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勇者をやめるには勇者をやるしかない!?  作者: 八刀皿 日音
3章 それは導きか――勇者たちの運命は大樹に交錯する
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第27話 魔神の企みと、勇者たちの戦術と



「それでは諸君――。

 その命の次なる(めぐ)りが、我が新世界での幸せなものとならんことを……!」



 一方的にそう(のたま)って――アガトンの立体映像も、ディスプレイの映像も、両方がふつりと切れた。


 絶句していたルコちゃんたちは……それとともに、彼をマガトダイモンと呼んだわたしを、どういうことかと問いたげに見る。


 対して、わたしは――。

 逸りそうになる心を抑えるのに、一度、大きく深呼吸。


 まだ時間はある、慌てるなと自分に言い聞かせてから――改めて、口を開いた。


「……これまでの事件でも、わたしだけじゃなくユーリも、マガトダイモンに近しい気配を端々に感じてはいたんだ。

 でも――それはあくまで、元凶が『同じような闇のチカラを持つ存在』だからじゃないか、って考えてた。

 一番直線的でシンプルな答えは、ありえないと一顧だにしなかった――」


「そもそもマガトダイモンは、穏香(しずか)センパイがやっつけたハズだから、ですね」


「……うん。それに、クローリヒトが口にした『鏡』――〈宝鏡〉のこともあったしね。

 あの鏡なら、マガトに似た気配を備えていても不思議じゃないから。

 でも……さっきのアガトンの声。語り。

 そして、放たれる瘴気を初めとする気配。

 それは間違いなく、あの魔神マガトダイモンのそれだったんだ――」


「姿は違っていた、ということですか?」


 網野(あみの)くんの問いに、わたしが思い浮かべるのは、スーツ姿の紳士とは似ても似つかぬものだ。


「わたしが戦ったマガトは、それこそ鬼とか悪魔とか、そんな感じの姿だったからね。

 もっと大柄だったし……人型ではあっても、人じゃなかったんだよ」


「つまり――。

 結果として、穏香センパイに完全には滅ぼされていなかったマガトダイモン、そのチカラが――どちらが主体かは分かりませんけど、今はアガトンに宿っているのか。

 それとも――。

 そもそもアガトンこそがマガトダイモンで、どういう方法でか穏香センパイを騙して生き延び、同じくこちらの世界に渡ってきていたか――ってわけですね」


 わたしの答えを聞いていたルコちゃんが、MP5(サブマシンガン)の銃身を指でコツコツ叩きつつ考えをまとめる。


「……そういうことだね。

 まったく――そりゃあ、わたしが〈勇者〉のチカラを持ったままだったわけだよ。

 倒すべき宿敵を、本当は倒せていなかった――。

 〈勇者〉として託された願いを、ちゃんと果たせてなかったんだから……!」


 思わず、拳を固く握り締めながら――天井を、ここからさらに上層を見上げる。


 ……きっと、ヤツはそこにいる。分かる。

 そちらにチカラが集まり出している、その感覚があるから……!


「それで、穏香センパイ。

 アイツが具体的に何をしようとしてるのか、分かりますか?」


「すべて、とは言えないけど……大体はね。

 マガトのあの言葉、そして、世界を繋ぐチカラを秘めた〈宝鏡〉の存在から考えれば――。

 異世界〈麗原ノ慧殿(ウララガハラノエデン)〉とこの世界との間に、『門』を開こうとしてるのは間違いないと思う。

 そうなったら、邪悪とは言え神の一柱だった存在だからね――かつて影響力のあった、膨大なチカラを呼び込むことも出来るはずだよ。

 それこそ、どちらの世界にも影響を及ぼせるほどの、ね……!」


「……なるほど、いちテロリストの暴走どころか、マジに世界の危機、ってわけですね……。

 となればやっぱり――タンパク!」


 ルコちゃんが、鋭い視線と言葉を向ける先――には、普段使ってるものとは違う、別のスマホっぽいのを操作する網野くんが。

 けれど――彼はすぐさま、首を横に振る。


「だから、タンパク言うなと言ってるだろうが薫子(かおるこ)

 もう既にやってる――が」


「……繋がらない?」


「ああ。通常回線はもちろん、非常用、緊急用、どれもダメだ」


「くっそ……一手遅かったか……!」


 何やら悔しがる2人に何事かと尋ねようとすると、それを察したルコちゃんが、先んじて教えてくれた。


「……さすがにこんな事態、見習い忍者のアタシたちには手に負えそうもないですからね。

 いざってときのための緊急回線使って、救援要請しようとしたんですが……」


「――ダメだった、ってことか。

 でも……大丈夫だよ、心配しないで。わたしがいる。

 わたしが〈勇者〉として、アイツを討ち祓って、この事態を止めてみせるから。

 そう――。

 どんな形であれ、アイツを討ちもらし、こっちの世界へ導いてしまったのは、わたしの責任なんだから」


 わたしは、握った拳で、自らの胸当てをトンと叩いて笑顔を見せる。


「だから、ここから先、マガトのもとへはわたし1人で行くよ。

 ルコちゃん、網野くん。あなたたちは引き返して、ユーリとヒカリちゃんと合流して。

 ……本当は、あなたたちのことも守ってあげたいんだけど……この事態を終息させるには、一直線にマガトを倒すのが一番の早道のはずだから」


 ……脳裏を過ぎるのは、瘴気(しょうき)の影響で倒れた人たちの姿だ。


 異世界と繋がる門を開くなんて、すぐにどうにか出来ることじゃない。

 そして、規模が大き過ぎて、こっそりと進められるようなものでもない。


 つまり、あの人たちの命を供物にするにしても、そのための儀式は今始まったばかりなんだから、まだ、多少の時間的猶予はある。

 ただ、すべての倒れてる人たちの所を巡って、守護の結界を張って儀式の影響を断ち、安全を確保する――そこまでする余裕は、さすがにない。


 なら――1人の犠牲も出さずにすませる、最適解は。

 最短距離での一点突破、速攻でマガトを倒す! それしかない!


 わたしの提案に、ルコちゃんたちは何か言いたげではあったけど……。

 お互いに目を合わせてうなずいた後、理解を示してくれた。


「出来るなら、このまま最後まで穏香センパイと一緒に戦いたかったですけど……さすがに足を引っ張りかねないですしね。

 ……それこそ、2度目が許されない失敗なんてゴメンですから」


「無念です先輩。オレにもっと筋肉以外があれば……!」


「ありがとう、2人とも。

 それじゃあ、わたしから、これを――」


 そう告げながら、わたしは2人に近寄り――その額に手をかざして、チカラを集中する。

 ややあって、わたしの手の平からふわりと綿毛のようにこぼれ出た光が、2人の身体に吸い込まれていった。


「穏香センパイ、今のは――って、あ!

 なんか、身体が軽くなった感じ!」


「これは、まさか……ッ!

 ついにオレの、真の筋肉以外が覚醒したのでは――!」


「……なんだ、真の筋肉以外って……。

 そんなんじゃなくって、わたしの〈勇者〉の加護をほんのちょっと、一時的に分け与えただけだよ。

 正直、身体能力の向上は微々たるものだと思うけど……これで、少なくとも瘴気の影響は完全に防げるから」


 説明とともにわたしは、額にかざしていた手で、2人の肩をぽんと叩いた。


「今、わたしがあなたたちにしてあげられることなんて、これぐらいだけど……。

 どうか、ユーリとヒカリちゃんのこと、お願い」


「はい、もっちろんです!

 ……このクエスト、きっちり成功させますから!」


「ええ、我が筋肉以外に換えましても――!」


 2人は大ゲサにわたしに敬礼してみせると、ラウンジの出入り口の方へ移動する。


「あなたたちも、くれぐれもムリはしちゃダメだからね!

 みんな揃って無事に帰るまでがクエストだよ!」


「はい、穏香センパイも!

 調子ぶっこいてやがったアイツ、ソッコーでボコボコにしてやって下さいね!」


「当然! 任せて!」


 離れた場所から、お互い、拳を打ち合わせるように一度突き出すと――。

 ルコちゃんたちは、抜け目なく出入り口の外の様子を確認してから、素早くラウンジを後にしていった。


「――さて……」


 そして、後輩たちを見送ったわたしは。

 外に面した、ガラス張りの一面に近付くと――ごめんなさいと、誰にともなく心の中で謝ってから、その一画を拳でブチ破り……。


 明らかに普通の夜風とは違う、生温いような不快な空気が流れ込む中、破ったガラスから半身を乗りだし、上層を見上げた。


 この禍々しい結界の中、ことさらに穢れた気が渦を巻いて集っているのは――やはり、屋上。


「わたしを挑発してるんでしょう? マガト……!

 いいわ、すぐにそこまで行って――今度こそ、完全に討ち祓ってあげるから……!」


 決意とともに、床を蹴ってすぐ上階の窓枠に飛び移ると。

 そのまま、同じ要領で、窓枠を足場に――わたしは、ビルの外面を駆け上がっていく。


 元凶まで、最短距離で一直線に。

 少しでも早く、この事態を終息するために。



 ……誰一人見捨てることなく、絶対に守り抜く――。

 それは、〈勇者〉だからとか関係なく、わたし自身の想いなんだから――!





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― 新着の感想 ―
[一言] >我が筋肉以外に換えましても このセリフ好きすぎます!(≧▽≦)
[一言] アガトンが本体で、マガトダイモンが分身説(迫真)。
[一言] マガトダイモン退治から始まる、クローリヒトへの恋……そして失恋……(勝手な予想)
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