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勇者をやめるには勇者をやるしかない!?  作者: 八刀皿 日音
4章 勇者よ、想いよ――今こそ大樹に花と咲け!
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第34話 敗走の勇者、その再始動地点は……?


「ん……う……?」


 ふっと――目が覚めた。

 視界に映るのは、見慣れた自分の部屋の天井――じゃなくて。


 寝起きのせいで、一瞬、何がどうなってるのって思考が混乱する。

 でもそう、それはホントに一瞬のこと。


「――っ! ヒカリちゃん……っ!」


 すぐさま、意識を失う前のことを思い出したわたしは、反射的に上体を起こそうとして――。


「いっづぅ――っ!?」


「あ、ちょ、センパイ!? いきなり動いちゃダメですって!」


 身体に走った激痛に悶絶するのと同時に……傍らにいたルコちゃんに、慌てた様子で身体を支えられた。


「ルコ、ちゃん……? ここは……」


 それで、少し落ち着いて周りを見れば……。

 このビルの中では比較的殺風景な部屋の中、清掃用具や整備道具が、物置のごとくずらり整然と並んでいて。


 どうやら――ヒカリちゃんとユーリがいた『調査拠点』らしい。


「戻って、これたんだ……。

 ――って、ユーリと網野(あみの)くんは!?」


 わたしが寝かされていたのは、部屋の、棚や道具類で区切られたようになっている、多分隅っこの方で。

 2人の姿が全然見えないから、何かあったのかとすぐさまルコちゃんに尋ねる。


 そして、そんなわたしに対して――ルコちゃんは。

 上体を起こすのを手伝ってくれながら、「それが……」と重々しく口を開く。


「タンパクはもちろん、ユーリさんも無事です。

 ただ、会長が……」


 ……ああ、そうか……ルコちゃんたちは、ヒカリちゃんがどういう状況か知らないから。

 ひとまず、ユーリと網野くんは大丈夫と分かって、ちょっとホッとした。


「ヒカリちゃんのことは……うん、わたしからちゃんと話すよ。

 ――で、2人はどこ?」


「あ、今はちょっと席を外すというか、向こうの方に行ってもらってます」


「……何で? ああ、部屋の見張りとか?」


 部屋に満ちる清浄な空気からして、多分ユーリが結界を張ってくれてたんだろうけど――いざってときのために見張りを立てるのは間違いじゃないからね。


「え、いや、何でって……」


 ルコちゃんは、ちょいちょいと――わたしの方を指差す。

 何事かといぶかしみつつわたしは、その示す先、自分の身体を見下ろして……。


「おあばばばッ!!??」


 超大慌てで、ヒザにかかっていた毛布を首もとまで引っ張り上げた。


「なななな、なんでハダカっ!?」


「だってセンパイ、池に落ちて全身ビショ濡れでしたもん。

 ケガして弱ってるし、身体が冷えると良くないと思って、ユーリさんに治癒力を高めるって魔法をかけてもらった後、勝手を承知で、服を脱がさせてもらいました。

 幸い、ここには防災用のマットと毛布も備えてありましたしね――そう、今センパイが使ってるそれです。

 あと、センパイの制服と下着は、タオルなんかを乾かすのに使うような乾燥機もあったんで、それで乾かしてるところです。

 ――そんなわけで、タンパクのヤツと、性別不詳のユーリさんにはそのときから席を外してもらってます」


「あ、そ、そーゆーことか……。

 うん――ここまで連れてきてもらったこともそうだけど、いっぱい助けてもらっちゃったね……ありがとう」


「いえいえ。これも、正義の忍者のお仕事のうちです――と。

 ま、役得として、我が校が誇る〈勇者姫〉サマの、玉の如きキレイなお肌も堪能出来ましたしね……うっへっへ」


 ……マガトを倒すと息巻いていながら、ボロボロになって戻ってきたわたしの状態からして、今の状況があまり良いモノじゃないことぐらい察しているだろうに――でも、きっとだからこそ。

 わたしも自分も元気付けようと、そんな軽口を叩いてくれるルコちゃんに、微苦笑混じりに乗っかることにする。


「けど、『ちょーっとボリュームが物足りねーな』なんて思ったんじゃないの?」


「あっはっは! はい、それについては正直『勝ったな』なんて、ほんのちょっと思っちゃいました!

 でもセンパイ、全体的なバランスがスゴいキレイですし……そもそも『ちょっと控えめ』なコト、あんまり気にしてないでしょ?」


「まあ、ね。気にするコは気にするんでしょうけど、わたしは、これぐらいが気楽でいいんじゃないかなー、なんて。

 ……って、あれ? もしかしてこーゆー性格だからモテないのかわたしっ?」


 敢えておちゃらけて言い、ルコちゃんと笑い合いながら――わたしは、毛布を身体に巻き付けつつ立ち上がる。


「あ、センパイ!? まだ身体が治ってないんじゃ……」


「大丈夫、意識してれば耐えられる程度の痛みだよ。

 それより、時間がもったいないからね――早速、みんなで今後について話し合おう」




 ――そうして。

 ユーリ、網野くんも一緒に……わたしたちは改めて、互いの情報交換とともに、今後の行動について相談することになった。


 そこで、まずはわたしが――みんな気になってるだろうヒカリちゃんが、アガトンにしてマガトダイモンでもある、『実の父親』の手に落ちたこと。

 加えて、マガトとの接触で判明した事実を、余さずみんなに報告した。


「……そう、か……。

 まさか、ヒカリくんが……人間だった頃のマガトの、一人娘だったとはね……!」


 何と言う運命の皮肉か、と天井を仰ぐユーリ。

 その動きは、やっぱり芝居がかってはいるけれど……いつもの大仰さに欠けるあたり、真剣に嘆いてるのが分かる。

 まあ、そうだよね……普段の態度はアレだけど……。

 この子だって、ヒカリちゃんはただの『仕えるお嬢サマ』じゃなく、『友達』だと思ってるはずだから。


「しかし、くっ――!

 こんなことになるのなら、やはりあのとき、ボクもムリヤリにでも同行しておくべきだったよ――!」


 続けて、ユーリは本気で悔しそうにしながら……わたしたちが調査のためにこの部屋を出た後、何があったかを話してくれた。


 ――どうやら、ヒカリちゃんのスマホに着信があり、それに応えて『パパが呼んでるからちょっと出てくる』とあの子が部屋を出たあとに、〈フリー・アーバ〉全域を覆う結界発生からの一連の異変が起きたらしい。


 もちろんその後、ユーリはユーリで、連絡の取れないわたしたちに代わって、このフロア内ぐらいはヒカリちゃんを捜してくれたみたいだけど……。

 残念ながら、ユーリはサポートが専門で、直接的な戦闘力は高くないから。

 ムリをして自分が倒されてしまっては、〈勇者〉として戦うわたしの方にも悪影響が出る――と、泣く泣くヒカリちゃん捜索は途中で打ち切り、この部屋に結界を張って閉じ籠もって、何とかしてわたしたちやヒカリちゃんと連絡を取れないか、試行錯誤していたそうだ。


「……でも、そのお陰でこうして、わたしたちが態勢を立て直すための拠点が確保出来てるんだから……。

 結果オーライと言えばそうなのかも知れないけど、良く踏み止まってくれたよ、ユーリ。

 このケガの治療も含めて――改めて、ありがとね」


「ああ――! ヒカリくんの件がなければ、(あるじ)クンのその言葉は、天にも昇るほどの恍惚を与えてくれただろうに……!

 でも、こちらこそありがとう、主クン――おかげさまで、ボクも少し救われた気分だよ。

 けれども――」


「うん、そうだね――。

 本当の意味で、心から良かったって言うためにも――今度こそ、ヒカリちゃんを助けて、マガトを倒さないとね……!」


 ……そう。そのために、わたしたちはこれからどう動くか――。

 わたしが〈勇者カノン〉となれない今、状況を把握した上で、それをしっかり考えて準備しないといけない。


 もっとも、マガトの『異世界との門』を開く儀式が進んで、瘴気で倒れてる人たちの命が供物にされてしまう前に――って時間制限があるから、そうのんびりもしていられないんだけど……。


「それで、主クン――これからの行動を考えるにあたり、改めて話しておかなければならないことがあるんだ。

 このマガトによる異変下で、ボクが感じ取った違和について……だけどね」


「違和?」


「ああ。先にハッキリ言ってしまえば、悪い報せだ。

 ……ボクは、ここ〈フリー・アーバ〉に来る前、この地は〈霊脈(れいみゃく)〉の(かなめ)ではないと言ったね?

 いかに広隅(ひろすみ)の特異性として〈霊脈〉に動きがあるとは言え、今日、ここが要になることはない――と。

 その観測から導き出された結論は、少々の誤差があろうとも、間違いとまではならない自信があるし、事実、つい先刻まではそうだった――なのに」


 ユーリは、深刻な表情でそう前置きして、自分の足下を――ううん、恐らくはもっと遙かに下方を――指差した。



「……今現在、ここは。

 2つの〈霊脈〉が交差する――巨大なチカラを湛えた、最大級の〈要〉になっているんだよ。

 『異世界との門』を開くのに、この上ない好条件の〈要〉にね――」





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― 新着の感想 ―
[一言] 「違和感を感じる」ではなく、「違和を感じる」と書いてるところが、流石ボンクラさんですね!
[良い点] なんだかユーリとマトモな会話をしているのは初めての気がするような……(笑)。 それにしても……、これまでの話で〈フリー・アーバ〉が霊脈の要ではないと印象付けていたから、逆に何かあると夕立…
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