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勇者をやめるには勇者をやるしかない!?  作者: 八刀皿 日音
3章 それは導きか――勇者たちの運命は大樹に交錯する
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第33話 奈落へと舞い散るか――勇者、絶体絶命!


「ズカぁっ!! ズカああああーーーっ!!」



 ――空中庭園から、〈鏡像〉のクローリヒトに蹴り飛ばされたわたし。


 そのときの衝撃で途切れそうになった意識を、ギリギリのところで繋ぎ止めてくれたのは――必死にわたしを呼んでくれる、ヒカリちゃんの声だった。


 だけど、その声に応えようとも、わたしの身体はまともに動いてくれず――。


 敢えなく――ゾクリとする浮遊感に包まれるのもつかの間。

 まるで地獄から直に引っ張られるように……わたしは、遙か下方の地面に向かって急速に落下していく。



「くっ、そ……! ヒカリ、ちゃん……ッ!!」



 あの場で助けきれなかったことに、その悔しさに、歯噛みすることで意識を保ちながら――。

 わたしは、この絶望的な状況を何とか乗り切るために……必死に脳をフル回転させる。


 最後の蹴りも相当なダメージだったけど……まだ、身体は……かろうじて動く。


 このまま地面まで直行すれば、今のわたしじゃ即死確定だ。

 だけど、完全な一般人ってわけじゃないんだ――ある程度衝撃を和らげられるなら、大ダメージぐらいで済ませられるはず……!


 何となく頭に入れていたビルの見取り図をもとに、落下しつつ下方を見れば――中層に、わたしが退場になった空中庭園と同じような、迫り出したガラスドームがあった。


「あそこしか、ない……!」


 ただ、このまま落ちたんじゃコース的に素通りだし、さすがに勢いがありすぎる。


 だから、わたしは。

 何とか手放さずにすんでいた、クローリヒトの蒼い剣を――!


「――っらあっ!」


 ビルの外壁に引っ掛け――そのままガリガリと壁を削って、勢いを殺していく!


 完全に突き刺して止まれるなら一番だけど、今のわたしの力と不安定な状況じゃ、それは叶わない。

 それに――。


「! やっぱり……!」


 わたしの予測していた通り――蒼い剣は、みるみるうちに存在が希薄になっていく。


 そもそもが〈鏡像〉といういわばニセモノな上に、持ち主が倒され、さらに新しい個体が生み出されたとなったら――。

 マガトが口にした『〈鏡像〉の制限』から考えて、こっちは早々に消滅するのが道理ってわけだ。


 だから、ある程度落下速度を抑え、少しでも深く剣が壁に突き立ったところで――


「――てぃっ……!」


 まさに消える寸前だった剣を鉄棒代わりにしての振り子運動で、前方に飛ぶ。

 その先にあるのは、狙いをつけていた、庭園のガラスドーム。


 ただ――まだ、10メートル以上は高さがあるから……!


「ッ!」


 ――咄嗟に、両腕をかざして頭を守る。

 わたしの身体は、天井のガラスを突き破って庭園に飛び込み……そのまま、伸びた木々の枝葉を強引にクッション代わりにして、さらに勢いを削いで。


 これで、何とか着地を――と思ったら……!


「――!!??」


 枝葉の中を抜けたわたしの目に飛び込んできたのは――狙って設置しやがったのかと、責任者に悪態をつきたくなる、先の鋭く尖った鉄柵……!


 この落下速度だと、腕でかばったところで、一緒くたに串刺しになるのは明白で――!


「っ、らああああっ!!」


 ――イチかバチか……!

 一気に目前まで迫る、鉄柵の尖端目がけ――ほんの僅かな一点だけに『気』を集中した手の平を突き出して。

 そこを起点に、1秒にも満たない刹那のタイミングを狙って、受け身の要領で払い――落下する身体を、何とか外側へと弾き出す!


 ただ、そっちは芝生じゃなく、石畳の上――しかも、ちゃんと受け身を取る余裕なんてないから……!


「ぁぐっ!?」


 バウンドするほどに思いっ切り背中から叩き付けられ、そのままわたしは――バシャンとハデに水しぶきを上げて、庭園の池に落下した。


「がぼ、ごぼ……っ!」



 ――ヤバい……。息、出来ない……。



 庭園の池なんて、とても溺れるような深さじゃないだろう。

 でも……ただでさえ満身創痍なところに、落下の衝撃で身体がまともに動かないわたしは、どうすることも出来なくて……沈んでいく……。


 ……って……!

 いや、まだ、だ……! 諦める、な……っ!


 必死に、まるで離れる水面を直接掴んで引き戻そうとするみたいに、手を伸ばす。

 もがくことも出来ず、ただただ、水を掻きむしるだけでも――手を。


 だけど――




 その手を――――誰かが、掴んだ。




 そして、そのまま――わたしの身体は、一気に水上へと引き上げられる!



「先輩っ! 大丈夫ですか、穏香(しずか)先輩!!」


「げほっ、がはっ……! あ、網野(あみの)……くん……?」


 水を吐き出しながら見上げたわたしの目に映ったのは――。

 池の縁からわたしを引き上げてくれた、網野くんの姿だった。


 そしてそのすぐ後ろには、サブマシンガン(MP5)を構えて周囲を警戒する、ルコちゃんもいて……。


「タンパク! センパイは大丈夫!?」

「意識はある! だが、ダメージは大きそうだ!」

「オッケ! なら、アンタが背負ってあげて!

 ――アタシが援護するから、このまますぐにここを離脱するよ!」

「了解した!」


 朦朧とする意識の中、わたしは身体が持ち上げられるのを感じる。

 ……どうやら、網野くんにおんぶされたらしい。


「2人とも……どうして、ここ、に……?」


「センパイの指示通り、会長たちのいる部屋に戻ってるところだったんです!

 そしたら、たまたま、センパイらしき人がこの庭園に落っこちてくるのが見えて!

 見間違いかワナかとも思ったんですけど……確かめに来て正解でした!」


「そ、っか……。

 何にしても、ありがと……ホント、助かっ、た……」


「ビショ濡れだからって水臭いこと言うのナシですよセンパイ!

 とにかく、何があったか聞くのは後回し! 今はこのまま、当初の予定通り会長たちの部屋に戻ります――って!

 ……ったく、しつこいっての、コイツら――っ!」


 ルコちゃんの言葉尻に重なり、立て続けに聞こえるのは、激しい銃声。

 そして、わたしの霞む視界に映るのは――銃火と、おぼろげな影たち。


 現れたマガイクサを相手に、ルコちゃんが応戦しているみたいだ……。


「よし――今だ! 行くよ!!」

「おう!」


 何とか突破口を開いたらしく駆け出すルコちゃんに、わたしをおぶったままの網野くんが続く。

 だけど、庭園の出入り口まで来た瞬間――!


「!? しまっ――!」


 2人の前に、物陰に隠れていたらしいマガイクサが飛び出した。

 そして一瞬、対応が遅れた2人にライフルを向け――


 ――ガァンッ!!


 けれど、それが火を噴く前に――頭部を吹き飛ばされたマガイクサは、そのまま消滅する。


 撃ったのは……他でもない、わたしだ。


 網野くんが、予備の武器としてだろう腰に提げていたリボルバー式の拳銃を……咄嗟に、勝手に、使わせてもらった。


「――先輩……!」


「ゴメン、2人とも……あとは、お願い……。

 ユーリの、ところに……」


 リボルバーを握った手を、その重みに負けて、だらりと伸ばしながら……わたしは。

 最後に、そう言い残して――ついにそのまま、意識を手放した。





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― 新着の感想 ―
[一言] ひょっとして戦犯は、不注意でコピーされた裕真なのでは?(笑) それにしても、やはり大怪我を負いながらも必死に戦おうとする美少女はイイ……(恍惚)。
[一言] まさに手に汗にぎるアクションシーン! しずかちゃんピンチですが、そこでの助っ人がこの2人なところがなんかボンクラさんっぽいな、と思いました。 これからどうなるのか、ワクワクしますねー。 ここ…
[一言] 上手く言えないけど、多分大体オムライスさんの感想序盤と同じ(雑) 今回のアクションシーン熱いわ~
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