第36話 勇者、新たに特殊部隊系にスタイルチェンジ?
「え、いや、まあ……確かに、愛剣も使えない今、せめて何か武器があればとは思ってたけど……。
わ、わたしに? この装備、貸してくれるの?」
ルコちゃんが開けた旅行用スーツケースの中の装備を見、次いでその視線を困惑気味に、当のルコちゃんに向ければ……。
へっへっへ、と、悪い商人みたいな笑みが返ってきた。
「こんなこともあろうかと、センパイのために見繕っておいた逸品ですぜ!
――と、言いたいのはやまやまなんですが……」
ルコちゃんの笑みは、すぐさまはにかみのそれに変化する。
「すいません、いざってときのための、アタシたちの予備装備でしかないんです。
それでも、何も無いよりはマシかなー、って」
「でもわたし、〈勇者〉やってたってだけで……基本的には、射撃訓練とか受けたわけじゃない、タダの女子高生なんだけど」
「思いっ切りショットガンブッ放してるじゃないですか」
「いやでも、あれはほら、勇者用に――って、異世界の技術で改造されたモノだし!」
「庭園の池からセンパイを引き上げたあと、アタシたちが危なかったのを、タンパクのリボルバーでめっちゃ早撃ちして助けてくれたじゃないですか」
「あれはほら、無我夢中でね……うん、引き金引いただけだし!」
「そうですか……?
あ、それはともかく、センパイにお貸ししようと思ってるのはコレなんですケド」
言いながら、ルコちゃんがわたしに、ケースに収まっていた黒塗りのハンドガンを手渡してくれる。
……ズシリと、実銃ならではの重さが手に掛かった。
「あ、えと、ありがと……これって、弾は9ミリ?」
「そうですね。アタシのハンドガンもこのサブマシンガンも、使用弾は9ミリですから。
統一しといた方が都合はいいんで」
「まあ予備だし、そうだよね……あ、これ撃鉄が無い? ストライカー式か。
ってことは――ん、やっぱり。
陸自の銃にも採用された、H&KのSFP9だ」
「「 ……………… 」」
受け取った銃をためつすがめつ確かめていたら……いつの間にか、ルコちゃんと網野くんが、何かジトーッとした目でこっちを見ていた。
「ん? な、なにかな?」
「なんとなーく、そーなんじゃないか、とは思ってたんですけど……。
やっぱりセンパイ、実は――わりとミリオタさんですねっ?」
あ、ヤバ。
――いや、別にヤバくはないんだけど……ついつい、フツーの女子高生らしくない素の面が出ちゃったよ。
「あっはっは、バレたか――って、でも、そこまで大したものじゃないんだよ?
まあ、パパがアクション映画大好きでさ、小っさい頃からよく一緒に見てたし……。
銃でゾンビとかやっつけるようなアクションゲームも結構好きだし……。
ヒカリちゃんに付き合って、FPSなんかもわりとやるしで……。
そんなこんなで自然と、ちょーっとだけ詳しくなっちゃったっていうか。その程度だよ」
苦笑混じりに、手の中のハンドガンをスピンさせ、握りを向けて一旦ルコちゃんに返す。
受け取ったルコちゃんはルコちゃんで、ニヤリと笑っていた。
「ま、扱い方を完全にイチから教える必要がない分、アタシとしてはむしろ都合が良いってモンですけどね。
――じゃ、そーゆーことで……そろそろ服も乾いたでしょうし。
早速あちらで、『〈勇者姫〉特殊部隊化計画』開始といきますか!」
――と、そんなわけで……。
ルコちゃんとスーツケースと一緒に、奥に引っ込んで数分後。
「ほう……これはこれは!
いつもの〈勇者〉と趣は異にしながらも、主クンらしく凜々しいじゃないか!」
「さすが穏香先輩――筋肉以外が実に美しく際立ってますよ!」
ルコちゃんとともに戻ってきたわたしに、天使と男子が称賛(多分)の言葉を投げかけてくれた。
「ありがと。褒め言葉として素直に受け取っておくね」
……ちなみにわたしの装備は、制服の上から腰回りにポーチ付きのタクティカルベルト(色んな装備を付けられるようにしてある)を巻き、そこにハンドガンSFP9とその弾倉に閃光手榴弾、そして腰の後ろには忍刀を吊り下げた――ルコちゃんと網野くんの両方を足したようなスタイルだ。
それと、機動力を重視したいから、上に着るボディアーマーとかはナシにして、代わりに太ももに巻いた補助ベルトの方に、さらにいくつか替えの弾倉を提げてある。
「さて、センパイ。
映画やゲームで基本は知ってるでしょうけど、実銃ですし、一応、扱いを解説しておきますね――」
ルコちゃんのレクチャーを受けながら、わたしはハンドガンを、発砲だけはせずに一通りいじってみる。
……ふむ、なるほどなるほど。
「おお〜……さすがの器用さか、知識があるからか、はたまた才能なのか……。
ともかく、スムーズに扱えてますね。これなら大丈夫かな」
「ありがと。ルコちゃんの教え方が良いんだよ」
最後に、実弾(と言っても、ルコちゃんたちが用意してるのは全部、非殺傷用のゴム弾だけど)入りの弾倉を手渡され……練習用の空弾倉と入れ換えに装着、そのまま遊底を引いて初弾を装填した。
「しっかしホント、ハンドガン触るの初めてと思えない手際ですね〜……。
で、どうします? ちょっとは試し撃ちしておきますか?」
「あー……うん、そうだね。
――じゃ、早速」
ハッキリそう答えておきながら、けれどわたしは――。
臨時の的にしようと、さっきまでわたしが使っていた毛布を丸め始めたルコちゃんにクルリと背を向けて、部屋の出入り口へ。
「あれ、センパイ――?」
そして――ルコちゃんの怪訝な声を背中に受けながら。
いきなり、勢いよく部屋のドアを開く!
「――――!?」
ドアの向こうにいたのは――今まさにこの部屋に突入しようとしていた、マガイクサの一団。
その数と配置を、一瞬のうちに把握して――。
意志や感情はなくても、奇襲をかけるハズが逆に仕掛けられれば驚くぐらいはするのか、動きが止まっているところを――。
「はい、ご苦労さん」
目の前のヤツのライフルを蹴り弾きざま、頭にSFP9の銃口を押し付け、素早く2連射。
わたしの闘気も込めた銃弾で撃ち抜かれ、消滅していく――のを待たず、その頭を、銃のグリップで殴るように脇に退かせて。
さらにその向こうに控えていた2体に、超速で2発ずつ銃弾を見舞って黙らせたら。
左手で忍刀を抜き放ちざま、別の手近なヤツを貫き――そのまま引きずって前に出し、ようやく始まった反撃を防ぐ盾にしつつ。
その肩越しに、先に位置を把握していた4体の居場所へ2発ずつ、立て続けに銃弾を叩き込む。
そうして――
「これで――おわり!」
最後に、忍刀使って盾にしたヤツの頭にトドメの1発を撃ち込んで――合計15発。
装弾数をキッチリ使い切ったところで、忍刀を納めつつ弾倉を入れ替えて再装填。
……うん、よし。イメージ通りに扱えた!
「うっわー……。
奇襲に気付いてたのもスゴいけど、あの数を、10秒かからず完全制圧とかマジですか。
これで試し撃ち呼ばわりとか、どこのワンマンアーミーですかマジで」
部屋のドアから、呆れたような顔を出してのルコちゃんの言葉に……そちらへ戻りつつ、顔の前で「いやいや」とばかり手を振るわたし。
「だから、〈勇者〉やってただけの女子高生だって」
「まあ、主クンが〈勇者〉として数多の死線を潜り抜けた経験は、どんな戦い方だろうと、そのまま大きな下地となっている――ということだね。
……もちろん、主クン自身のセンスもあるだろうけれど」
ユーリがにこやかに、わたしとしては喜んでいいのかよく分からない補足を加えると、ルコちゃんは大きく嘆息する。
「これが、〈勇者〉の〈勇者〉たるゆえん、ってやつかー」
「……ま、それはともかく……。
こうして押しかけてくるハタ迷惑な連中が出たってことは、そろそろこの部屋の結界も限界ってことだね。
このまま、すぐに次の行動に――」
みんなにそう告げながら、ちょうど使い切った分の弾倉を、新しくベルトに付けておこうとスーツケース前に屈んだところで――わたしは。
ケースの隅の方にちょこんと、1枚の折りたたまれた紙片が挟まっているのに気が付いた。
「……? どうしました、センパイ?」
「ルコちゃん、これ」
覗き込んできたルコちゃんに見せながら、手にした紙片を開いてみる。
「え? これって――」
ルコちゃんによれば、これらの装備を手配してくれた、直芝さんという先輩忍者からのものらしい、その紙片に書かれていたのは――
『この予備の装備まで手を付けるってことは、かなり逼迫した状況なんでしょう。
それならまずは、意地を張らずに助けを呼べ――って言いたいけれど、それが叶わない可能性もあるわね。
だから、そんなもしものとき――想定外の事態により、緊急連絡さえ出来なくなったときのために。
そちらには、私の独断で〈最強の助っ人〉を潜り込ませてあります。
もっとも、助っ人自身にはそんな目的でそこにいるという自覚はないし、同じ忍者でもないのだけど――事態が困窮すればするほどに、必ず、それを打開するためのチカラになってくれるはず。
だから、もし限界まで追い込まれていたとしても、決して、最後の最後まで諦めたりしないように。
忍者の使命は戦って死ぬことじゃない。きっと何とかなるから、とにかく、どんなにみっともなくても、ひたすらあがいて生き延びなさい!』
……そんな、謎めいていながらも――ある種の希望を感じさせるメッセージだった。