第21話 さらに勇者たち生徒会の面々の、ファミレス極秘会談
「え、えーと……コホン」
どこまでいってもお嬢サマ扱いからは逃れられないのか――と、つい荒ぶってしまったことを、いかにもな咳払いで誤魔化しつつ……わたしは居住まいを正した。
さて――今度はわたしの番だ。
「これがまた、信じられないような話だとは思うけど……。
わたし実は、異世界帰りの――いわゆる〈勇者〉ってやつなんだよね」
……言ってて、何か自分で恥ずかしくなる。
改めて声に出すと、とんでもない厨二発言だもんなあ……。
まさかドン引きとかされてないかな――と思いきや。
ルコちゃんも網野くんも、「おお〜……!」と素直に感じ入った風で、目を輝かせてうなずいてくれていた。
「……え、いきなり信じてくれるの?」
「いやあ、だって、実際に『変身』した姿見ちゃってますし!
スゴかったですよ! カッコもそうだけど、髪も瞳も色が変わっちゃってて……その姿だけ見たなら、センパイかどうか分からないぐらいでしたし!」
「ああ、それは……ヘタに正体がバレないように、言うなれば、ちょっとした『認識阻害』の魔法がかかってるというか。
ぶっちゃけて言えば、魔法少女とかが顔隠してなくても正体バレないようなモノ――ってトコかな」
「おおお……まさにホンモノって感じですね!
一応は、『超絶お嬢サマが、巨額の研究費を投じて秘密裡に開発させた変身アイテムを使って、自家製魔法少女をやっている』――って可能性も考えてたんですケド」
……いや、そもそもそれって魔法少女じゃないんじゃない?
てか、さすがにそんなの、今の科学力じゃ作れないんじゃない?
なんてツッコミが喉まで出かかったものの……。
そもそも勇者や忍者が実在する世の中だからなあ……もしかしたらと、ついつい言葉を呑み込んでしまった。
「いかにも〈勇者〉な、とんでもないチカラも見せてもらいましたしね!
それに――。
実は、アタシたち忍者はウラの情報網で、『異世界』についてはある程度認識してるんですよ。
直接関わったことはほとんど無くても、詳しい情報は残ってなくても――そういうモノが存在するんだ、ってぐらいは。
神話や伝説で語られる怪物なんかも、一部は、異世界から流れてきた向こうの生物じゃないか、って言われてますし。
そんな下敷きがあるから、なおのこと素直に信じられた――ってトコもあるんです」
「そ、そうなんだ……」
ルコちゃんの発言に、むしろ驚いたのはわたしの方だった。
異世界なんて、こっちの世界じゃ完全にイレギュラーなものだと思ってたけど……。
……でも、そっか。
それこそ地球の歴史って長い目で見たら、異世界と関わった人間はわたしより前にもいた――って方が、ありえる話だもんね。
わたしだってまだ高校生だし、当たり前って言えば当たり前なんだけど……こっちの世界もホント、知らないことだらけってわけだなあ。
「それにしても――会長は全然驚いてないですね。
もしかして、穏香先輩のこと、知ってたんですか?」
半分以上溶けかかったイワシアイスを、もう食べたくないとばかりに(本人は無自覚かもだけど)スプーンで突っつきながら、意外と鋭い質問を投げかける網野くん。
「わわ、我が邪神は、全知全能だからな……!
とと、当然、この宇宙が始まったときより、しし知っているのだ……!」
対してヒカリちゃんは、フフンと鼻を鳴らして、ダゴンちゃまリュックとともにふんぞり返る。
「そうなんだよ。ヒカリちゃんにはね〜……ちょうど、向こうの世界から帰ってきたその場で遭遇しちゃってさ、説明するしかなかったんだ。
でもさすが我らが邪神ちゃま、わたしの話をあっさりと信じてくれちゃって……ホント助かったんだよ」
得意気なヒカリちゃんの小さな頭を、ぽむっと撫でるわたし。
「……まあ、そりゃそーですよ。
だって会長、穏香センパイのこと大好きですもん。ね?」
「そそそ、そんなアレなアレではないのだだだ……!
おお、お見通しだったからな! ちょ、超・全知全能だからな……っ!」
「ん。ありがとヒカリちゃん。
……ホントに感謝してるんだよ?」
ちょっとクセ強な、でも触ればサラサラのヒカリちゃんの長い髪をそのまま梳くように撫で続ければ――いつもみたく「ううう〜」と恨みがましいような困ったような、はにかみの呻きが返ってきた。
「――さて、ちょっと話が逸れちゃったけど。
わたしのこと、もう少し詳しく説明するとね――」
改めてそう前置きしてから、わたしは――。
異世界〈麗原ノ慧殿〉で魔神〈禍屠大門〉を倒した勇者、カノンとしての自分のことを後輩たちに説明した。
同時に、ヒカリちゃんの専属執事ってことになってるユーリが、実際はわたしに付いてくる形になった異世界の天使であること、そして――。
わたしが今は、フツーの女子高生に戻るため、ゲーム的に喩えればレベル上げ過ぎのオーバーフローを狙って、経験値を稼いでる最中だってことも。
「……でも、今日みたいな事件があるとなあ……。
さすがに、コレがキレイに片付くまでは〈勇者〉を廃業するわけにも――って思っちゃうんだよねえ」
タメ息とともに、わたしはカラになったカップを指で軽く弾いた。
「穏香先輩は、今日の事件のこと、何かご存じなんですか?」
「ご存じ、というか……う〜ん……」
網野くんの問いに、わたしは今一度頭の中を整理しながら……ひとまず、確かなことを掻い摘まんで話していく。
火事の煙のようなアレが、瘴気といういわば魔性の空気のようなモノだということ。
あの黒い影のようなモノが、〈禍依軍〉と呼ばれる、何者かの邪悪な意志の影響を受けた、〈負〉のチカラのカタマリみたいな存在だということ。
数日前に戦った、わたしと同じく異世界の〈勇者〉だと主張する、クローリヒトという謎の黒ずくめの剣士と遭遇したこと。
そして――それらの内に。
わたしが異世界で倒した、魔神マガトダイモンのそれに似た『気配』が感じられたことを。
「まあ、あの影みたいなバケモノが出て来た時点で、普通のテロやら放火やらでないのは明らかでしたケド……なるほどなるほど」
「ただ、ハッキリしないことも多いんだよねえ……。
今話したクローリヒトが、今日の騒動の主犯だと思ってたんだけど――コイツがまた、何だか今日は前とはまるで雰囲気違ってて、犯人じゃないような感じもしたしなあ……。
そもそも、誰が本当の犯人にしろ――何か悪いことを企んでるのは間違いないにしても、それが実際何なのか、肝心なところが分からないし……」
また改めてユーリと情報交換でもしたら、見えてくることもあるかもだけど……。
今は何ともなあ――って唸ってたら。
ルコちゃんが、「それなら」って、景気よくパンと手を打った。
「おい薫子、まさかお前――」
「そのまさかだよ。だって、お互い得るものがあるんだから。
――というわけで、穏香センパイ。アタシたち、改めて協力しませんか?」
強気な表情で網野くんにうなずくと――ルコちゃんは、わたしに真っ直ぐな視線を向ける。
「……協力?」
「はい。忍者としてのアタシたちは、いわば穏香センパイ専属の情報屋として、そっち方面で協力します。
代わりに――穏香センパイも、アタシたちの『目的』に、〈勇者〉としてのそのチカラを貸して下さい。
……それこそ、一種のクエストとして、きっといい経験値にもなるハズですし――センパイにとっても悪い話じゃないと思いませんか?」
「…………。
確かに悪い話じゃなさそうだし、それでなくてもあなたたちは大事な後輩なんだから、わたしの手伝いはさておき、出来る限り力にはなってあげたいけど――その『目的』にもよるよ?
〈勇者〉なんて言ったって、万能じゃないんだし」
「あ、それは大丈夫ですよ!
むしろ、いかにも世界の平和を守る〈勇者〉向きの話ですから」
わたしの返しに、もう一度網野くんと目で確認し合ってから――ルコちゃんは。
「ちょうど今日、フードコートで一度話題に上がりましたけど――」
真剣な表情で、その『目的』を口にした。
「最近、この広隅で姿が確認された、テロリスト〈アガトン〉を確保すること。
――それが、アタシたちの目的なんです」