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勇者をやめるには勇者をやるしかない!?  作者: 八刀皿 日音
3章 それは導きか――勇者たちの運命は大樹に交錯する
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第29話 勇者もまた、魔神の掌の上なのか


「!? ヒカリちゃんッ!!」


「ズカぁ……」


 反射的に呼びかけるわたしに、マガトの傍らに立つヒカリちゃんは弱々しい声で応じた。


 取り敢えず、ケガとかしてるわけじゃなさそうで、そこは一安心だけど……。

 こんな状況だ。魔術による拘束――そう、身体が自由に動かせないとか、それぐらいのことはされていてもおかしくない。


 それにしても、どうやってヒカリちゃんをここまで連れてきたのか。

 そもそも、一緒にいたはずのユーリは無事なのか――。


 疑問が一気に湧き出るけど……何よりも放っておけない問題について、わたしは声を張り上げる。


「マガト!! 言うに事欠いてフザけた大ウソついてんじゃないわよ!!

 ヒカリちゃんが、あなたなんかの娘なわけないでしょうがッ!!」


「……だ、そうだぞ?」


 思わせぶりに、マガトが視線を向けると――。

 ヒカリちゃんは、小さくふるふると首を振った。


「ゴメン、ズカ……ホント、なのだ……。

 わちしは、パパとママの、養女、だから……」


「――え……?」


「パパもママも、黙ってたけど。

 いつか、話してくれるつもりだったのかも、だけど。

 ……でも、わちしは……PC使うのも、それで調べものするのも、得意、だったから――」


 今にも泣き出しそうな顔で、訥々(とつとつ)と語るヒカリちゃん。

 わたしは……ただ黙って、そんな彼女を見続けるしかなかった。


「もっと小さい頃に、養女って、知っちゃったのだ……。

 ホントの親まで調べられたのは、最近になってから、だけど……!」


 つまり……それ、って。

 以前、生徒会室でのルコちゃんとの会話で出た、『母親の知人に預けられたアガトンの遺児』が、まさしくヒカリちゃんだった、ってこと……!?


 なんなのよ、それ……っ! そんなのって……!


「――だからこそこの子は、カノン、君たちに協力したそうだぞ?

 実の父たる私の情報を、確かめるために――な」


 口元に、微かな笑み――そこにどんな感情があるのかは計り知れないけど――を浮かべ、マガトはヒカリちゃんの頭に手を置く。

 あの人見知りのヒカリちゃんが……泣きそうな顔はそのままに、けれど、その手を払い除けようとはしなかった。


「しかし……これぞまさしく、運命の巡り合わせというものか。

 ()()()()()こちらの世界へ戻ってきたばかりで、まさかこうして、15年前に別れた娘とも出会うことになるとはな」


「計画通り――ですって?」


「――その通り。

 ふむ、そうだな……君とは浅からぬ因縁もあるし、娘が世話になった恩もある。

 せっかくだ、真実を教えてやろう――」


 いかにも紳士然とした風に、よく響く声でマガトは――黙って聞く態勢に入ったわたしに向けて語り始める。


 こんなヤツの得意気な演説なんて、気持ちとしては聞きたくないけれど――。

 コイツが、ヒカリちゃんに何かする前に助け出すためにも、今は様子を見つつ、スキを窺うのが得策だろうから。

 背後からわたしを見張る形になってる、クローリヒトの存在も無視出来ないしね……。


 そんな風に、努めて冷静でいようとしていたわたしだけど……続くマガトの言葉に、また驚愕するハメになった。


「私は15年前、自らの意志とは関係なく、1人、異世界〈麗原ノ慧殿(ウララガハラノエデン)〉に飛ばされた。

 そして、()の地で敢えなく命を落としたが――。

 その際、この魂だけは……君たちが〈宝鏡〉と呼ぶ、チカラある鏡と同化することで永らえたのだよ」


「な――!?」


 〈宝鏡〉と……!?

 じゃあなに? マガトに利用されてるだけだと思ってた〈宝鏡〉――むしろあれこそが、本体だったってこと……!?


「……信じられないかね?

 そもそもあの鏡は、かつて、『願いを叶えるご神体』として奉られていたものでね。

 人々がひっきりなしに訪れては、『願い』を捧げていたのだよ。

 しかし哀しいかな――『願い』と言えば聞こえは良いが、長く続く平和に溺れ、我欲を追うばかりとなっていた当時の人間たちのそれは、世界は違えどこちらと同じく、欲望にまみれきったものが大半だったのだ。

 結果――〈宝鏡〉には、黒く澱んだ負の想念が蓄積された。

 神にも近しいほど純粋だった鏡のチカラは、それゆえに闇にも染まり得たのだ」


「…………。

 あなたの〈アガトン〉としての主張は、いわば『人の本質は悪徳と忌避されるものにこそある』――って感じだったわね。ぶっちゃけて言えば、ある種の性悪説(せいあくせつ)

 『願い』のはずが、フタを開ければ欲望塗れ――そんなものに穢されていた〈宝鏡〉とあなたは、いかにも相性が良かったってわけね。

 で――異世界に行ってもやはり人の本質は変わらないのだと、さぞかしあなたは嬉しかったんでしょうね?」


 皮肉をたっぷり込めて、二の句を継いでやるけど……やっぱりと言うか、得意気に微笑むマガトはまるで気にも留めない。


「いかにもその通りだ。理解が早くて助かる。

 ……その後、そうした悪影響に気付き、恐れた一部の人間により、鏡は役目を終え、人知れず保管されることになったが――既に遅く、闇に染まった鏡は自然と、同種のチカラを集めるようになっていたのだ。

 だがさすがに、私がこうして魔神となるほどのチカラを得るには、長い年月を必要とした。

 そして、千年にも及ぼうかというその時間のうちに、私自身の意識と記憶も薄れ――世界変革の志のみを残した私は、蓄積された穢れと溶け合い、マガトダイモンとして覚醒した。

 だが――」


 マガトは、ゆっくりとわたしの方へ手を差しだした。

 離れて立つわたしに、握手でも求めるかのように。


「勇者カノン……君との邂逅が、私の本来の意識と記憶を呼び覚ました。

 同じ世界からやって来た、同胞たる君の存在が、私の魂を刺激したのだ。

 そうして自分を取り戻した私は、一計を案じた。

 残念ながら、私のチカラを以てしても、単独では世界を越えることは出来ない――そこでカノン。

 君と、君のチカラを利用して、こちらの世界へ戻ることにしたわけだ。

 ――真の目的たる、『地球の変革』を成し遂げんがために」


「……要するに、わたしはとんだピエロだったってわけね。

 あなたの本体に気付けなかった上に、まんまとこうして、こっちの世界に連れ戻しちゃったんだから……!」


 しかもそのせいでヒカリちゃんが、本来なら絶対に会うこともなかった、こんな父親と出会ってしまったんだと思うと……!

 何より、自分の迂闊さに腹が立ってしょうがない――!


「それで……マガト、あなた、ヒカリちゃんをどうするつもり?

 〈勇者〉のわたしを、いっそ供物にもするつもりで、こうして誘い込んで自らの手で始末しようっていうのは分かるわ。

 ――でも、それならヒカリちゃんは?

 口振りからして、ヒカリちゃんと出会ったことは計算外だったんでしょう?

 まさか、そうして手もとに置いてるのは、人質なんて姑息な手を使わないとわたしに勝てないから――なんて、腰抜けな理由じゃないわよね?」


 純粋に疑問でもあったけど、同時に、上手くスキを誘えないかと、あからさまな挑発をしかけてみるものの――。

 さすがに、それに乗るほどバカな相手でもなくて。

 スキなんて見せないマガトは、憎たらしいぐらい余裕をもった動きで、小さく肩をすくめた。


「ふむ……姑息でも何でも、確実な勝利には換えられないと思うがね?」


「くっ、この……ッ!」


「――だが、まあ」


 思わず歯噛みするわたしの姿に満足したのか、マガトは嘲笑混じりに1つ手を打つ。


「私も娘に、友人が自分のせいでなぶり殺しにされる――そんなさまを見せつけるのは、さすがに忍びないというもの。

 そこで、だ……ひとつ、余興をしようではないか」


「余興――?」


 いかにも不穏な響きを伴ったその単語に、顔をしかめた瞬間――。

 背後でいきなり大きく膨れあがった殺気に、わたしは咄嗟に身構えつつ振り返る。


 そこには――蒼く輝く剣をゆっくりと構え、戦闘態勢を取るクローリヒトの姿があった。


「カノンよ、君がそのクローリヒトを倒せたならば――。

 私も、娘を解放することを約束しよう」





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― 新着の感想 ―
[一言] このクローリヒトは裕真じゃないのかな? そういえば初めて会った時のクローリヒトも裕真っぽくなかったけど……。
[一言] ヒカリちゃん…… どうするつもりだ!? 実の父親がこれじゃ悩みますよね…… 
[一言] おや、鈴守さんがいませんね。 ……ふむ。
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