気になる人
「ごめんね、犬飼くん。厚生委員じゃないのに……」
明日から始まる挨拶強化週間のためのポスター貼り。
「別に」
今年から同じクラスになった犬飼壮真くんは、無口で無表情なクール男子だ。
一枚目を貼り終えて次の掲示板へ向かう途中、私は勇気を出して口を開いた。
「あ、あの、犬飼くんって――うわっ」
けれど、階段で足を滑らせてしまう。
「……大丈夫? 舞園さん」
私を支えてくれたのは、犬飼くんだった。
「うん。ありがとう」
「で、なに?」
「えっ? あっ……ごめん、忘れちゃった」
その後、残りのポスターも貼り終え、委員会への報告を済ませてクラスへと戻る。
既に荷物を鞄に詰め終えていた彼は、一足先に教室を後にした。
「……じゃあ」
「うん。また明日……」
私は一人、残された教室で溜め息を吐く。
(今日も訊けなかったなぁ……)
舞園遥香、十六歳。
最近気になる人は、筆箱に可愛い犬のキーホルダーをつけている、無口で無表情のクラスメイトの男の子だ。