 必ず、元凶を止めてこの事態を終わらせてくれるって。

 だから――俺のことも、信じてくれないか?」


 涼やかな表情で――ともすれば、軽薄にも聞こえそうなセリフを。

 けれど、真剣だからこそ心を揺さぶる響きでわたしに告げて――赤宮くんは。

 改めて、自分の〈鏡像〉に向かって剣を構える。


「――キミの行く道は、ちゃんと切り拓いてみせるから」


 赤宮くんに合わせて……鏡像もまた、余裕を持って戦闘態勢に戻った。


「何だ、もう話はいいのか?

 別れの挨拶ぐらいは待ってやろうと思っていたんだが」


「そうか、なら良かった――。

 そんなもの必要ないから、いつまでも待たせちまってたところだ」


 赤宮くんのそんな切り返しを、鏡像は鼻で笑う。


「カノンがチカラを取り戻したことで、優位に立ったつもりか?

 確かに、それを防げなかったのは失策だが……オリジナルよ、招待されてもいないのに首を突っ込んだイレギュラーのキサマも含め、この場で俺が斬り捨てれば済むことだ」


「残念。

 ニセモノは、どうしたってホンモノに勝てないんだぜ? 常識だろ?」


「『ただのニセモノ』ならな。

 だが――俺は、キサマの能力の転写だけでなく、主よりチカラも授かっている……!

 ただオリジナルというだけのキサマこそ、俺に勝てるとでも思っているのか?」


 鏡像の言葉通りに――そもそもの本人の闘気だけでなく、闇のチカラが彼の周りに激しく渦を巻く。

 それはさしずめ、ヒドい嵐のようで――!


「ヒカリちゃん、ルコちゃん、網野(あみの)くん!

 巻き込まれないように、わたしの後ろに退がって!」


 わたしはすぐさま、3人を庇うような形を取る。


「センパイ……!

 これ、さすがにマズくないですか……!?」


 ……ルコちゃんが、そう言いたくなる気持ちも分かる。

 鏡像から感じる、覇気や圧力といったものは相当だ。

 でも――


「わたしは……ううん、わたしも、か。

 ――信じるよ、赤宮くんを」


 わたしは、一歩も前に出ることなく。

 二人の戦いに介入する気は一切ないと、態度で示し――ただ、見守る。


「オリジナルってだけの俺が、お前に勝てるか――って?

 まあ確かに、今のお前のそのチカラはすげーよ……けどな。

 そんなセリフを、本気で口にしちまってる時点で――」


 鏡像とまったく同じ構えを取りながら――赤宮くんもまた、闘気を解き放つ。

 けれど、こちらの闘気は――正反対に、至って静かだった。

 向こうが嵐なら……それこそ、涼やかな微風のごとくに。


「やっぱり負けだよ、お前の」


「面白い、ならば……証明してみろッ!」


 鏡像のその一言とともに、地を蹴るのは互いに同時。

 今のわたしですら、かろうじて追い切れるほどの速さで2人はすれ違い――激しく重い金属音が時間差でくうを揺らす。


 ……強烈な一撃のぶつかり合い? ううん、違う!

 お互いに繰り出した4連撃が、あまりに速すぎて重なり合ってるだけだ……!


 しかもそんな常軌を逸した打ち合いが、2度3度と立て続けに繰り返される。

 それも、合間に、2人して分身まで展開したりしながらに――!


「ず、ズカぁ……! なな、なにこれ……!?

 お、音と火花と、ときどき見える姿が、ぜ、ゼンゼン、つ、繋がらないぃ……!」


「そりゃそうだよ……同じ〈勇者〉のわたしでも、気を抜けば見失いそうなハイレベルの攻防だもん……!」


 オリジナルと、その完全なコピーのぶつかり合いだけあって。

 お互いの実力は拮抗している――そう見えたけど。


 一際強烈な一撃をぶつけ合いつつ、交差したところで……。


「――ちっ……」


 舌打ちとともに、軽く首筋に手をやる赤宮くん。

 同時に――その手の隙間から、血が飛び散る……!


「フン――しぶといな。

 もう一歩踏み込めていれば、今頃その首、落ちていたものを」


 鬼面の奥で笑いながら、悠々と赤宮くんに剣を突きつける鏡像。

 対して赤宮くんは、


「そうだな……俺も、まだまだ甘い」


 苦笑混じりに、自分の手に付いた血を確かめると……それを、地面に向かって軽く払い飛ばした。


「……予定じゃ、ノーダメ勝利のハズだったんだけどな」


「よく言う。

 それはこちらのセリ、フ――」


 余裕たっぷりなはずの鏡像の言葉が、途中で途切れ――。

 その手の剣がいきなり刀身半ばから、するりと真っ二つになってズレ落ち……滑るように地に突き立って。


 そして、鏡像自身にも肩口から大きく袈裟懸けに。

 今になって、一筋の刀傷が閃き――そこから、黒い血のように闇のチカラを噴き上げさせながら。

 ゆっくりと、力無くその場に両ヒザを突く。


「な――!? なに、が……!?

 勝って、いた、のは……俺、だった……はず……!?」


「だから負けたんだよ、お前は」


 事も無げに言いつつ、赤宮くんは鏡像の前に立つ。

 首のキズは……大丈夫みたいだ。

 浅かったし、身体の気の流れを調整して出血を止めたんだろう。


「俺の能力を完コピしたらしいけどな。

 それって、俺があの『鏡』を見つけた、もう何日も前の話だろう?

 ……俺が、そのときのままだと思うのかよ?」


「バカ、な……!

 たかが、数日……! しかも、俺は……さらなる、チカラを……!」


「そのたった数日の間に、強敵と戦って成長する機会もあったしな?」


 言って、赤宮くんはチラリと一瞬、笑顔でわたしを振り返る。


「それに――だ。そもそも、時間なんて大して関係ないんだよ。

 負けられない戦いなら、その一戦の中ですら、己の限界を踏み越えて先へ至る――それが〈勇者〉ってやつだからな。

 だからその本質の無いお前が、チカラだけを重ねたところで……それで俺を上回ったところで。

 ……俺に、負ける道理なんてあるわけないんだよ」


 さらりと、事も無げに鏡像へ告げる赤宮くん。


「……く、くく……!

 なる、ほど……これ、が……勇、者……か――!」


 対して、くぐもったような、かすれた笑いを残して――。

 鏡像は、そのままゆっくりと仰向けに倒れつつ……そのチカラを宙に散らせ切って、消滅していった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] しずかちゃん…… お察しします。 そして鏡像、もうセリフで負けてましたね!(笑)
[一言] 鏡像の台詞が終始負けフラグのオンパレードで、「オイオイオイ、死ぬわアイツ」状態でした(笑)。
[一言] 誰か― この会場にエクサリオさんとか魔法王女とか元魔王もつれてきてあげてー あ、てぃえんおーもいましたね。 将軍とか人狼とか吸血鬼とか精霊とか猫とか鳥も加えとく? まじでどうなってるんだ広…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ