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勇者をやめるには勇者をやるしかない!?  作者: 八刀皿 日音
1章 やっぱり経験値稼ぎは勇者の日常なのか
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第10話 その戦いを制すは、桜の勇者か黒の剣士か


 ――地面を蹴ったのは、同時。


 ただし、互いの武器の間合いから、先手を打ったのはわたしだ。

 突進の勢いを乗せたまま、サクラメントを肘打ちで撃ち出しての一回転薙ぎを繰り出す。


 お互い距離を詰めながらだから、いきおい体感速度は跳ね上がって対処が難しくなり――。

 直撃すればカウンターで大ダメージ、防いだところで体勢は崩れる、これ以上無い一手。


 だけど、黒い剣士は――。


「――ッ!」


 棒高跳びの背面跳びみたいに、ギリギリでサクラメントを飛び越え――そのまま、わたしの懐に飛び込んできた。


 でも、わたしだってそれを考慮しなかったわけじゃない。

 ヘタな防御行動を取らず、むしろ全身の捻りを使ってサクラメントを加速させもう一回転、剣士の放つ斬り下ろしに強引にカチ合わせる!


 向こうの剣の蒼い光と、サクラメントの白い光が混じり、鬼火めいた火花となって空に散る――そのさなか。


「――ッ!?」


 受け止めたはずの斬り下ろしは、同時かと思う速さで斬り上げに変化していて――。

 サクラメントの巨大な刀身は、大きく跳ね上げられてしまう……!


 まさかの、上下同時の重ね斬り――いや違う、まだだ!


 ゼロコンマ1秒にも遙かに満たないその刹那。

 剣士が剣の持ち手を返すのに気付いたと同時に、わたしは(なり)振り構わずサクラメントを手放しながら後方にバク転。

 瞬間――わたしがもといた空間を、左右からの斬撃が斬り裂いた。


 上下どころじゃない、上下左右からのほぼ同時の重ね斬り……!?

 どんだけの達人よ、コイツ……!


「さぞかし、良い経験値になってくれるんでしょーね!」


 自らを奮い立たせるためにも軽口を叩きながらわたしは、素手のまま、敢えて自分から距離を詰め直す。

 そして、反応した剣士が牽制に放った薙ぎ払いを、姿勢を下げてかわしながら――その刀身に、はためかせた振り袖を巻き付けて引き込んだ。


 さすがに意表を突かれたんだろう、僅かながら前のめりに体勢を崩す剣士。


 わたしはそんな彼の方へ飛び込みつつ、背中合わせに転がって背後に回り――落ちてきたサクラメントを掴まえると同時に、カカト落としで加速させた斬撃を繰り出す!


 振り返りざまに防御でもしてくれれば御の字だったけど、向こうもそれが自分の不利になるぐらい瞬時に判断したらしい。

 距離を離すことを優先し――前方に飛び込んでサクラメントから逃れざま、地面に突いた片手で身体を捻り、改めて、こちらに向き直って着地する。


「……大した強さだな。これほどとは」


「なにそれ。

 乙女への褒め言葉としても、口説き文句としてもサイテーなんだけど?」


 言葉を交わしながらも、わたしたちの間の空気はゆるまない。

 互いに内なる闘気を練り、そして――。


「――シッ!」


 先に動いたのは向こうだった。

 闘気を宿した剣を地に叩き付けるように、衝撃波を放つ!


「甘いって!」


 (くう)を歪めて迫るほどのそれをわたしは、大上段からのサクラメントの一閃でねじ伏せ、霧散させた。

 けれど、激しく舞い上がった砂煙の先に、剣士の姿はなく――。


「――囮っ!?」


 代わりに、周囲に感じる複数の『同じ殺気』。

 それが、一斉に襲いかかってきて――!


「さ・せ・る・かあああっ!!」


 わたしもまた、練った闘気を身体中に巡らせ――瞬間的に限界を超えた動きで、5体もの剣士の『分身』からの連続攻撃を迎え撃つ。

 サクラメントで薙いで打って斬り、拳で払い、脚で弾き――すべてをさばききる。


 だけど、その分身攻撃すらも囮で――!


「終わりだ――!」


 本体は既に背後に回り込んでいて――無防備なわたしの背中を、強烈な殺気が刺す。


 サクラメントを回す余裕も、跳んでかわす猶予も無い。

 そもそも、それで捌ける攻撃かも分からない――と来れば……!


 思考が身体中に伝わるよりも早く、わたしは。

 サクラメントのつばにあたる部分を左手で握るや否や、分厚い刀身から『それ』を引き抜き――肩越しに背後へ向け、ノールックで『引き金』を引き絞る!


「――っ!?」


 雷鳴のような轟音とともに弾けた、わたしの闘気による『散弾』が――見えずとも、剣士の攻撃を跳ね返したのを実感した。


「これまで使わせるとか、ホントとんでもない相手だよ……」


 ゆっくりと剣士の方へ振り返りながら、わたしは改めて『それ』の銃口も向ける。


 どういう経緯だか、異世界〈麗原ノ慧殿(ウララガハラノエデン)〉に流れ着き……サクラメントを鍛えた鍛冶師によって、見た目はそのままに、闘気を弾丸として撃ち出すように作り直された軍用散弾銃(ショットガン)ベネリM4――。

 それがこれ、サクラメントに内蔵されたわたしのもう一つの武器〈聖契ノ鉄(テスタメント)〉だ。


「『罪を憎んで人を憎まず』がわたしの信条だからね。命までは取らない。

 だけど――。

 これ以上はさすがに、結構痛い目を見てもらうことになるよ?

 無益な争いはここまでにして、降参しない?」


 必然的にまた仕切り直しのような状態になったところで、わたしは声を掛ける。


「……俺に勝てるつもりでいるのか?」


「そりゃあ、カンタンにはいかないだろうけど……一応、わたしもまだ〈勇者〉なんだ。

 だから――あなたが何者だろうと、どれだけ強かろうと。

 もし、この世界の平和と人々の平穏、それをおびやかすようなことを企んでいるのなら――」


 そこで一度、言葉とともに、視線にも力を込め直す。


「負けはしない。何があろうとも、決して」


「…………」


 それでも、まるで動じた様子のない剣士は。

 鬼とも悪魔ともつかないそのマスクで、表情は見えはしないけど――笑ったような気がした。


 ――来る!


 そう感じて、気を張ったその瞬間――予想に反して、剣士は大きく後方に飛び退すさる。


「いいだろう。

 今日は、このあたりにしておくか――」


「――っ!? 待ちなさいっ!」


 逃がすものかとテスタメントを発砲するも――剣士は衝撃波を伴った斬撃で散弾を打ち払いつつ、さらに距離を取る。

 そして――



「じゃあな。また会おう、カノン。

 ……俺は、クローリヒト。

 お前と同じ――〈勇者〉だよ」



 そんな名乗りだけを置いて、夜闇の中へと姿を消したのだった。








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― 新着の感想 ―
[一言] いやあ良き対決でした!ごちそうさまでっす! しずかちゃんの異世界がまたなんか面白そうな感じで…… いつか番外編期待してます!
[一言] ふうむ、クローリヒトはどういう目的で現れたんでしょうね? 先輩として、後輩〈勇者〉の様子見をしに来たってところですかね?(笑)
[良い点] まさかのスタイリッシュガンアクションなセクスィヒーロースタイルだったとは……!?(笑) 一見、戦いでは邪魔でしかない振り袖を、崩しに使うのも凝ってて良かったですね~。 でもって、クローリ…
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