異世界も勇者もコリゴリだ
「うっわー……ホントにいるよ。
ある意味、わたしの存在と同レベルのファンタジーじゃないの、コレ」
『情報』通り、もう使われてない古い駐車場には、20人近い若者がバイクと一緒にたむろしていた。
いわゆる〈暴走族〉と呼ばれるような皆さんである。
今の時代、もはや創作物の中でしかお目にかかれない存在だと思ってたんだけど。
「まあ、そのレア度はさておき、やっかましいのは確かだね。
そりゃあ夜にこの騒ぎじゃ、近隣住民から苦情も出るってものか」
わたしは、両耳に手を被せて騒音を防ぎながら、一人、正面切って彼らに近付く。
でもって、明らかに場違いな制服姿の女子高生の登場に、何だ何だと集まってくる彼らに向かって、キッパリと告げた。
「えー、お集まりのおにーさん方!
ご近所の人たちが迷惑してるんで、集まって騒ぐの、やめてもらえます?」
「はあ? ぎゃっははは!
1人で来て何言ってンだ、このねーちゃん! だいじょーぶかよ!?」
そんな気はしてたけど、〈暴走族〉の皆さんに盛大に笑われてしまった。
「それじゃ、騒ぐのをやめるつもりはない、ってことでいい?」
「ぎゃはは、ったりめーだろが! バカじゃねーのか!?」
「オーケー、交渉決裂ね。分かっちゃいたけど」
わざとらしく肩をすくめたわたしは、取り囲む〈暴走族〉へと無防備に近付いていく。
……ニヤリと、不敵に笑いながら。
「んじゃ、『〈暴走族〉の一掃』クエスト……始めるとしますか。
みんな揃って、神妙に経験値になりなさい――ってね!」
そんなこんなで、主に鉄拳制裁により無事にクエストを終えたわたしは。
すっかり静かになった駐車場を後にしながら、スマホを取り出し電話を掛ける。
『……どど、どうだ? お、終わった?』
電話口から聞こえてきたのは、何ともダウナーな響きの女の子の声。
わたしの友達、ヒカリちゃんだ。
「もちろん。情報通りいたよ、レアな人たち。
バッチリ反省してもらったし、クエスト達成ってやつだね」
『わわ、わちしの情報だからな……と、当然なのだ。
ぞぞ、存分に感謝し、あ、崇め奉るがいいのだ……!
いひ、いひひ……っ』
「ん、ありがと。明日、ジュースでもおごるから」
『よよ、よし、言ったぞ……!
じゃあ、ぶぶ、ブランドマンゴーだけを使った、か、果汁100%の――!』
「あ、ゴメン、また明日!」
一方的に通話を切り――わたしはアスファルトを強く蹴って走り出す。
その見据える先には、赤信号の横断歩道と、当然そんなの気にしないでトテトテと渡るちっちゃなネコ。
そこに、すごい勢いで近付いてくる車の走行音が――!
「――っ!」
素早く道路に飛び出し、ネコを抱え上げるわたし。
そしてそのときにはもう、ヘッドライトの白い光がわたしたちを包んでいた。
明らかな法定速度超過のトラックは、すぐ側まで迫っている。
それは、常識的に考えて、急ブレーキ踏もうとわたしが避けようと、どうしようもない速度と距離。
そんな中わたしは、前でも後ろでもなく、真上に飛び上がると――。
迫るトラックのフロントガラスに、受け身を取るような形でタッチ。
運転席で驚愕の表情してるおじさんと、「スピードの出し過ぎには気を付けてね」って意志を込めて、ほんの一瞬、目を合わせ――。
そのまま、トラックと接触した勢いを殺すのに、身体をきりもみさせつつ上空に跳ねて。
甲高い音を上げて急ブレーキで止まったトラックの後方に、ふわりと着地する。
いわゆる、運が悪けりゃお星さま、運が良くても異世界転生まっしぐら――って状況だったけど……。
「ホント、異世界なんて、もうコリゴリなんだよね」
わたしは、何が起こったか分かってないネコを一撫でしてから、解放してあげると――。
大慌てでトラックから降りてくるおじさんに見つからないよう、そのままさっさと場を離れた。
「ま、これもちょっとは経験値になっただろうし?
それだけ、さらに普通の女子高生への道が近付いたってわけだね……!」
――そう。異世界で〈勇者〉をやるとか。
もうわたしには、間に合いすぎるぐらい間に合ってるんだから。