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勇者をやめるには勇者をやるしかない!?  作者: 八刀皿 日音
4章 勇者よ、想いよ――今こそ大樹に花と咲け!
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第35話 再起の勇者、仲間とともに反撃へ!


「〈霊脈(れいみゃく)〉が……!? どうして!?」


 この地が、今現在、なるはずがなかった〈霊脈〉の(かなめ)となっている――。


 ユーリの報告に、わたしは思わず声を荒らげてしまった。

 対してユーリは、努めて冷静に、自分の考えを語ってくれる。


「そうだね――ボクも、ついさっきまでは分からなかったのだけれど。

 (あるじ)クン、キミの話を聞いたことで、おおよその答えにたどり着けたよ。

 ――ポイントは、やはり『鏡』だったわけだ」


「つまり、〈宝鏡〉――ひいては、マガトのチカラ……ってこと?」


「もちろん、いくら流動性があるからといって、力尽くで自在に〈霊脈〉を動かす――なんて芸当は無茶だ。

 だけど、『鏡』としての特性を利用すれば、その限りではなかったわけだ。

 そう――〈霊脈〉のチカラの流れを、〈反射〉させれば、ね」


 言って、ユーリは2つの地名を挙げる。

 ……わたしが、初めてクローリヒトと遭遇した河川敷付近と――先日のショッピングモールのあたりだ。


「以前、ボクが〈霊脈〉の要と判断したその2つのポイントで、マガトの気配が感じ取れたのも当然だった。

 ヤツは、そこに魔術的な仕掛けを施していたんだよ――たとえて言えば、任意で鏡を出現させるような、そんな魔術をね。

 完全な真っ向からの〈反射〉なんてしなくていいんだ、ほんの少し、本来の流れに角度を付けてやりさえすれば――そしてそれで、2つの流れを交差させられれば。

 その流れが交わるポイントは、普通ではありえない、最大級の〈霊脈の要〉となる――そしてそれが、〈フリー・アー(ここ)バ〉というわけだ」


「…………!

 なるほど――そういうこと、か……」


 わたしは思わず、身体に巻いている毛布をギュッと握り締める。


 ……マガトは、初めからここを『門を開く場所』として決めていたんだろう。

 もしかしたら、高いビルというのが条件的に良いのかも知れないけど――まず、かつて自分に通じていた者がいて、何かと仕込みのしやすいこの場所を。

 それで、ここに重なるのを計算して、〈霊脈〉に仕掛けを施したんだ。


 しかも――恐らくは。

 敢えて、わたしが近くにいる〈要〉を狙って。


 きっとそれは、わたしへの挑発であると同時に――最終的にわたしを『この場』に誘い込むため。


 わたしの居場所なんかはきっと、アイツと深い繋がりがあった〈聖契ノ鉄(テスタメント)〉を通じて筒抜けだったんだろう。

 ――結局ここへは、ルコちゃんたちの調査の手伝いで、あくまで偶然に来てしまった形だけど……。

 それがなくても、ヒカリちゃんを娘だと知っていたのなら、彼女を通してわたしをこの場へ導くのは容易だったに違いない。


 そうして、アイツにとって一番邪魔な存在のわたしを、〈勇者〉の命を――ここで、『門を完全に開くための、最後で最高の供物』として、始末しようと考えていたってところだろう。

 しかも、実の娘のヒカリちゃんを利用して……!


「……とんだ外道ヤローですね。

 正義の忍者としては、ますます放っておけなくなりましたよ……!」


 わたしの考えを聞いたルコちゃんは、フンと勢いよく鼻を鳴らす。

 合わせて網野(あみの)くんも、大きくうなずいた。


「人とは、筋肉のみにて生きるに非ず……!

 真に清く正しく強く美しい筋肉以外とは何かを、キッチリと叩き込んでやる必要がありますね……!」


「そういうアンタがまず、筋肉のみで生きてるけどね」


 いつもの調子の網野くんに、いつもの調子でツッコむルコちゃん。

 忍者なんてやってるからかは分からないけど、こんな状況下でもそうしたやり取りが出来る程度に余裕があるのは、見てて純粋に、頼もしいなあ――って思う。


「――それにしてもセンパイ、敵が、そうやって思った以上に準備を進めてたってことは……。

 問題の『門』が開くまでの猶予が、これまでの予想よりもずっと短い、ってことですか?」


「そうだろうね。だから、これからの行動も基本方針は変わらず、やっぱり一直線にマガトを倒す――になるかな。

 最低限、マガトとの直接対決まで持ち込めれば、その間、儀式は止まるはずだし」


「でもセンパイ、そうは言っても……」


 ルコちゃんは、心配そうにわたしを見る。

 そう――〈姫神咲(ヒメカンザシ)〉を失ったことで、〈勇者〉のチカラを最大限発揮出来ないわたしを。


「うん……分かってる。

 まずはそのためにも、ヒカリちゃんを無事助け出して、〈姫神咲〉を返してもらわないと、ね」


「ですが先輩……。

 その会長が敵の手に落ちているんですよね?」


「そう、そのことなんだけど。

 多分、ヒカリちゃんは……」


 わたしはそこで、チラリとユーリを見る。

 そうして、わたしの考えを察していただろうユーリがうなずいてくれるのを確認してから、改めて言葉を続ける。


「マガトのすぐ側にはいなくて、どこか、ほどほどに近い場所に閉じ込められたりしてると思うんだ。

 〈姫神咲〉は、それ自体が〈勇者の証〉たる強力な神器だからね――ヤツが執り行うような、闇のチカラを使う儀式においては、ただ近くにあるだけで邪魔になっちゃうはずで。

 かと言って、消滅させたり、封印したりしようとすれば、それはそれでスゴく大きなチカラが必要だから、やっぱり間接的に儀式の妨げになる。

 加えて、マガトが、わたしから〈姫神咲〉を奪うために、わざわざヒカリちゃんを利用したように、ヤツやその眷属じゃ〈姫神咲〉には触れられない――となれば。

 ひとまずは、ヒカリちゃんに持たせたまま、ヒカリちゃんごと適当に離れた場所に幽閉するのが一番――ってこと」


「なるほど……そういうことですか。

 けど、それならそれで、現状、会長との連絡手段は無いし――しらみつぶしに捜すには、〈フリー・アーバ〉は広いですよ?」


 当然の疑問を口にするルコちゃんに、わたしはちょっと得意気に笑ってみせる。


「ルコちゃんたちには実感がないだろうけど――。

 何せそこのユーリは、〈勇者〉をサポートする〈仕天使(してんし)〉だからね。

 その証たる〈姫神咲〉の場所なら、感覚として分かる――そうよね?」


「残念ながら、マガトの結界と瘴気のせいで、いつも通りとまではいかないけれどね。

 それでも方角ぐらいは常に分かるし、近付けば近付くほどにその精度も増すはずさ」


 わたしの発言にユーリは、待ってましたとばかり、優雅に深々と一礼した。


「――というわけで、結論。

 マガトのもとを目指しつつ、途中でヒカリちゃんを救出して〈勇者〉のチカラを取り戻し、そのまま一気にマガトを撃破する――。

 やっぱり作戦ってほどじゃないけど、方針としてはこれしかない、かな」


 言い切ってわたしは、腰掛けていた棚から立ち上がる。

 合わせて――呼応するように、ルコちゃんと網野くんも腰を上げた。


「センパイがやることは分かりました。

 で――もちろん、アタシたちはここでお留守番、なんてことはないですよね?」


「筋肉では不可能なことも、筋肉以外でどうとでもしてみせますよ」


 自分たちもそれなりに疲弊し、キズも負っているだろうに――退くどころか、むしろさらなる戦意を見せてくれる後輩2人。

 わたしは、そんな2人を交互に見やると――素直に一度、頭を下げる。


「――ありがとう、2人とも。

 今のわたしじゃ、相当チカラが制限されちゃってるからね……こっちからお願いしようと思ってたんだよ。

 ヒカリちゃんを助けるため、〈フリー・アーバ〉内の人たちを救うため、この世界を守るために……。

 どうか、わたしと一緒に戦って!」


「トーゼン、です――アタシたちの共闘は契約。

 そして、契約遵守は忍者のオキテみたいなもんですからね!」


「ええ、我が筋肉以外すべてを以て、先輩のチカラとなりましょう……!」


「……もちろん、ボクも忘れてもらっては困るよ、主クン?」


 わたしが宙に差し出した右手を――ルコちゃん、網野くん、そしてユーリが、勢いよくパシンとタッチしていく。


 よし……!

 待ってなさいよマガト、ここから反撃開始だからね……!


 打ち合わせた右手を強く握り締め。

 わたしが、決意を新たにしていると――。



「さて、そうと決まれば――」



 ルコちゃんが、ニヤリと笑いながら……。

 部屋の端っこに置かれていた、旅行用のスーツケースを引っ張ってきて――わたしに向かって開いてみせる。


 その中に入っていたのは――。

 網野くんが持っているような忍刀に、ハンドガンと弾倉(マガジン)、銃弾に閃光手榴弾(スタングレネード)、そしてそれらを装備するためのタクティカルベルト――といった、ルコちゃんたちが身に付けているような装備一式だった。


「――こちら、良い武器ありますぜー?

 魔王に武器ナシ(ステゴロ)で挑むのも何ですし、いかがですか、〈勇者姫〉サマ?」





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― 新着の感想 ―
[一言] >それでも方角ぐらいは常に分かるし、近付けば近付くほどにその精度も増すはずさ ドラ○ンレーダーだ!!!
[良い点] 何人たりとも筋肉は必須(鼓動や呼吸などの意味で)、というマジレスをしつつ、なぜだか頼もしく思える網野くん(笑) キャラ造形のベクトルが全然違うので今まで思い至りませんでしたが、ユーリは魔…
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