第20話 勇者たち生徒会の面々の、ファミレス秘密談義
――ショッピングモールでの騒動の後……。
先に逃げていたヒカリちゃんたちと無事合流すると、わたしたち尾矢隅高校生徒会の面々は、「ひとまず落ち着いて話をしよう」ってことになって。
色んな事後処理でまだまだ騒がしい現場をさっさと離れ――近くの明治時代風ファミレス〈ガス灯〉へとやって来たのだった。
「ううう〜……きき、季節のパフェ、どれもウマそうなのだだだ……!」
隣で、文字通り、食い入るように季節限定デザートメニューとにらめっこしてるヒカリちゃんから、わたしはひょいとメニューを取り上げる。
「やーめーとーきーなーさーい。
こんな時間にパフェなんて食べたら、晩ごはん入らなくなって、おじさんやおばさんに怒られるよ?
……だいたい、お小遣い、そこまで余裕ないんじゃないの?」
ヒカリちゃんちはお金持ちだけど、摩天楼家の家訓とやらで、月々のお小遣いはわたしたち庶民と同レベルしかもらえないらしい。
なので、〈D.ぷわん〉としての動画配信もお金に繋がらないようにしているこの子は、わたし同様、結構お小遣いはカツカツなのだ。
「ううう〜……!
でででも、つつ、疲れたときには、す、スイーツに限ると、きき紀元前より邪神の教義にも記されているのだだ……!」
「いや、どんだけ悠久の年月スイーツ推し続けてるのよ邪神……。
てか、ドリンクバーは頼むんだから、ダダ甘いイチゴバニラオレでも飲みまくってガマンしときなさいって……お腹壊さない程度に」
……この、わたしのヒカリちゃんへのド庶民発言を見かねたのか――。
結局は、その後のルコちゃんの提案により、季節限定品の桃のパンケーキを1つだけ頼んで、それを女子3人で分け合うことになったのだった。
ちなみに、唯一の男子の網野くんは……。
何の因果か、限定コラボだとかでここでもメニューに存在した、あの〈イワシアイス〉をもう一度頼んでいて――。
「…………。
ねえ網野くん、それ――」
「はい、もちろんやっぱりマズいです!
――が、消費した筋肉以外の成分はしっかりと補充しておかねば……!」
「あ、そう……」
……どう考えても、普通に今日も『筋肉=体力』しか消費してないと思うんだけど。
あ、それとも、網野くんが使ってた、あの折りたたみ傘の仕込み刀が、実はなんか魔力的なものを消費する魔剣だったりするのかなあ――。
そんな風に考えて、ルコちゃんをチラリと見るけど――。
わたしの思考を読んで否定しているのか、ただ単に網野くんへの一種の諦観か……タメ息混じりに首を横に振るだけだった。
……まあ、あんなことがあった後でもいつも通りの知ってる姿だっていうのは、ある意味安心するけど。
「そそ、そう言えばズカ……。
ず、ズカの友達は、だだ、大丈夫だったのか……?」
取り分のパンケーキを、大事そうにちょっとずつあむあむと食べながらのヒカリちゃんのそんな質問に、わたしはアップルティーを啜りながらうなずく。
「うん、大丈夫だよ。
――て言うかぶっちゃけあの2人、心配する必要なかったかもね」
一緒に逃げるときに見た、ちぃちゃんと赤宮くんのトンデモなスペックを思い出して、つい苦笑するわたし。
……これであの2人まで普通の高校生じゃなかったら、もうネタだよってレベルだったもんね。
「……にしても、ヒカリちゃん、気にしてくれてたんだ?」
「そそ、そーゆー、アレなアレではないのだ……!
た、ただ……え、えと。
とと、友達の友達は、友達、だし……」
恥ずかしそうに、でもそんなんじゃないとばかりに口を尖らせつつ――胸に抱いたダゴンちゃまリュックにアゴを乗っけるヒカリちゃん。
……まったくもう、そういうトコがまたカワイイんだよなあ。
「うん、そだね。
――ありがとね、ヒカリちゃん」
思わず、そんなヒカリちゃんの頭をナデナデしてしまうわたし。
ヒカリちゃんは、「うう〜!」と不満げに呻きながらも、されるがままになってくれた。
……ちなみに、クローリヒトとの戦いのすぐ後、ヒカリちゃんたちもわたしも無事だったことをちぃちゃんにメッセージで送ったんだけど……。
そのときの返信によると、しずくちゃんもちゃんとママと会えたそうだ。
騒ぎを知ったしずくちゃんのママは、すぐにモールまで来たみたいで……人は多かったけど、運良くすぐに再会出来たらしい。
うん――ホント、良かった。
結局、こっちの騒ぎもあって、ちぃちゃんたちとはあのまま別れた形だけど……まあそっちは、こうして連絡先も交換したし、また今度ゆっくり会えばいい。
――てか、今後、〈勇者〉やめたわたしの恋愛の参考にするためにも、改めてじっくりと、赤宮くんとの馴れ初めやら何やらを聞かせてもらわなきゃだからね……!
……っと、それはそれとして――だ。
「さて……それじゃそろそろ、本題に入ろっか。
わたしたちが、お互い、本当は何者なのか――って」
みんな一息ついたのを見計らって、わたしがそう話を向けると――。
さすがに、場の空気はちょっと引き締まった。
少し様子を見て、もしルコちゃんたちが躊躇うようなら、まずはわたしから――とも思ったんだけど。
ルコちゃんは、網野くんと一瞬視線を交わした後、「はい!」と元気に手を挙げた。
そして――
「……じゃ、まずはアタシたちから。
えー、このことは、センパイたちだけの秘密にしてほしいんですけど……。
アタシとタンパクは、まあいわゆるその、〈忍者〉――ってやつでして」
「前に『見習い』が付きますが」
そんな、ルコちゃんたちのカミングアウト。
もしもあの場で、実際に戦う2人を見てなかったら、そりゃもう「えええ〜!?」だったと思うけど……。
先に、普通じゃないってところをこの目で確かめてるわけだから、何か思ってた以上に納得出来てしまっていた。
……まあ、そもそも『非日常レベル』で言えば、悲しいことにわたしの正体の方が上だから――ってのもあるかもだけど。
そして、わたしの『異世界帰りの〈勇者〉』を速攻で信じたヒカリちゃんは、それこそ『忍者ぐらいいて当たり前』と言わんばかりに普通に受け止めていた。
……しっかし、〈忍者〉ときたか〜……。
「ちなみにですね、現代の〈忍者〉が何をしているのか、説明しときますと――」
カミングアウトは受け止めたけど、『で、忍者って?』みたいな疑問をわたしたちが抱くことは想定済みだったんだろう。
先んじて、ルコちゃんが解説してくれた。
それによると――現代の〈忍者〉は、装備や道具こそわたしたちも見たように、銃やら閃光手榴弾やらみたいに近代化されている面はあるものの、根本的な役割としては昔とそこまで変わっていないらしい。
――つまりは、『情報収集』。
依頼を受けて、情報を集めたり、分析したりするのが、その主なお仕事だという。
……決して、バケモノを退治したり、要人を暗殺したりするようなものではないそうだ。
ふむ……なるほどね。
ルコちゃんが、物知りってだけでなく、テロリストのこと知ってたり、日本の防諜がどうのこうの――なんて、ちょっと女子高生っぽくないことも言ってたのはそういうワケか。
つまりは、網野くんがやたら筋肉以外にこだわるのも、あるいはそんな〈忍者〉としての役割に即した面が――。
面、が……。
「? どうしました、穏香先輩?
あ、もしかして先輩も、イワシアイスで筋肉以外を――!?」
「違います」
……うん、無いな。無い。
「まあ、〈忍者〉の中にも、報酬次第で殺人に手を染めるような悪党も、いないとは言えませんけどね。
少なくともアタシたちは――アタシたちの家が所属する一派は、そういうんじゃないです。ご覧の通り武器は持ってますけど、護身用なので、殺傷力は抑えてありますし。
……あんまり突っ込んだところまではさすがに話せませんけど、取り敢えずうちの一派の〈忍者〉は、主にこの国を陰から支える仕事をしてる――ってぐらいに思ってもらえれば」
「ただ、先に言いましたようにオレたちはまだ『見習い』なので。
単独で依頼を受けたりは出来ないんで、上から通達される〈仕事〉の手伝いなんかをしつつ、経験を積んでる最中……ってところですね」
「……そっか……」
わたしは、ぬるくなったアップルティーを口に含みつつ、一度深くうなずいた。
……ふ〜む……。
「――ん? てことはさ、ルコちゃん?
あなたたちが、見習いとは言え、情報収集のエキスパートの〈忍者〉なら――知ってたってことだよね?
わたしが、マジのお嬢サマなんかじゃなく、ただのド庶民だってコト」
「「 ……………… 」」
冗談混じりに絡むわたしの発言に、ルコちゃんたちは真剣な顔で一度目を合わせたと思うと――
「え……? アタシたちの情報網ですら探れないぐらい、カンペキに経歴を隠せるほどの権力をもった、ドが5つぐらいつく超お嬢サマ――ってことじゃないんですか?」
大マジメに、そんなことを宣ってくれちゃって。
「ンなわけあるかーー!! どーーしてそうなる!!」
思わずわたしは、持っていたカップを、割りそうな勢いでテーブルに叩き付けてしまったのだった。