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勇者をやめるには勇者をやるしかない!?  作者: 八刀皿 日音
4章 勇者よ、想いよ――今こそ大樹に花と咲け!
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第41話 勇者と邪神は、だから友達


「さて、と――」


 ホンモノのクローリヒトは……ゆっくりと、わたしを追い抜いて前に立つ。

 まさしく鏡写しのように、〈鏡像〉と向かい合う。


 その佇まいは、無防備にすら見えるけど……まるでスキが無い。

 ううん、それどころか――きっと、相対している鏡像の方は、喉元に刃を突きつけられてるような感覚だろう。

 剣なんて構えてなくても相手を圧する――そんな達人めいた覇気が、ひしひしと感じられる。


「俺も色々と疑問はあるわけだけど――まずは」


 そんな一言が聞こえたと、そう思った瞬間には。


 クローリヒトは、鏡像の目の前に移動していて――!


「――ッ!?」


 僅かに遅れて響き渡る、激しく甲高い金属音で……ようやく、わたしは。

 クローリヒトが、凄まじい速度の突きを繰り出し――鏡像がかろうじてそれを防ぐ、そんな状況になっていたことを悟る。


「――この子、返してもらうぜ?」


 突きを防御したことで、動きが止まった鏡像をさらに後ろ回し蹴りで下がらせ――。

 一瞬のスキを突いてクローリヒトは、側で身動き出来ずにいたヒカリちゃんを抱え上げると、


「任せたっ!」


 後方、わたしの方へと――ポイッと、軽々放り投げる!


「!? あびゃびゃびゃあ〜っ!?」

「――ヒカリちゃんっ!」


 素早く反撃に転じる鏡像を、クローリヒトが防いでくれている間に――。


 ふわりと放物線を描いて、デッカいぬいぐるみみたいに飛んでくるヒカリちゃんを、しっかりとキャッチ。

 その小さな身体を、思わずギュッと抱きしめた。


「ヒカリちゃん……ッ!

 良かった、ホントに――無事で良かったよぉ……っ!」


 そんな感無量のわたしの胸に、ヒカリちゃんも額をぐりぐりしてくれる。


「ず、ズぅカあああ……っ!」



「くっ……! 筋肉以外も感涙にむせぶ、良い光景だなぁ、薫子(かおるこ)……!」

「おいやめろ。その脳筋的NO筋(ノーキン)発言で台無しになるだろが!」



「ご、ごめ、ごめんなさい……!」


 わたしの胸に顔を埋めたまま……ヒカリちゃんは。

 嗚咽混じりのごめんなさいとともに、わたしに、事の経緯を話してくれた。


 自分が、テロリスト〈アガトン〉の娘だというのは知っていたこと。

 だからこそ、実の父について詳しく知ろうと、わたしたちの調査に協力したこと。

 摩天楼(まてんろう)のパパさんのスマホを使われて、マガトと二人きりで会わずにはいられなかったこと。

 そして――。

 わたしが、旧友のちぃちゃんと親しくするのを見て……嫉妬めいた感覚とともに、自分が見捨てられるんじゃないか、って不安を覚えて。

 そんな心のスキを突かれて、わたしから〈姫神咲(ヒメカンザシ)〉を奪う暗示を掛けられてしまったこと――。

 そういったことを、必死に、懺悔するかのように。


 そんなヒカリちゃんを――わたしは、なおさらにしっかりと抱きしめた。


「ううん、ヒカリちゃんは何も悪くないんだから。

 わたしこそ……ゴメンね。

 わたしにとっても、ヒカリちゃんは大事な友達なのに……そんな想いまで、気付いてあげられなくて。

 それとね――ヒカリちゃんは一つ、カン違いしてるよ」


 わたしの言葉に、ヒカリちゃんは怪訝そうに顔を上げる。


「ヒカリちゃんは、わたしのお陰で友達になれた――そんな風に思ってるみたいだけど。

 そうじゃないよ。

 だってわたしも、ヒカリちゃんと友達になりたいって、そう思って声を掛けて……そして、ヒカリちゃんにこうして受け入れてもらえたんだから。

 友達になれるかな、って不安を、ヒカリちゃんが拭ってくれたんだから。

 だから――わたしたちは、一緒なんだよ。

 だからあのとき、友達になれて――そしてこれからも、友達なんだよ」


「ず、ズカぁ……!」


「だから――ありがとう。

 友達のわたしのために、こうして、勇気を振り絞ってくれて。

 わたしを――信じてくれて……!」


「うん――うん……!

 ず、ズカも……! わちしを信じてくれて……あ、ありがとう……!」


 ヒカリちゃんは、鼻をすすり上げつつ、目元をゴシゴシ拭うと――両手で必死に握り締めていた〈姫神咲〉を、わたしに差し出してくれる。


 それは……チカラが弱まるどころか、むしろ、今まで以上に強く輝いていた。

 そう――きっと、ヒカリちゃんの『勇気』をも宿して……!


 わたしは一つうなずくと、受け取った〈姫神咲〉を髪に挿し――。


「――はあああああっ!!」


 そして、自らの〈勇者のチカラ〉を一気に解き放った!



 内側から溢れ出る光が、わたしを、魂を包み込み――。

 黒髪が、桜のような白から緋へのグラデーションへ移ろうとともに……魔を退ける白銀の軽鎧と、魔を祓う桜色の振り袖が身を覆い。

 最後に、かざした右手の中には、剛剣〈聖散ノ桜(サクラメント)〉が現れ――。


 わたしは再び、勇者カノン――。

 〈天咲香穏姫神(アマサカノオンヒメカミ)〉なる、神位(じんい)真名(まな)を授かりし〈勇者〉となる……!



「……やっぱり、キミが〈カノン〉だったか」


 ――きっと、わたしたちのために時間を稼いでくれていたんだろう。

 鏡像との鬩ぎ合いに一旦区切りをつけたクローリヒトが、わたしの前に飛び退すさるや、そう声を掛けてくる。


「ありがとう、クローリヒト――。

 あなたのお陰で、大事な友達を救えたし、わたしもチカラを取り戻すことが出来た。

 あと、それから……あのときは、ごめんなさい。

 勝手なカン違いで、あなたを悪者と決めつけて襲っちゃって……」


「……いいさ。俺だってあのときは、キミをあの『鏡』を悪用しようとしてるんだって決めつけてたんだし。

 それにまあ……あれだけそっくりなニセモノと先に出会ってれば、そりゃカン違いもするってものだろ」


 クローリヒトは、離れて対峙する鏡像を警戒したまま――けれど穏やかな調子で、冗談まじりにそう答えてくれる。

 そして、


「さて――そんなわけで、改めて確認しておきたいんだけど」


 肩越しにこちらを振り返りながらの問いに、わたしはうなずいた。


「ええ」


「今、この〈フリー・アーバ〉で起きてる異変、その元凶――。

 あの俺のニセモノ、その主らしいヤツとキミは、因縁の相手、ってことだよな?」


「……ええ、そう。

 わたしのミスで、異世界からこちらに導いてしまった魔神……マガトダイモン。

 わたしが、この手で決着を付けなければならない宿敵……!」


 クローリヒトの、鬼面の奥にある瞳を真っ直ぐに見据えて言い切ると――彼は、静かにうなずいてみせた。


「――分かった。

 それならキミは、その因縁にケリを付けるためにも、チカラを温存しておくべきだ。

 ……ということで、このニセモノの相手は俺に任せてもらおうか」


「え、でも……!

 あれは〈鏡像〉――あなたも見たことがあるみたいだけど、あのチカラを持った鏡によって創られた、あなたの外見をマネしただけじゃなく、能力までもコピーした存在なのよ……!?」


「……だろうな。打ち合ってて分かったよ。

 でも――だからこそ、なおさらだ。

 キミは、チカラを制限された状態で今まで戦ってきたんだろう?

 その分の疲労だってあるところに……これ以上、決戦を前に消耗させるわけにはいかない」


 そう前置きしてから。

 鬼面で、見えたりはしなかったけど――。

 クローリヒトは、子供のように笑った気がした。


「だってさ……何だかんだ言ったって、〈勇者〉だもんな。

 因縁の相手との決着は、自分の手で付けたい――そうだろ?」


「……そう、ね。

 こんなチカラ、さっさと手放して平穏に暮らしたいんだけど……わたしもまだ〈勇者〉だから」


 釣られて、微かに笑い返すわたし。


 言葉の雰囲気からして……どうやらクローリヒトも、好き好んで〈勇者〉やってるわけじゃなさそうだ。

 妙な親近感がわいてくるし――ちょっと、いや結構、いいな、とか思ってしまう。


 ……だって、ねえ?

 ピンチを颯爽と助けてくれたし、わたしを気遣ってくれるし、同じような境遇みたいだし、で……。

 そりゃあ気にもなっちゃうってものだよ……こんなときだけど。


 ――あ、いや、こんなときだからこそ、なのかも?

 この苦難をともに乗り越えることで、新たな絆が、とか……!?


 って、いやいや、そんなおバカなこと考えてる場合じゃなかった。

 ヒカリちゃんが無事で、〈姫神咲〉も取り戻せて、ちょっと浮かれちゃってたかも……反省。

 気を引き締めろ、わたし――!



「そんなわけだからさ。

 俺を信じて、ここは任せてほしい――『聖桜院(せいおういん)さん』」



「…………。へ?」

「え?」


 ……あれ?

 今、クローリヒト……わたしを本名で呼んだ?

 ――な、なんで? どうして!?


「あ〜……もしかして、まだ気付いてなかった?

 聖桜院さん鋭そうだから、とっくにバレてると思ったんだけど」


 困惑真っ只中のわたしの前で――。

 クローリヒトは、その(いか)つい鬼面に手をやって……脱ぎ捨てる。


 その下から現れた素顔は――――って、えええええ!!??



「ああ、あ、赤宮(あかみや)くん〜〜ッ!!??」



 そう、その正体は……。

 わたしの旧友であるちぃちゃんの彼氏――赤宮 裕真(ゆうま)くん、その人だったのだ……!





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― 新着の感想 ―
[一言] 二回も失恋させられたwww とか思ってたら、感想欄が既に二回目失恋パーティー会場じゃないですか!(笑)
[良い点] すいません、最感想失礼します。 間咲さんの感想がツボに入ってしまったのです!(笑) 別に裕真は悪いことしてないし、遊び人でも思わせぶりな態度をとったわけでもないけど、こうも被害者が多いと…
[一言] おおっとこんなときに二回目の失恋…… しずかちゃん、どんまい。
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