第2話 邪神が会長、勇者が副会長な生徒会には
そんなこんなで、ヒカリちゃんの協力を得つつ、わたしの『経験値稼ぎ高校生活』は本格的にスタートした。
もちろん、メインは普通の高校生活だから、経験値稼ぎのクエストは主に放課後――特に生徒会としての活動に組み込むようなモノがほとんどだ。
そうして1週間ぐらいの間に、紛失物の捜索とか、手が足りない部活動の助っ人とか、ケンカの仲裁とか、お悩み相談とか、先生のお手伝いとか……色々とこなした。
さらには、学校での活動とは別で、騒音で迷惑かけてる暴走族をシメ上げたりとか、カツアゲしてる不良を懲らしめたりとか、お姉さんに絡んでるヤンキーをボコボコにしたりとか、たまたま遭遇した泥棒やひったくりを捕まえたりとかもした。
学校での活動はともかく、ハッキリ言って、街中でトラブルに遭遇する確率が普通の高校生じゃありえないレベルの気もするけど……。
多分これも、『勇者だから』なんだろう。迷惑すぎることに。
――で、今日のわたしの生徒会クエストは、事務仕事である。
ただ、うちの生徒会は会長のヒカリちゃんがその辺優秀で、基本的には1人でちゃっちゃと片付けてしまうので、わたしがやるのはちょっとした手伝い程度。
そのついでに、生徒会に届いてる『要望書』の内容を確認しつつ――すぐに対応出来そうなものに、適切な人を割り当てるって仕事もこなす。
まあ、そうは言っても、今のところ生徒会にはヒカリちゃんとわたし以外、人手は1年生の子2人しかいないんだけど。
「どうでしょう先輩、何かオレに出来るような仕事はありますか?」
何枚かの要望書を同時に広げて見ていたわたしに、そう声を掛けてきたのが、長身でいかにも体育会系な筋肉質の男子――その1年生の1人、網野 玄白くんだ。
「あ、じゃあ網野くん、これ、お願い出来る?
文芸部からなんだけど、壊れそうな本棚を新調するのに古いやつを片付けたいから、力自慢の助っ人を派遣してほしい、ってさ」
「なるほど、分かりました! 筋肉以外で何とかします!」
「いや、筋肉で何とかして?」
網野くん、マジメだしイイ子だけど、極力筋肉を使おうとしない脳筋なのが玉にキズなんだよねえ。
で、網野くんといつものやり取りをしてると、部屋のドアが勢いよくガラリと開いた。
「――仏座 薫子、ただいま帰還致しましたーっ!」
元気の良い声とともに、にこやかに敬礼とかしながら現れたのは、網野くんと同じ我らが生徒会所属の1年生女子。
ルコちゃんこと、仏座 薫子ちゃんだ。
「おかえり、ルコちゃん。どうだった?」
「もっちろん、バッチリですって!
――はいコレ、例のブツです!」
ルコちゃんが差し出してきたのは、数枚のプリント。
うちの学校は、どの部活も、毎月『部活動報告書』ってのを提出する義務がある。
で、それが、わりといい加減だったり明らかに間違ってたり、そもそも忘れてたりするので、書き直してもらったり催促したりするのも、生徒会の仕事の一つで……。
ルコちゃんには、それをお願いしていたのだ。
「ん、さすがだね、お疲れさま。
グチグチ文句言ったり、面倒がって後回しにしようとする連中、いなかった?」
「穏香センパイの代理だって言えば、大抵はソッコーでしたよ?」
「あ〜……うん、そっか……」
聖桜院なんてご大層な名字と、多分、いわゆる『姫カット』な髪型のせいだろうけど、実はわたしは『身分を隠して庶民に混じるお姫さま』だと、わりと大多数にカン違いされてて……それがそのまま、ナゾの威光になってたりする。
……まあ、今は、お姫サマどころか〈勇者〉なんだけど。
「でも、柔道部なんて再三注意してもしょっちゅう間違ったり提出しなかったりだし、手こずったんじゃない?」
わたしが尋ねると、ルコちゃんは――。
「ああ」と、口元に悪の総帥みたいな笑みを浮かべた。
「それはもう、誠心誠意、真心込めて『お話』したら、分かってくれましたよ~?」
「そ、そっか……」
この子を指して、『仏の顔は3度まででも、仏座には2度目もない』とか表現したの、誰だったかな〜……。
「で、穏香センパイ、アタシ次はどうしましょう?」
「え? ああ、そうだね……。
じゃ、ちょうどいいから、網野くんの仕事が済み次第、そのまま2人一緒に、この辺の簡単な仕事を片付けてきてくれる?」
答えて、お使い程度の用件の要望書を数枚、差し出すと……。
素直に受け取りながらもルコちゃんは、ジト目で網野くんを見る。
「えー? タンパクとですか〜?」
「だからタンパク言うな薫子」
ルコちゃんに対し、即座に切り返す網野くん。
この2人、幼馴染みだそうで、傍目にはわりと良いコンビなんだよね。
「まあほら、お使い程度の仕事だけど、荷物が多くなりそうなの、あるでしょ?
男の子連れてった方がいいって」
「穏香センパイが言うなら仕方ないかー。
足、引っ張らないでよー?」
「大丈夫だ、任せろ。筋肉以外で何とかする」
「「 だから、筋肉使えっての! 」」
……そんなこんなで1年生を送り出したわたしは、事務仕事が片付くと、生徒会室の奥の部屋に向かう。
そこは通称、〈奥の院〉。
もともとは資料とかを保管していた小部屋なんだけど――生徒会室は不意の来客とかもわりとあるから、人見知りのヒカリちゃんが、安心して仕事出来る空間が欲しいと、勝手に自分専用に確保したのである。
ぶっちゃけ、仕事部屋どころか、もう完全にプライベートスペースになってるけど。
「ヒカリちゃーん、わたしの仕事終わったよー?」
窓は分厚いカーテンに塞がれ、お菓子とジュースと、ヒカリちゃんの崇拝(?)する青紫色のタコっぽいナゾキャラ〈ダゴンちゃま〉のぬいぐるみとかのグッズ、そして色んな機械に埋もれた、薄暗い小部屋。
その奥に鎮座するヒカリちゃんに声を掛けると……。
ヒカリちゃんは、「いひひ」といつものようにアヤしく笑って顔を上げた。
「よよよく来たな、勇者ズカよ……!
いいい、良いクエストがあるのだ……!」
「へえ? どんなの?」
近付きながらのわたしの問いに、ヒカリちゃんはPCのモニターを示す。
そこに、デカデカと踊っていたのは――。
『尾矢隅高校、七不思議大調査!!』
……という、いかにもアレな文言だった。