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勇者をやめるには勇者をやるしかない!?  作者: 八刀皿 日音
3章 それは導きか――勇者たちの運命は大樹に交錯する
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第31話 勇者と魔神、その約束の行方は


「はあーっ、はあーっ、はあー……っ……!

 ざ、ざまあみなさい、っての……!

 こ、今度こそ、わたしの勝ち、よね……!」


 〈神位昇殿(じんいしょうでん)〉で短時間に過剰なチカラを行使したせいだろう――。


 何とか決着を付けたって気が緩んだ途端、強烈に襲い来る疲労感に、思わずヒザに手を突きつつも……。

 わたしは、倒れたクローリヒトとマガトに交互に、挑戦的な眼差しを送ってやる。


 すっかり息も上がっちゃって、弾き飛ばされたサクラメントを拾いに行く余裕すらない――けど、警戒は切らさない。

 特に、マガトの方は。

 もしここで、約束を反故(ほご)にしてヒカリちゃんに何かするようなら――今一度の〈神位昇殿〉で、階梯を最大限まで引き上げ、身体をムリヤリ動かしてでも対抗してやる……!


 そう敵意を剥き出しに、散弾銃テスタメントの銃口をマガトに向ける。


 これで、実はクローリヒトが『負けたフリ』をしているだけ――とかだったら、まさしくどうしようもない大ピンチだけど……。

 確かな手応えがあったし――その闘気も、隠していると言うより消え去ってる感じだから、それはないだろう。

 命がどうこうってほどのダメージにはなってないにしろ、意識が飛んで戦闘不能なのはまず間違いない。


 ――パチ、パチ、パチ……。


「さすがは、神位を授かりし〈勇者〉と言ったところか。

 ああ、見事な戦いだったとも……!」


 倒れるクローリヒトに一瞬気を取られたところ、手を叩く音に視線を戻せば――。

 マガトが、いかにも満足げな表情でうなずいていた。


「ふん――喜びなさい、マガト……!

 次にあなたをブチのめすための余力ぐらいは、ちゃーんと残してあるからね……!

 ただ、その前に――約束、覚えてるわよね……っ?」


 わたしが、立ち尽くすヒカリちゃんを見ながら、改めて確認すれば。

 マガトは、僅かな間を置いて――わざとらしい微苦笑とタメ息とともに、やれやれとばかり首を振る。


「……そうだったな――ふむ、仕方あるまい。

 会えたばかりの娘と離れるのは心苦しいが……そう、約束、だからな」


 そうして、片手を上げ、指をパチンと鳴らすと――。

 傍らにいたヒカリちゃんが、いきなり支えを失ったように前につんのめる。


 ……コイツ、やっぱりヒカリちゃんのこと、何らかの術で拘束してたな――!


「ヒカリちゃん、いいから走って! こっちに!」


 突然拘束が解除されて、でもマガトの近くで――どうしようと困惑気味に、マガトとわたしを見比べるヒカリちゃんを、わたしはすぐさま呼ぶ。


「大丈夫、わたしが見てるから! 何もさせやしないから!

 だから、後ろは気にせずこっちに走って!」


 それに応じて、まっすぐこちらへ走り出すヒカリちゃん。

 小柄だから歩幅が狭いし、そもそも運動が得意じゃないから、決して速くはないけど――それでも。

 必死に、転がるように大階段を駆け下り、そのままわたしを目指してくる。


 正直、まだまともに動かない足を引き摺り、わたしも一歩ずつ、それを迎えに行く。

 ――テスタメントの銃口だけはしっかりとマガトに狙いをつけ、警戒したままに。


「やれやれ……私はそこまで信用がないのかね?」


「人質取るのもアリってなことぬかしてた輩が、よく言うわよ……!」


 マガトの気安い軽口にも油断はしない。

 ヒカリちゃんを見守りつつ、ヤツの一挙手一投足に最大限の注意を払う。

 クローリヒトまでは見ている余裕はないけれど、気配だけは捉えておく。


 そして、ヒカリちゃんとの距離が近付くにつれ。

 マガトがそろそろ何かを仕掛けるんじゃないか――そんな緊張が加速度的に増していく中。



「――ズカぁっ!!」



 警戒が功を奏したか、本当に何もする気がなかったのか――。

 とにもかくにも、ヒカリちゃんは無事、わたしのもとへと辿り着いた。


「ヒカリちゃん!!

 ホントに、無事で良かった……!」


 テスタメントの狙いはそのままに、飛び込んでくるヒカリちゃんを右手で受け止めて、ぎゅっとする。


 ――ああ、間違いなくヒカリちゃんだ……!


 やわっこくてあったかな小さい身体を抱きしめ、サラサラな髪を梳いてあげれば、その感触に思わず安堵の息が漏れた。

 同時に、この子の今の心境に思いを馳せれば――やるせなくなる。


 でも……非情かも知れないけど、今はまだ、そんなヒカリちゃんの心に寄り添ってあげられる状況じゃない。

 ここからどう動くか、それを考えなきゃ。


 そう、ヒカリちゃんを守りつつ、このまま一気にマガトとの決着を付けるか――。

 それとも、ここは一度退き……ヒカリちゃんの安全を確保した上で、再度挑むか。


 儀式の供物にされかねない、他の人たちの身の安全を思えば、一気に行くべきだけど……。

 そもそも今のわたしの余力で、ヒカリちゃんを守りながら戦えるのかどうか。


 幸いにして〈世界を繋ぐ門〉は、ここが〈霊脈〉の要から外れていることを考慮すると、開くにはまだまだ時間がかかりそうだし――。

 ユーリが今、どういう状況にあるのか分からないのが難点だけど……わたしや、〈勇者〉のチカラを引き出す〈姫神咲(ヒメカンザシ)〉に何の反応も無いのだから、どうしようもなくヤバい状況ってほどじゃないハズだ。

 なら、そっちに戻っているルコちゃんたちとも合流して、守りを固めてもらって――改めて気兼ねなく全力で戦えるよう、仕切り直す方が得策か……?


 ――僅かな時間の間に、必死に今後の行動を思い巡らすわたし。

 と、そこに――。


「――ズカ」


 わたしを呼ぶヒカリちゃんの静かな声が。

 何かと思って視線を落とすと――わたしを見上げる、ヒカリちゃんの顔があって。



「ごめん」



 何が? と問う間もなく……虚ろな瞳でそう告げたと同時に。

 素早くわたしの額に手を伸ばしたヒカリちゃんは――前髪を留めていた〈姫神咲〉を奪い取って……!?


「!? ヒカリちゃん、何を――ッ!?」


 突然のことに、一瞬思考停止するわたしの腕をするりと脱け出し――〈姫神咲〉を手にしたまま、大きく一歩後ろに飛び退くヒカリちゃん。


「ダメ! それ、返して――早く!」


 全身から、一気にチカラが抜ける感覚とともに――わたしは、思わずその場にヒザを突く。


 ――それもそのはず。

 〈勇者の証〉たる〈姫神咲〉は、わたしが神位持つ〈勇者〉としてのチカラを行使する上で、絶対に必要なもので――!

 それを奪われるってことは……わたしは、〈勇者カノン〉でいられなくなるんだから……!


「……あ、くっ……!?」


 強引なまでの変身解除によって――先の戦いの疲労が、これまでの比じゃないレベルで身体にのしかかる。

 何とか実体化を保てているテスタメントまで、重いと感じる……!


 わたしの中のチカラそのものが消えるってわけじゃないけど――!

 このままじゃ、それを最大限に発揮出来ない……つまりは……!


「ヒカリちゃん――ッ!」


 マガトほどの相手とは、戦えなくなる……!!





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― 新着の感想 ―
[一言] 吐き気をもよおす『邪悪』とはッ! なにも知らぬ無知なる者を利用する事だ……!! 自分の利益だけのために利用する事だ… 父親がなにも知らぬ『娘』を!! てめーだけの都合でッ!
[一言] お、おお……!? なんかヒカリちゃんがあっさり解放されたなー、と思ってたら、こういうことでしたか……! どうなるのか楽しみです!
[一言] 私思うんすよ。 これだけ「この場所は〈霊脈〉の要じゃない」って言いまくってるってことは……。 って勝手妄想で先読みしたのですけど、ここで書くのもなんなんで、黙ってようと思います。
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