王子は勇者を拒絶する
そしてあたしたちは、地道に歩いて城門まで来たわけだけど。
·····出迎える態度じゃなくない?これ。
別に、到着した途端に花火が上がってパレードが始まるとまでは思ってなかったが、城門前には、厳つい顔と体格の騎士がずらっと並んでいる。そいつらが一様にこちらを睨んでいるのは気のせいか?
少なくとも、歓迎されている感じじゃない。ってか、明らかに拒否られてるよね?
「何のつもりか」
フェルが声を上げる。遺憾ながら、あたしも同じ意見だ。
「非礼は詫びよう」
騎士の間を割って出てきたのは···すっげぇイケメン。
ちょっと目付きはきつめだけど、顔のそれぞれのパーツがかなり整っている。動きやすそうにデザインされてはいるけど、ローブを着ているから、騎士ではなさそう。
でも、なんだか見覚えがあるような···?
「あれ、誰?」
あたしはフェルに尋ねる。
「奴はハーレークジャラード=ヴォイド=ベル」
名前長っ!
なに?名前長いのって、ファームの伝統だっけ?あたしもファーム国民だけど!
「ハクジャで良い」
あたしの心の声が聞こえでもしたか、青年が言う。多分、言われるの慣れてるんだろーな。
「ベル···?」
あたしたちがそんなやりとりをしている間、エバが、何故か眉をひそめていた。
その表情を見て、あたしは漸くハクジャを見たときの既視感の理由に思い当たった。
目付きの違いこそあるが、ハクジャはエバによく似ているのだ。黒い髪も瞳も、背の高さまでそっくり。兄弟だと言われたら、あっさり信じられるだろう。
けど、朗らかなエバに対して、ハクジャはどことなくきつい雰囲気があった。
しかし、この場で代表して発言するってことは、い並ぶ中でこいつが一番立場が上ってこと?あたしと同い年くらいに見えるが、意外と偉い身分なんだろうか。
「陛下に御目通りを」
「悪いが、それは無理だ」
「なんだ、それ。呼んだのは王様だろうに」
思わず呟いたあたしをその辺にいた騎士が睨んでくるが、睨まれる筋合いはない。ここはきっちり睨み返しておいた。
「十日以上もあったのだ。いい加減結論は出ていると思うが?」
だよね。
フェルの言葉に、ハクジャはほんの少しだけ申し訳なさそうな顔をした。本人も、一応それは自覚しているのだろうか。
しかし、ハクジャはエバを見て、
「彼に関しては、まだ議論が続いている
俺個人としては出来れば、このまま帰ってほしい」
なんだか、勝手なことを言う。
「それは、聞けん」
フェルがきっぱりと言う。
「どうするつもりだ。正式な許可もなく、彼を城に入れることは出来ないぞ」
「そんなもの、お前たちを排除してしまえば良い」
あ、魔法使う気だ。
あたしは察したが、止める気はない。後で色々問題にはなりそうだけど、どうせ、実行犯はフェルだし。とりあえず、エバの腕を引きつつ、あたしはフェルから距離をとった。
フェルの周囲で風がうなる。
それがそのまま、騎士たちへ襲いかかった。
が、
「無駄だ」
地面が隆起し、土の壁になってあたしたちの前に立ち塞がる。
土を操れるってことは、
「黄の魔道師!?」
今世界にいる魔道師は三人だけ。白のあたしと緑のフェルを抜かせば、消去法でそういうことになる。
「黄の魔道師はディンハードにいるんじゃなかったの?」
あたしの疑問にフェルが舌打ちしつつ、
「ディンハードの人間に間違いない。こいつは、ディンハードの王子だからな」
···今、とんでもないこと言わなかったか?
しかし隣で、やっぱり、とエバが呟く。
「やっぱりって、なに!?」
「ベルっていうのは、ディンハードの王族が名乗る名前なんだよ」
「なんで?」
「確か、千年前の勇者もディンハードって名前だったから、区別するため、って聞いたけど」
「なんで王族と同じ名前してたのよ?」
「さあねぇ」
中途半端な知識だな!
「それに、ディンハードの王子が魔道師とか聞いたことなかったけど」
まぁ、あたし、十四歳から村で閉鎖的生活してたから、世の中の流れには疎いけどね。
「俺も」
エバが同意する。これは一般常識ではないらしい。
「ハクジャはディンハードの第三王子。王位継承権が低いので、王族というより、魔道師兼外交官として扱われ、その職務上ファームにいることが多いんですよ」
フェルが解説する。多分あたしじゃなくて、エバに向かって。
王家にも色々事情があるんだね···って、おい。ちょっと待て。てことはこいつ他国の王子にずっとこの態度だったのか?不敬ってレベルじゃねぇぞ。
「よくクビにならないね。あんた」
てゆーか、こいつ王子に向かって容赦なく魔法撃ってたけど、大丈夫?国際問題じゃない?首はねられない?まぁ、どうでも良いけど。
「安心してください我が君」
フェルがエバに微笑みかける。
「今すぐ皆殺しにして道を開けます故」
安心出来ねぇ。
「やめて」
さすがにそれはエバが止める。血なまぐさいの嫌いって前に言ってたもんな。
「とにかく、ここは通せない」
ハクジャが改めて宣言する。
とにかくで意見をごり押しされるのは気に入らない。あたしはよくやるけどね。大体なんで、他国の王子が出張ってくるのよ。
と、文句を言ってやろうとしたとき、
「どうしようか」
エバがあたしとフェルに聞く。
城に入れないなんて事態、想定してなかったもんねぇ。
「やはり皆殺」
「駄目」
「じゃあ、これからどうしたら良いのよ」
すると、物騒なことばかりのたまっていたフェルが、漸くまともなことを言った。
「ならば、とりあえず、私の家にいらっしゃいますか?」