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勇者をやめるには勇者をやるしかない!?  作者: 八刀皿 日音
4章 勇者よ、想いよ――今こそ大樹に花と咲け!
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第38話 勇者も忍者も、走って走って走って走る!


「センパイ、何発か食らったみたいですけど、大丈夫なんですか!?」


「実弾じゃないんだし、あれぐらいなら大丈夫!」


 ――中央ホールを突破し、そのままなおも走り続けるわたしたち。

 ルコちゃんの心配に、わたしは銃の弾倉(マガジン)を入れ換えつつ、努めて明るく応じる。


 もちろん、痛くも痒くもないってわけじゃないけど……正直、まだ回復しきってない、空中庭園から落とされたときのダメージの方がよっぽど痛い。


「さすがです、穏香(しずか)先輩。

 ――薫子(かおるこ)、お前も先輩を見習って、筋肉以外を鍛えろよ?」


「まあ、センパイのこれはまさしく『筋肉以外』だけどさ……。

 ぶっちゃけ、常人がフツーに鍛えて到達出来るようなレベルじゃないっしょ」


 左右の部屋のドアから奇襲をかけようと現れるマガイクサを、ルコちゃんと網野(あみの)くんが軽口を叩きながらも駆け抜けざまに倒し――。


「……あのねえ……。

 ふたりして、わたしをフツーの女子高生枠から外さないで欲しいんだけ――どっ!」


 さらにわたしも、廊下の角から、進路を塞ぐように正面に飛び出してきた個体――その胴に適当に1発撃ち込むと。

 うずくまったところを、走り高跳びの要領で勢いを殺さず飛び越えながら――さらに後頭部に1発撃ち込んで消滅、着地と同時に走り続ける。


「「 そういうところですよ 」」


「いや、今は〈勇者〉ってだけだから! コレやめたらフツーだから!

 ――ってか、それなら2人もじゃない!?」


「「 アタシ(オレ)は忍者なので 」」」


「うぐぐ……!

 ま、まあいいよ、今は非常事態だしね!

 でもこの件が済んだら、ゼッタイ、フツーの女子高生になるから!」


 ――そうだ。

 初めは、経験値稼いでのレベル上限突破――からのオーバーフロー、みたいな形でチカラを喪失しての『勇者廃業』を目指してたけど。

 いや、今回の事件は、それも同時に達成するぐらいの経験値になりそうだけど――。


 そもそも、〈勇者〉としてのチカラが残っていた理由が、マガトを倒せていなかったことにあるのなら。

 今回の事件の決着――それは即ち、今度こその、マガトの打倒ってわけで。


 つまりわたしの〈勇者〉のチカラは、確実に喪われるはずなんだから……!


「ふふん……!」


 ……小さく、口元に笑みがこぼれる。


 そうだ。

 ヒカリちゃんを助けて、みんなを守って、マガトの野望を阻止して――その上で、わたしも〈勇者〉なんてやめちゃって、正真正銘、フツーの女子高生に戻る……!

 うん、実に良い結末じゃない。

 そんな風に、わたしにもご褒美があるって考えれば、やる気もいや増すってものよね。


 で、無事に全部済んで、〈勇者〉も廃業したあかつきには……。

 ヒカリちゃんとだらだら遊んだり、フツーの生徒会活動したり、ちぃちゃんとお茶しつつ赤宮(あかみや)くんとの馴れ初め聞いたりしたいね……!


「あ、そうだセンパイ!

 〈勇者〉やめたら、忍者になりません?

 ――アタシたちと一緒に!」


「いーやーだ!

 もう勇者も忍者も、武者も聖者も賢者もお断り!」


 そんなバカげた会話をしながら、それでも時折現れるマガイクサを倒しつつ、わたしたちは目的地を目指す。


 そうして、ようやく辿り着いたB棟への連絡橋は――。

 柱のように彫刻が居並ぶ、優に5メートル以上はある広い道幅に……高いアーチ型の天井を備え、左右はほぼ全面ガラス張りという、言葉通りの『空中回廊』な趣だった。


 中央ホールのような待ち伏せを警戒しつつ、これまで同様先頭を切るわたし。


 ……よし、前方には気配を感じない。

 結構な距離はあるけど、これなら問題無く走り抜け――


《――っ!!

 (あるじ)クン、下――いや、左だ!!》


「え――」


 いきなりの、切羽詰まったユーリの声に、弾かれたようにそちらを見る。

 左ったって、この回廊には誰も――って、違う!


 一瞬遅れて、ユーリの指摘の意味に気付いたわたしたちが見つけたのは。

 ガラス張りの壁面の向こう、空中に浮かぶ――悪魔のような姿形の、翼を備えた、体長が3メートルを優に超える巨大なマガイクサ……!


 わたしたちに向けられたその両腕が、いかにも影らしく、ぐにゃりと形を失ったかと思うと――。

 一転、すごい速さで改めて形成されていくのは、いくつものパイプを揃えて束にしたような――って、あれは!


「「「 多銃身機関砲(バルカン)ッ!!?? 」」」


 わたしたちの声が重なる――と同時に、そのバルカン砲の銃身が回転を始めて……!


「走れーーーッ!!」


 思い切り叫び――それに素早く反応して走り出した2人より、スタートを一瞬遅らせて、わたしも床を蹴る!

 2人を先に行かせたのは、ヤツが狙いをわたしに絞ってくれたなら、先頭より殿(しんがり)の方が、2人が巻き込まれにくいはずだから――なんだけど!


 嵐のごとく超高速連射される闇の弾丸は、そんな計算など歯牙にも掛けない凄まじい勢いで――厚いガラスをブチ破り、彫刻を粉砕しながら、わたしたちを追いかけてくる!


「何ですかアレ! マジのバルカン砲ばりの破壊力じゃないですか!

 戦闘ヘリかっての!!」


「実際、モデルにはなってるかもね!

 マガイクサの兵士めいた動きと装備もそうだけど!

 アレを支配してる、『マガト=アガトン』のイメージが影響するから!」


「さすがテロリスト、ってわけですか!」


 追い付かれれば致命打(クリティカル)確定な弾丸暴風雨から、必死に走って逃げるわたしたち。


 どこのB級アクション映画よ――! と、心の中で毒づきながら、この空中回廊さえ渡りきってしまえば何とかなると、ひたすら足を動かす。


 ――よし、半分来た……! あともう半分……!


 ……ちょうど回廊の真ん中。

 他より一際大きな、ライオンっぽい一対の彫刻が置かれた、円形の広場めいた作りの場所に辿り着いたところで――。

 いきなり、バルカン砲の嵐が止んだ。


 どうしたのかと、反射的に後方に意識をとられた――その刹那。


《!? みんな、止まるんだッ!!》


 ユーリの鋭い注意が飛んだかと思うと――僅かに遅れて。



 ガラスをブチ抜く、けたたましい音とともに……前方、回廊の出口付近に。

 行く手を塞ぐような形で、巨大マガイクサ本体が躍り込んできたのだ――!



「マジかコイツ――!」


 だけど、逆に考えればチャンスかも知れない……!


 今度はこちらの番と、ハンドガンを連射する――けど!

 まるで通用しなくて――!

 両腕のバルカン砲の銃口が、無慈悲にもこちらを向く……!


「――ダメ、隠れてッ!」


 わたしに続いて、それぞれ銃で攻撃しようとしていた、先を行く2人に即座にストップをかける。

 2人はすぐさま応じて、大きな彫刻の陰に飛び込もうとするけど――ルコちゃんが足を滑らせ……!


「しまっ――!?」

「! 薫子ッ!!」


 かろうじて受け身は取るものの、身を隠すには間に合わない――。

 そんなルコちゃんを庇って、何と網野くんが躊躇いなく前に出た!


「ちょっ!? 何やってンのバカ!!」

「我が無敵の筋肉以外――破れはせん!」


「筋肉も筋肉以外も――ッ!」


 バルカン砲相手の、網野くんの無謀な防御行動に――わたしは。

 間に合えと、思い切り床を蹴りつつ……ユーリの腕輪を通して、ありったけのチカラを引き出して。

 それで、即席の『盾』を展開しながら――!


「破られるに決まってるでしょーがッ!!」


 滑り込みで、2人のさらに前に出る!

 直後――火を噴いたバルカン砲の闇の弾丸が、暴威となってわたしたちに襲いかかった!


 その破壊力はやっぱり凄まじくて――!

 今のわたしじゃ威力を弱めて軌道を逸らすのが精一杯、しかもあまりの数に全部は防げず、多少は身体をかすめていく……!


 でも――彫刻の陰に隠れるまでなら、何とか凌げた。

 さすが、大きいだけあってすぐには砕かれそうにない彫刻に身を隠し、わたしたちはようやく一息つく。


「ごめんなさい、アタシがヘマしたせいで……!」

「お手数かけました、先輩」


「みんな無事だったし、ドンマイだよ。

 ――網野くんの無茶にはさすがに驚いたけど」


「オレたちは2人で一人前……一応、相棒ですから。

 コイツの、脳ミソって筋肉が無いと、オレも色々困るんで」


「が、ガチの脳筋に言われたくないっつの!」


 こんな目に遭いながらも、いつものようなやり取りを交わす2人。

 いや、さすがにルコちゃんはちょっと照れが入ってるかもね。珍しく。


「ま、無茶は無茶だけど……心意気はカッコ良かったよ、網野くん。

 わりと見直したかも」


「いえ、筋肉以外があればこそです」


「その一言がなかったらねー。

 ――さて、それはともかく……」


 こちらからの銃撃はまるで通じない。

 逃げるにしても、遮蔽物になりそうなモノはあらかた破壊されたこの回廊を走って引き返すのは無謀だ。

 逆に前進して駆け抜ける、あるいは接近戦に持ち込むにも、距離がありすぎる。

 この彫刻だって、いつまで保つか分からない――。


(どうする……!?)


 必死に考えながら、チラリと顔を覗かせて様子を窺った――その瞬間のことだった。


 マガイクサが飛び込んで来たのと逆側のガラスの向こうに、一瞬、小さな白い影が見えたかと思うと――。



「やあああああっ!!」



 それが、彗星のように――ガラスを突き破って、マガイクサの胴体に激突したのだ!


 明らかに大きさに差があるにもかかわらず、マガイクサをよろめかせたその白い影は……よく見れば、何と中学生くらいの女の子。


 それも――ちょっと近未来風の魔法少女、って出で立ちの……!



「まさか……! 〈最強の助っ人〉……!?」



 驚くわたしに気付くことなく、その魔法少女は……マガイクサを前に、素手のまま身構える。

 そしてそれに合わせて、彼女の陰から――何か使い魔っぽい、小さな武者型ロボが浮き上がったと思うと――。

 テノールのイイ声で、高らかに(マガイクサ相手に)名乗りを上げるのだった。



「……悪の魔の手から人々を守るため!

 破邪の鐘で正義を打ち鳴らし、世に平和の天則を織りなす聖女!


 〈聖天(セイテン)織姫(オリヒメ)〉シルキーベル! ここに推参――!!」





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― 新着の感想 ―
[一言] シルキーベルキターーー!!!!(大歓喜) ノリノリじゃないか!(爆)
[一言] よっしゃキターーーー!(歓喜) フツーの女子高生については 「なれると思ってるのは本人だけだよねー(微笑)」 と、つい。 いやいや、なれるかもしれませんよね! (笑)
[良い点] ここのところ毎回感想に書いている気がしますが、知らないうちに網野くんの筋肉以外トークの虜にされているのかもしれません。 今回は今後の網野くんの指針が示され回でしたね。 つまり、目指すべきは…
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