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勇者をやめるには勇者をやるしかない!?  作者: 八刀皿 日音
2章 勇者だから引き寄せるのか、引き寄せるから勇者なのか
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第13話 勇者はまさしく、そんな恋に憧れている


 パパが京都府警に異動になったのに合わせて、わたしたち一家が関西に引っ越したのは、小学校5年生のときだった。

 結局、パパが捜査方針とかで上の人と衝突して、すぐに追い出されるような形になっちゃったから、関西には実質1年もいなかったんだけど……。


 その短い時間で、一番仲良くなった友達が彼女、鈴守(すずもり)千紗(ちさ)――ちぃちゃんだった。


 そんなちぃちゃんは今、家業の都合だとかで関西の実家を離れて、おばあちゃんの家に住みながら、こっちの高校に通ってるんだそうで――。



「……でもホント、広隅(ひろすみ)でちぃちゃんと会えるなんて、夢にも思わなかったよー」


「ウチも。しーちゃんが関東に戻ったんは知ってたけど、まさかそれが広隅市やなんて思わへんかったもん……!」


 一度は出ようとしたフードコートで、わたしは今度はちぃちゃんと2人、テーブルを挟んでいる。


 ちなみに、お互いの連れ合いは――。

 わたしたちが久しぶりに再会した旧友だと知ると「せっかく会えたんだから」と気を遣って、わたしたちをここに残し、それぞれ用事をこなしに行ってしまった。


 うちの1年生とヒカリちゃんにも、買い出しを押し付けちゃって悪いとか、気を遣ってもらってありがたいとか、そういう想いはもちろんあるけど……。

 やっぱり、特に気にしちゃうのは――。


「にしても、なんか……ゴメンね、ちぃちゃん。

 彼氏クンにも悪いことしちゃったなあ……」


 そう、ちぃちゃんたちのデートをジャマするみたいになっちゃったことだ。


「ううん、それ言うならウチこそ……!

 うん、やから――お互い、ゴメンはやめとこ?

 大丈夫。裕真(ゆうま)くん怒るどころか、ウチらが再会したん、ホンマに喜んでくれてたし」


 笑顔はもちろん、声も優しく、言葉も優しく……わたしの知る彼女そのままに、そんな風に言ってくれるちぃちゃん。

 だからわたしも、お礼の一言でそれに同意した。


 実際、「先に、母さんに頼まれた買い物をすませてくるから」と席を外した、ちぃちゃんの彼氏クン(赤宮(あかみや)裕真くんというらしい)は、イヤな顔一つせず……どころか、すごくやわらかな良い笑顔を見せてくれていた。

 わたしが感じた通りのナイスガイっぷりである。


「いやあ、それにしても……。

 まさか、ちぃちゃんに彼氏が出来てるとはね〜」


 ちぃちゃんって、どちらかと言えば内気で、友達と騒ぐよりは物静かに本を読んでる方が多いような、大人しめの子で。

 ヒカリちゃんみたいな人見知りじゃないけど、男子と積極的に話すようなタイプでもなかったから――ちょっと驚きもある。


 ただ、万事控えめであんまり目立つ方じゃないとはいえ、そもそも、見た目も性格もひたすらに可愛い子だからなあ……当然の帰結でもあるのかも知れないけど。


「うん……そうやね。

 ウチも、まさか男の子とお付き合いするやなんて思わへんかったもん」


 恥ずかしそうにそう言って微笑むちぃちゃんに、思わずわたしは悪ノリする。


「ハッ――まさか!

 ケンカでボコボコにして強引に彼氏にしちゃった、とか!?」


「し・て・ま・せ・ん」


 わざとらしいジト目で、わたしの悪ノリを切って捨てるちぃちゃん。

 ……そういう仕草もまた可愛いとか反則だなあ、ちくしょー。


「あっはっは、ごめんごめん。

 いやー、何かわたしってば、最近すっかりツッコミ役にされてるもんだから、ついね」


「もう〜……。

 でも、そういうとこ、ウチの知ってるしーちゃんのまんまやね。

 なんか、ホッとする」


 今も中学生みたいで、小学生の頃も身体が小さくて華奢、大人しい感じでいかにもか弱そうなちぃちゃんだけど――。

 実は運動神経抜群で、めちゃくちゃ腕っぷしが強かったりする。


 出会ったきっかけも、わたしがつい、おばあさんに絡んでる中学生の男の子を注意したら、キレられちゃって――。

 で、3人もいる年上の男の子に囲まれて、さすがにヤバいと思ったところで助けてくれたのが、たまたま通りがかったちぃちゃん――ってカタチだったんだ。

 いやあ、わたしより小さい女の子が、中学生を投げ飛ばしていくのは痛快だったなあ。

 『ドラゴンスクリュー』なんて、ナマで見たの初めてだったよ。



 そして――わたしが、今のわたしになる上で。

 そんなちぃちゃんの姿に感動して、影響を受けたからなのは間違いない。


 ただ、本当に感動したのは、その腕っぷしに――なんかじゃなくて。



 後から教えてくれたことだけど、ちぃちゃんはそのとき、すごく怖かったらしい。

 それはそうだろう。そもそも彼女は喜んでケンカするような気性じゃないし、相手は複数の、しかも中学生の男の子だ。

 いくら格闘技の心得があったって、5年生の女の子なら怖いに決まってる。


 だけど、ちぃちゃんは助けてくれたんだ――見ず知らずのわたしを。

 怖くても、勇気を振り絞って。


 もちろん、正しい選択とは言えないかも知れない。

 お互いの身の安全を考えれば、助けを呼びに行くべきだったのかも知れない。


 でも――わたしはその、心の強さに感動したんだ。

 パパが教えてくれていた、『誰かの為に』って勇気を、実践出来る人がいたことに――。



「……にしても、ちぃちゃんの彼氏――赤宮くん、だっけ。

 告白したのは、やっぱり向こうから?」


「え? う、うん……! よ、4ヶ月ぐらい前かな。

 う、ウチも、その前から好きやったんやけど……裕真くんから……」


「へぇ〜……そっかそっか。

 ふむ――ちぃちゃんを選ぶセンスに、あの人当たりに気遣い。

 そして、ほど良く鍛えてる風な身体と……何よりも、一言で表しづらい、良い意味で独特の空気感。

 ――やはり赤宮くん、結構いいオトコと見たね!」


「う、うん! そうやねん!

 ホンマに、ウチにはもったいないぐらいで!」


 おおう……目を輝かせながら全力で肯定されたよ。

 ああ〜、本気でうらやましいぜい……。


「あ、もったいないんなら、わたしが譲ってもらっていい?」


「あ・き・ま・せ・ん」


 ニッコリ笑いながら、わたしの冗談をバッサリ切って捨てるちぃちゃん。

 合わせて、わたしも笑っちゃう――けど。


「うああ〜……でもホント、いいなああ……!」


 すぐさまそのまま、テーブルに突っ伏す。


「わたしも、ステキな男の子とステキな恋がしたいよおおお……!」


 そして、ジタバタとダダっ子アクション。


 ……あああ、わたしもさっさと〈勇者〉なんて廃業して、こんな風に恋する乙女になりたいぃ〜……!


「しーちゃんは美人さんやし、ええ子やもん。

 すぐに良い人見つかる……よ?」


「何その間! そしてなんで半疑問形!

 くっそー、勝者の余裕ってやつか、このリア充めええ……!

 邪神ちゃまに呪われてしまえええ……!」


 ヒカリちゃんみたいなことを(のたま)いながら、ちぃちゃんに甘えて今しばらくダダっ子させてもらうわたし。


 と、そこへ――いきなり。



《……(あるじ)クン、聞こえるかい?

 気を付けてくれたまえ、少々厄介なことになりそうだよ――!》



 頭の中に、そんなユーリの真剣な声が届いて。


「――っ!?」


 反射的に椅子を蹴立てて立ち上がったところへ――さらに。

 どこからともなく、微かに悲鳴や怒号のようなものが響いてきたと思うと。


「――千紗! 聖桜院(せいおういん)さん!」


 ちぃちゃんの彼氏、赤宮くんが、息せき切って駆け込んできた。


「火事だって、騒ぎになってる。すぐに避難しよう!

 煙も見えたし――何より、パニックになった人波に巻き込まれると危険だ!」





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― 新着の感想 ―
[一言] そうか、二人が付き合い始めてからまだ4ヶ月しか経ってないのか……。 なんて濃い4ヶ月なんだ(迫真)。
[良い点] ばあちゃんに絡んだあげく小学生女子を蹴ろうとするとは、恥ずかしいだけでは済まないレベルの中坊ですが、鈴守さんも(行動自体は偉い)違った意味でどうかと思うんです(笑) [一言] 御前の何が足…
[一言] 廃業ますます遠ざかりましたね!(笑)
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