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勇者をやめるには勇者をやるしかない!?  作者: 八刀皿 日音
2章 勇者だから引き寄せるのか、引き寄せるから勇者なのか
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第17話 勇者も後輩も、もう驚くしかない


「ルコちゃん、網野(あみの)くん、それ……」


 わたしはあ然としながら、ルコちゃんたちが手にする小型ハンドガンと短刀をそれぞれ指差す。


 どっちも、良く出来たオモチャとかじゃない。

 完全にガチな、銃刀法違反まっしぐらのブツだ。


 加えて、さっきの缶コーヒーに擬装した閃光手榴弾(スタングレネード)といい、やたらと手慣れた武器の扱い方といい……誰かが持ち込んだモノをたまたま拾いました、なハズがない。


 つまり、この2人――驚くべきことに、どうやら『ただの高校生』ってわけじゃないらしい。

 ……わたしが言うのも何だけど。


「あ〜……コレですか?

 火薬で鉛の弾を撃ち出すだけのオモチャですよ!」


 わたしの問いに、いつもの調子で明るく笑って答えるルコちゃん。

 ……が、さすがにこんな状況下だからか、表情はちょっと硬い。


「いや、そんな『引き金を引くだけの簡単なお仕事です!』みたいに言われても」


「えーと、じゃあ、S&WのM3914レディ・スミス――」

「もちろん、銃の名前聞いてるんでもないから」

「ですよね〜……っと!」


 苦笑しながら、ルコちゃんは振り返りざま――もう一度さっきのマガイクサに銃弾を撃ち込み、その動きを抑える。

 そして、手袋をした左手で、拳銃から吐き出されて転がった空薬莢(からやっきょう)を拾い、ポーチのポケットに放り込んだ。


「センパイ、アタシたちのことが気になるのは分かりますけど……状況が状況ですし、コイツらから逃げるのを優先しませんか?

 アタシたちは誓って、センパイ方の敵じゃありませんから――信じて下さい。

 ゼッタイに、お二人を無事に脱出させますので!」


「お願いします先輩――オレも、筋肉以外で何とかしてみせますから!」


「それじゃ余計に不安を煽るっての! 素直に筋肉活用しろ脳筋!」


 いつものようなやり取りをする2人に、わたしは思わず毒気を抜かれた気分になる。


「……この子たちのこと、ヒカリちゃんは知ってたの?」


「しし、知るわけないのだ……!」


 わたしの腕の中で、ダゴンちゃまリュックを抱えたままブンブン首を振るヒカリちゃん。


「ささ、さっき、あの黒いのからわちしを助けるのに、いい、いきなりこんなガチ武器出して……!

 だ、だからさっきズカに、ここ、このこと、伝えようとしたのに……!」


 恨みがましく、上目遣いでこちらを見てくるヒカリちゃん。

 ……ああ、さっきの電話、それ話す前にこっちから切っちゃったもんね。


「あ、あ〜……ゴメン。

 何かあったんだ、とは思ったけど、まさかこーゆーことだなんて予想だにしなくて」


 わたしは苦笑混じりに、ヒカリちゃんの頭を撫でる。


「それに――それを聞いてても、わたしのやることは変わらなかったよ。

 大事な友達と後輩たちを放っておくなんて、出来るわけないから」


「これ言うの2度目ですけど、ホンっト、ムチャしますよね……。

 まあ、それがいかにも穏香(しずか)センパイ、ですけど。

 ――とにかく、アタシたちが道を開きますから、センパイたちは指示に従って付いてきて下さいね」


 さっきまでとは一転して真面目な顔でそう告げたルコちゃんは、素早く、銃を構えて商品棚の陰から周囲を窺う。

 そして、その反対側の棚には、短刀を手に網野くんが控える。


「……薫子(かおるこ)、装備の残りは?」


弾倉(マグ)1に閃光手榴弾(フラバン)1に棒手裏剣ボーシュ苦無(クナイ)が2。

 これ以上の接敵はカンベン、だけど――」


「包囲している敵が、バケモノのくせに軍隊めいた統率だからな……。

 先輩方を引き連れての隠密行動は厳しいか」


「もう多少ハデにやっちゃったしね。

 フラバンが効くみたいだし、ある程度は強行突破が一番だね――アタシたちで攪乱しつつの」


「いよいよ筋肉以外の出番だな」


「いやだから、むしろその筋肉の鎧で盾になれっての」


 ……ルコちゃんたちは、ホントに、何とかしてわたしたちを逃がそうとしてくれてるみたいだ。

 もうすでに、マガイクサ相手にはただの銃や刀じゃ有効打にならないって分かってるのに――不利だって分かってるのに、それでも。


「ず、ズカぁ……」


「うん――分かってるよ。

 言ったでしょ? あなたたちを放っておけるわけない、って」


 その目で強く請い願うヒカリちゃんに、笑顔で一つうなずき――わたしは立ち上がる。

 そしてそのまま、周囲の様子を窺っていたルコちゃんたちの間を抜け、一歩前へ。


「!? ちょ、センパイ――ッ!」


 慌ててわたしを制止しようとするルコちゃんたちだけど――。

 それよりも早く、待っていたとばかりに、正面の物陰からライフルを構えたマガイクサが飛び出してくる。


 そして次の瞬間、雷鳴のごとく銃声が弾け――。

 闇のカラダが千々にちぎれ飛び、そのまま光の粒子と化して消滅したのは当然、マガイクサの方だ。


 ――わたしの左手の中に実体化した、勇者仕様ショットガン〈聖契ノ鉄(テスタメント)〉によって。


「ルコちゃん、網野くん――2人とも、下がってて」


 きっと呆然としてるだろう1年生2人に言い置いて、わたしはさらに足を踏み出す。

 それを狙っていたのか、今度は左右から同時に襲い来るマガイクサ。


「モロバレだっての」


 対するわたしは、まず左側のヤツを撃ち抜き――その射撃の反動でヒジを逆に返すや否や、右側のヤツも射殺ならぬ射祓(しゃふつ)

 そして続けざま、今度は銃口を天井に向けて引き金を引けば――。


 天井からつり下がっていたオブジェに身を隠し、こちらを狙っていたヤツも落ちてきて、そのまま消滅した。


「まったく……。

 わたしの〈勇者〉廃業のジャマしてるんだか、廃業のための経験値になりに来てるんだか……!」


 思わずこぼれ出た思いとともに――わたしは胸ポケットから抜いた〈姫神咲(ヒメカンザシ)〉を、己の中の〈チカラ〉に集中しながら髪に挿す。

 解き放たれたチカラは、光となってカラダを包み――。


 わたしを、白銀の軽鎧に桜色の振り袖を纏う〈天咲香穏姫神(アマサカノオンヒメカミ)〉――勇者カノンへと転じる。


 同時に、右手に剛剣〈聖散ノ桜(サクラメント)〉も実体化させると、内から湧き出るチカラを注ぎながら頭上で一回転――そして。


「せいッ――!!」


 刀身を、大地を割る勢いで床に叩き付けた。

 激しく飛び散る火花とともに、爆風のような勢いで放たれたチカラが周囲を吹き荒れる!


 だけど――それらは、床にも、居並ぶ商品棚にも、商品そのものにもまったく何の影響も与えず――。

 ただ、一帯の瘴気だけを吹き飛ばした。


 それは、瘴気の中だからこそ存在を確立出来ていたマガイクサたちにとっては逆に、ダメージゾーンに引っ張り出されたようなもので――。

 瘴気が晴れたがゆえに、またはっきりと見えるようにもなった彼らは揃って、悶えたりうずくまったりしていた。


「よし、今だよみんな!

 ――ルコちゃん、お店出てすぐの非常口まで先導!

 網野くんはヒカリちゃんを背負ってそれに続いて!

 いい? モールの外に出れば大丈夫だから!」


 わたしが鋭く指示を飛ばすと――さっきまでのやり取りから推測した通り、ルコちゃんと網野くんはわたしのことに驚いてはいたものの、一瞬で気を取り直して指示通りの行動に入ってくれた。


「穏香センパイはっ!?」

「わたしは殿(しんがり)

 何があってもカバーするし、わたし自身も大丈夫だから、気にせず行って!」


 答えながら、まだ動けそうなマガイクサをサクラメントで一刀両断すれば、ルコちゃんも即座に納得してくれたらしく――。

 「また後で!」の一言とともに、ヒカリちゃんをおぶった網野くんと素早く店を駆け出していった。


 わたしはそれを目と気配で追いつつ、店内の残るマガイクサを数秒のうちに完全に祓い切り――祈りもそこそこに散弾銃(テスタメント)剛剣(サクラメント)に収納しながら、すぐさま、みんなの後に続こうと通路に飛び出す。


 と、そこで――。


「――――!?」


 非常口とは逆側の、通路の先。

 さっきの一撃で吹き飛ばしきれなかった、店外の濃い瘴気の煙る先に――わたしは、人影を見た。

 わたしの方を見ていて――そして、嘲笑(あざわら)っていると感じる、人影を。


 反射的に脳裏に浮かぶのは、それが、この騒動を引き起こした者――この瘴気を振りまいた大元だという、確信めいた予想。


 そんな人影が、遠ざかるように瘴気の向こうに消えていき――。


「!? 待ちなさいっ!!」


 すぐさまその後を追い、未だ濃度を保つ瘴気を抜けて進めば。


「――っ!!」


 ちぃちゃんたちと逃げたのとは真逆側のこっち、同じような広さのある、確か第2イベントエリアって空間――瘴気に取り巻かれたその中には。


 蒼く輝く長剣を携えた、あの黒い剣士――クローリヒトがいた……!





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― 新着の感想 ―
[一言] よく考えたら穏香御前はクローリヒトと違って覆面をしてないので、正体が一方的にバレちゃうんですね。
[一言] そーいや、お役所に、こういうことに対処するっぽい部署ありましたねー。 どこかの親父殿の同僚だったりして。笑
[一言] ルコちゃんと網野くんに全てもってかれた…… 今度から網野くんはタンパクではなくアミノ酸って呼ぶね!(謎の決意) 最後のクローリヒトが「ああうん」みたいになる4勇読者の悲哀を感じずにはいられ…
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